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ズワイガニはオスとメスとで一般的に呼名が違います。また、水揚げされた場所によっても呼び名が違います。ちなみに、「松葉ガニ」とはズワイガニのオス、「コッペ」とはズワイガニのメスの呼び名です。
ズワイガニのオスとメスの呼名
【オス】
松葉ガニ(兵庫・鳥取)、越前ガニ(福井)、加能ガニ(石川)
舞鶴かに(舞鶴市)、間人ガニ(京丹後市丹後町)、大善ガニ(京丹後市網野町)
【メス】
コッペ(京都)、セコガニ(京都・福井・兵庫・鳥取)、オヤガニ(鳥取)、
コウバコ(石川)
ズワイガニのオス(左)とメス(右)
細長くすらっとした脚の形や脚の筋肉が松葉のように見えるからという説や、漁師が浜で松葉を焼いて「焼きガニ」を食べたという説などがありますが、正確なことは良く分かっていません。
オスは大きいものでは甲幅(甲羅の幅)が約15 cmにもなります。一方、メスの甲幅は7~8cm程度です。これらのオスやメスは、大きさは全く違いますが立派な親ガニです。
カニやエビなどの甲殻類は、脱皮を繰り返して大きくなります。メスは7~8 cm程度になると、成熟して産卵を行います(詳しくは、「3成熟と産卵」を参照)。産卵を行ったあとは、脱皮をしなくなります。つまり、それ以上は大きくならないということです。
それに対して、オスは脱皮を繰り返し、大きくなっていきます(詳しくは、「2脱皮と成長」を参照)。その結果として、同じ親ガニでもオスとメスとで、甲羅の大きさが全く違うわけです。
オス(下)とメス(上)。どちらも立派な親ガニ。
「オスガニ」も「水ガニ」も同じズワイガニのオスです。しかし、同じ甲羅の大きさでも「オスガニ」の価格は高価であるのに対し、「水ガニ」は比較的安価で取引されます。その理由は、「水ガニ」は「オスガニ」に比べると、ハサミや脚などの身入りが劣ること、またいわゆる「カニみそ」の量が少なく、質が劣るためです。
これは、脱皮と深く関係しています。つまり、「水ガニ」とは脱皮してからあまり月日が経っていないオスのことを言います。そのため、甲羅はもとより、体全体が「オスガニ」に比べると柔らかいのが特徴です。脱皮してからほぼ1年以上が過ぎると甲殻も硬くなり、身入りも良くなり「オスガニ」となります(詳しくは、「2脱皮と成長」を参照)。
甲羅が硬く、身入りが良いオスは、漁業者の皆さんや水揚げ市場の関係者の間では、「タテガニ」「カタガニ」などと呼ばれています。
なお、京都府では未成熟で、市場価値が低い「水ガニ」の漁獲を、2008年から全国に先駆けて漁業者の皆さんの自主規制により禁止にしています。このような取組みは、日本海西部の他県でも行われています。石川県では2013年から漁獲禁止、福井県では2004年から漁獲できる大きさを甲幅10 cm以上、兵庫・鳥取県では2001年から同じく10.5 cm以上とし、同時に漁期の短縮が行われています。
タテガ二の選別作業。甲羅の大きさ、歩脚の欠損や傷の有無などにより厳しく選別。
いわゆる「カニみそ」と呼ばれるもの(暗褐色)は、「肝膵臓(かんすいぞう)」「中腸腺(ちゅうちょうせん)」という器官で、消化吸収や養分の貯蔵などを行います。したがって、脳みそではありません。
また、オスの甲羅の中には白色で、粒状になったような部分がみられますが、これは精子を作り、貯蔵する「精巣」と「輸精管」です。ちなみに、メスの甲羅の中にある鮮やかなオレンジ色の部分は「卵巣」です。
肝膵臓:水色矢印(暗褐色の部分全体)精巣:黄緑色矢印輸精管:赤色矢印
ズワイガニはカニ類の中の「クモガニ科」に属します。「クモガニ科」の中には大小様々な種類がいます。ズワイガニは「クモガニ科」の中では大型の方ですが、最も大きいものは長い脚を持ち、脚を広げると3mにもなる「タカアシガニ」です。逆に、「クモガニ科」の中で小さい種類としては、甲羅の大きさが親ガニになっても1 cmに満たない「マメツブガニ」や「ヤワラガニ」などがいます。
ズワイガニの仲間は「ズワイガニ属」と呼ばれています。学名は、「Chionoecetes」(キオノエセテス)といいます。「ズワイガニ属」の5種を紹介します。
なお、この中で我が国の食用となっているのはズワイガニ、オオズワイガニ、ベニズワイガニの3種です。
本尾洋(1999)
標準和名ベニズワイガニ
学名Chionoecetes japonicus
英名red snow crab,beni-zuwai crab
特徴呼名のとおり、ズワイガニよりも体色が赤みを帯びています。また、甲羅の後縁部の傾斜が、ズワイガニやオオズワイガニよりも急なのが特徴です。日本海の水深500~2,000 mの海底に生息しています。山陰や北陸地方では、「かご縄」という漁法で獲られています。オスだけが漁獲の対象となっており、メスの漁獲は禁止されています。京都府では水揚げされていません。
標準和名ミゾズワイガニ
ズワイガニと並び人気の高いカニに「タラバガニ」があります。
この「タラバガニ」、「カニ」って呼ばれていますが、その姿を良く見ると脚が全部で8本しかありません。「タラバガニ」は「カニ」ではなく、実は「ヤドカリ」の仲間に入ります。この他に「ヤドカリ」の仲間では、「ハナサキガニ」「イバラガニ」「アブラガニ」などがあります。
(文献)
本尾洋.1999.日本海の幸(エビとカニ).地球環境シリーズ2.98pp.
