ここから本文です。
農林水産技術センターでは平成27年度から育種専門部会を設置しており、本会の茶業チームでは、関係機関と新品種に求められる特性や茶種など育種方針を協議しています。
今回は、煎茶用品種候補として選抜中の系統について、味や香りなど求評を行いました。併せて、これまでの育種の方向性の確認と現在の品種に対するニーズについての意見交換を行い、「他県産てん茶との品質差を打ち出すために、色だけでなく、味や香りの良い品種を育成すべき」などの意見が出ました。次年度は、茶業振興方針の改定が計画されており、育種方針についても検討することとなりました。
関係団体と育種方針について協議
2月17日(土)、「宇治茶に秘められた可能性」をテーマとした宇治茶イノベーション創出プラットフォーム※主催の第1回公開フォーラムを開催したところ、約120名の参加がありました。
当日は、農林水産省産業連携課長の髙橋仁志氏による6次産業化や農商工連携を後押しする施策についての講演、京都府立医科大学大学院准教授の内藤裕二氏による腸内細菌とお茶の機能性に関して特別講演がありました。続いて行われたパネルディスカッションでは、宇治茶のおいしさの科学的な裏付けやテアニンの機能性のPRなど、今後の宇治茶の方向性と当研究所に期待される役割について、コーディネーターの内藤准教授を中心に会場の出席者を交えての活発な議論が行われました。
水出してん茶を試飲しながらのポスターセッションでは、茶業研究所、企業、大学から研究紹介や製品展示が行われ、新たな研究開発に向け活発な情報交換が行われました。
※宇治茶イノベーション創出プラットフォーム:宇治茶産業のイノベーションに向け、分野横断の共同研究につなげることを目的として、異業種・異分野の企業・大学を含めた幅広い参加者間での情報共有、検討等を行う場
パネルディスカッションでの会場 ポスターセッションにおける
参加者とパネラーの活発な議論 企業、大学の交流
当研究所は本年1月に完了したリニューアル整備を契機として、更に先進的な技術開発に取り組み、イノベーション創出や宇治茶の価値・魅力を発信していくことを目指しています。
2月9日に開催した報告会では、高品質な宇治茶生産に欠かせない被覆栽培茶の樹体診断技術に関して報告するとともに、明日の宇治茶業界に貢献するための産学交流拠点としての機能や設備について説明しました。本報告会は京都府茶生産協議会が開催する茶業研修会の一環でもあり、生産者や茶業関係者など260名の参加がありました。
アンケートの結果、各報告については分かりやすくて良かったと高く評価され、新しい茶業研究所に対しては、「若い茶農家が気軽に立ち寄れる場所であってほしい」などの要望がありました。
今後、当研究所は異業種・異分野との連携を深め、宇治茶の消費拡大や新ビジネス創出につなげていきます。
第1報告「被覆茶樹における簡易な樹体 第2報告「茶業研究所 これまでの歩み、
診断法の開発」 これからの役割」
2月15日、緑茶審査技術の向上を目的とした平成29年度第2回緑茶審査技術研修会がJA全農京都主催で開催され、府内の茶業指導者約50名が参加しました。
当研究所職員は講師として出席し、茶業の指導において、茶園管理・製茶での技術的課題を抽出するために重要な技術である官能検査※について解説を行い、参加者からは、実際に茶市場で取り扱われたサンプルを用いた実習が分かりやすく有益であったと好評でした。
今後も、宇治茶の品質向上と産地の発展のため、的確な現地指導が行われるよう、茶業指導者を技術面から支援します。
※官能検査:人間の感覚(味覚、嗅覚、視覚など)を用いて品質を判定する方法
サンプルの審査をしながら解説
茶業研究所のリニューアルが完了し、1月17日に完成記念式典と公開シンポジウムを開催しました。
記念式典は180名の参加を得て、新本館・新工場の内覧会とあわせて行いました。企業・大学との連携を進める「オープンラボ」、機能性成分が豊富となる栽培環境を研究する「機能性発現評価室」、エネルギー効率の向上・小型化を目指して開発中の「新型てん茶機」など、最新の設備・機器に注目が集まりました。また、公開シンポジウムには約170名の参加があり、ブランディング戦略に関する基調講演とパネルディスカッションが行われました。パネリストからは、「異業種のつながりの中で、新たな技術開発、商品の開発につなげてほしい」などの意見が聞かれました。
今後、新たに設立した「宇治茶イノベーション創出プラットフォーム※」を通じて、異業種・異分野との連携を深め、宇治茶の消費拡大や新ビジネス創出につなげていきます。
※宇治茶イノベーション創出プラットフォーム:宇治茶産業のイノベーションに向け、分野横断の共同研究につなげることを目的として、異業種・異分野の企業・大学を含めた幅広い参加者間での情報共有、検討等を行う場
上段:(左)内覧会の様子と(右)オープンラボの機器
下段:公開シンポジウムでのパネルディスカッション
京都府茶生産協議会※が主催する平成29年度京都府優良品種茶園品評会の擬賞会議が12月6日に開催され、上位・特別賞の茶園が決定しました。茶園品評会は、生産者の栽培管理技術の向上を目的としており、茶園の栽培管理状況と生育状況について審査を行います。本年は府内各地から40点の出品があり、当所からは3名が審査員として参加しました。