L. S. Jadamec, W. E. Donaldson, and P. Cullenberg. 1999. Biological field techniques for Chionoecetes crabs. University of Alaska Sea Grant College Program. AK-SG-99-02.80pp.
ズワイガニとオオズワイガニとは、一目見ただけで区別するのは難しいかもしれません。しかし、ある部分を良く見れば、実は容易に識別することが出来ます。
それは、両眼の間の口に近い部分(epistomal plates)のかたちで、ズワイガニは水平、オオズワイガニはM型になっています。また、両眼の間の二股になったトゲ(rostrum)が、ズワイガニは水平に伸びており、オオズワイガニはやや上方に反っています。大きくはこの2点で識別ができるはずです。
両眼の間の口に近い部分:ズワイガニ(左)は水平、オオズワイガニ(右)はM型
両眼の間の二股になったトゲ:ズワイガニ(左)は水平、オオズワイガニ(右)は上方に反る
ズワイガニ(上)とオオズワイガニ(下)の甲羅
北極海のアラスカ沿岸域、グリーンランドの西海岸、北大西洋のカナダ沿岸域、太平洋の北米沿岸域、ベーリング海、オホーツク海、日本海、茨城県以北の太平洋沿岸域など広い範囲に生息しています。
日本海では大陸棚の縁辺部に当る水深約200~400 mの海域と、日本海のほぼ中央部に位置する大和堆に生息しています。
ズワイガニの分布域(L.S.Jadamecetal.(1999)などを参考に作図)
(文献)
L. S. Jadamec, W. E. Donaldson, and P. Cullenberg. 1999. Biological field techniques for Chionoecetescrabs. University of Alaska Sea Grant College Program. AK-SG-99-02.80pp.
太陽の光が全く届かない真っ暗な世界です。水温は年中0~3℃程度で、家庭用の冷蔵庫の中よりも冷たいところです。また、海底は軟らかい泥で覆われています。
このような海底でも、様々な生物が生息しています。中でも「クモヒトデ」というヒトデの仲間がたくさん見られます。
この他にも主なものとして、魚類ではアカガレイ(マガレイ)、ハタハタ、ノロゲンゲ(ノメ、グラ)、エビ類ではホッコクアカエビ(甘エビ)、クロザコエビ(泥エビ、白エビ)、モロトゲアカエビ(スジエビ)、貝類ではエッチュウバイ(白バイ)なども棲んでいます。
ズワイガニが棲む海底の様子。クモヒトデがたくさん生息しています。(1989年8月18日「しんかい2000」で観察)
一般的に体内に「浮袋」を持つ魚は、急激な水圧の変化に耐えられず、目玉が飛び出したり、口から胃が飛び出したりして死んでしまいますが、「浮袋」を持たない魚では、このようなことは起きません。
ズワイガニは「浮袋」は持たず、身体は硬い甲羅で守られているので、深い海底から船上に揚げられても死ぬことはありません。しかし、Q9でも述べたとおり、ズワイガニは非常に冷たい海底に棲んでいるので、水温や気温の高いところでは死んでしまいます。
深い海底に生息するズワイガニも、海水温を10℃以下に保てば、水族館のように浅くて小さな水槽でも飼育することは可能です。
水槽で飼育されているズワイガニ。水温は約3℃に保たれています。
ズワイガニは主に魚類(ただし、生きた魚は捕まえられないので、死んで海底に落ちた魚)、クモヒトデ、エビ類、イカ類、ゴカイ類などを食べていることが知られています。
魚の年齢は、「鱗」や頭の中に入っている「耳石」に刻まれる「年輪」の数から知ることができます。ところが、カニやエビなどの仲間(甲殻類)は、「鱗」や「耳石」を持たず、脱皮を繰り返して大きくなることから、年齢を調べることができません。
一般的には、カニやエビでは、年齢の代わりに脱皮の回数(これを脱皮齢期といいます)を使うことが多いです。1年に1回の脱皮であれば、脱皮齢期と年齢とが一致しますが、多くの場合には小さいときには1年に数回の脱皮を行うことから、脱皮齢期と年齢は一致しません。ズワイガニも同様です。
ズワイガニのメスでは、10回の脱皮を繰り返して「11齢」になると親ガニとなり、産卵を行うようになります(詳しくは、「3成熟と産卵」を参照)。オスの場合は少々複雑で、早いものは「10齢」で、遅いものはさらに脱皮を繰り返し「13齢」で親ガニとなります(詳しくは、「2脱皮と成長」を参照)。
黒い粒は「カニビル」という「ヒル」の仲間の卵です。
「ヒル」といえば「吸血鬼」のイメージがありますが、この「カニビル」はカニに何の害も与えません。この辺りの海底は軟らかい泥で覆われているために、「カニビル」が卵を産み付けることができる硬い場所がありません。そこで、その格好の場所となったのがズワイガニの甲羅というわけです。しかも、カニはあちこちに移動するために、「カニビル」にとっては自分達の生活域を広げることが出来ます。
「カニビル」は卵を生むためにカニの甲羅に付きますが、それ以外のときには海底の泥の中に生息し、カレイなどの魚類の体液を吸って生きています。
ところで、この「カニビル」の卵が、実はズワイガニの身入りなどをチェックするひとつの重要な鍵となっています。つまり、甲羅に「カニビル」の卵がたくさん付いているほど、ズワイガニの脱皮後の時間が経っており、ズワイガニの身入りがよく、上質であると判断されるのです。
甲羅に付いているカニビルとその卵
日本海では底曳網で獲っています(詳しくは、「5ズワイガニ漁業」を参照)。島根県の一部では、「かご縄」でも漁獲しています。
アメリカやカナダでは「かご」で、韓国では「刺し網」などでも漁獲しています。
ズワイガニを獲る底曳網漁船
約1時間網を曳いて、船上に網を引き揚げます。
網の一番後ろが袋状になっており、ここにズワイガニや他の魚がたくさん入ります。
漁獲物が船上に揚げられ、これからズワイガニやカレイなどが選別されます。
日本海西部(石川~鳥取県)のズワイガニ漁獲量は、近年2,000トン台で推移しています。1970年のはじめの頃は10,000トン以上の水揚げがありましたが、乱獲などの影響によって、1985年頃には1,500トンにまで減ってしまいました。その後は、漁業者の皆さんの資源管理の取組みなどにより、漁獲量は比較的安定しています。
京都府の漁獲量もほぼ同じような傾向にあります。1965年頃は300トン以上を水揚げしていましたが、70年代に入ると急激に減少しました。京都府では80年代に全国に先駆け、ズワイガニを積極的に保護するために、漁場の一部の海底にコンクリートブロックを設置した「ズワイガニ保護区」を造りました(詳しくは、「6ズワイガニの保護(資源管理)」を参照)。また、新たな資源管理の取組みも強化されるなど、漁獲量は2000年頃にかけて150~200トンと回復しました。その後は底曳網漁船の隻数の減少などの影響もあり、近年は年変動をともないながら100トン以下で推移しています。
ひとことで「ズワイガニ」といっても、実に様々な所で水揚げされています。石川県から島根県までの日本海西部、富山県以北の日本海北部、北海道のオホーツク海、三陸沖の北太平洋、また、海外ではカナダ、米国、ロシア、韓国などでも水揚げされ、我が国に輸入されているものもあります。外国産だから全て冷凍かと思えばそうではなく、生きたまま輸入されているものもあります。
では、地元京都府産の「オスガニ」を見分けるにはどうすれば良いのか?
京都府産の「オスガニ」には、写真のような「緑色のブレスレット」がハサミに付けられています。
ブレスレットのプレートには、片面に「ズワイガニの姿」と「京都」と刻印され、もう一方には「舞鶴」「たいざがに」「網野」の3種類のいずれかと「○○丸」という水揚げをした船名が刻印されています。
「舞鶴」とは府漁協舞鶴支所、「たいざがに」とは丹後支所、「網野」とは網野支所に所属する底曳網漁船により水揚げされたことを表しています。
「緑色のブレスレット」を付けたタテガニを一度食してみてください!
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