今年は秋の長雨や台風による栽培管理、生育への影響が心配されましたが、上位の出品茶園は、肥培管理と病害虫防除などの茶園管理が念入りに行われており、枝条、葉の生育が旺盛で、均一性が高い茶園でした。今後、出品茶園で見られた本年の生育の特徴や栽培管理上の課題に基づき技術指導を行うなど、地域の栽培管理技術が向上するよう支援を続けていきます。
※京都府茶生産協議会…宇治茶の生産者でつくる団体
審査の様子(左:はさみ摘み茶園、右:手摘み茶園)
当所では、(公社) 京都府茶業会議所※との共催で、宇治茶の生産、流通、販売等に携わる若い担い手を対象とし、平成26年度から宇治茶アカデミーを開催しています。
経営力・発信力の向上、参加者同士の交流・連携の場づくりを目的としており、4年目となる今年度は「宇治茶の価値を見いだし、新たな商品の開発力を高める技術力及び発想力」をテーマに全4回の講座を予定しており、26名の受講生を迎え開講しました。
第1回は株式会社プロセスバンク代表取締役 得田裕介氏による「新商品開発に向けた発想力の向上」についての講演を受けた後、グループワークで活発な議論が交わされ、発想力を向上させる具体的な手法を学びました。
第1回で学んだ発想手法を踏まえて、次回以降、お茶の官能検査法、異分野交流や新商品開発の具体例について学び、宇治茶のイノベーションへとつなげる力を身につけていきます。
※京都府茶業会議所…宇治茶の生産者団体(京都府茶生産協議会)と、流通業者でつくる事業協同組合(京都府茶
協同組合)を会員とする公益社団法人
講演の様子 グループワークの様子
当所では、輸出に対応できる減農薬栽培と、はさみ摘み※1てん茶※2の需要増加に対応するため、病害虫に強く高品質なはさみ摘みてん茶用新品種の育成に取り組んでいます。
茶が開花する10月~11月にかけて、京都府で広く栽培されている高品質なてん茶用の2品種と、クワシロカイガラムシ※3に強い品種の人工交配を行っています。
今後は、本交配により形成された種子を播き、生長した個体の中から、クワシロカイガラムシに強く、かつ品質が良い個体を選んでいきます。
※1 はさみ摘み・・・・・動力摘採機等を用いて摘む方法。
※2 てん茶・・・・・・茶芽の生育期に被覆資材をかぶせて遮光栽培し、揉まずに乾燥した茶。抹茶の原料。
※3 クワシロカイガラムシ・・・・・茶樹の枝に寄生し、茶樹の樹勢を衰えさせる害虫。多発すると、落葉や枝の枯死など茶樹に大きな被害を与える。
人工交配(受粉)の様子 交配用の茶樹
(計画外の虫による交配を防ぐためネットで囲っています。)
茶業研究所では、農研機構果樹茶業研究部門で育成された、被覆栽培に適した緑茶用新品種「せいめい」について地域適応性や栽培・加工適性を試験しています(「農林水産業・食品産業科学技術研究推進事業」内で実施)。
今年度は、かぶせ茶※1としての製茶品質を評価しました。その結果、標準品種となる「やぶきた」と比べて、色沢が良い傾向が見られました。
今後は、引き続き収量や製茶品質などのデータを蓄積し、「せいめい」のてん茶※2としての適性を判定していきます。
※1 かぶせ茶・・・茶芽の生育期に被覆資材をかぶせて遮光栽培し、揉みながら乾燥した茶
※2 てん茶・・・・・茶芽の生育期に被覆資材をかぶせて遮光栽培し、揉まずに乾燥した茶
せいめい(摘採時) 測色計での色沢評価
粉砕したサンプル
府内では、直がけてん茶※の生産拡大に伴って、従来は一番茶のみであった被覆を、一番茶と二番茶で連続して行う茶園が増えています。そのため従来に比べ長期間被覆するため、光合成を行う期間が短くなり、翌年一番茶の収量が低下するなど、茶の樹勢低下が課題となっています。そこで当所では、樹勢低下を早い段階で検出し、収量低下や茶園の荒廃などを未然に防ぐために、樹冠面(茶の葉が茂っている表面部分)の熱画像から樹勢を診断する技術を開発しています。
これまでに、樹勢の低下した茶園では、夏場の樹冠面温度が通常より高くなる傾向があることが明らかとなっています。現在は、診断精度の向上を目指して、共同研究機関である静岡大学とともに、樹冠面温度と光合成能、蒸散量、遺伝子発現との関係について解析を進めています。今後、得られた結果に基づき、診断に適した時期や環境条件を明らかにします。
※直がけてん茶… 棚などを使わないで、樹冠面に直接被覆資材をかけて、栽培したてん茶。飲用から食品用まで
幅広い抹茶原料として用いられる。
左:熱画像 右:カメラによる画像 左:遺伝子解析用の葉、枝を採取
右:光合成能、蒸散量を測定
当所では、宇治茶を支える香り高い煎茶の生産に向けて、京都府独自の煎茶用新品種の育成を進めています。
新品種の候補となるのは、過去に選抜、収集した宇治在来種と奨励品種を交雑した22系統です。平成24~28年に初期生育の調査を行い、今年度から6系統について製茶品質の評価を開始しました。官能検査の結果、1系統で比較品種より香気や形状が優れました。
今後、残りの16系統についても製茶品質の評価を行い、所内で有望系統の選抜を進めます。有望系統については、育種専門部会での評価などを踏まえながら、早い段階での現地適応性試験の実施を目指します。
供試系統の栽培風景 官能検査(7月21日)
新品種育成計画
府内産茶の生産技術向上を目的として、7月4日・5日の2日間にわたり、京都府茶品評会審査会が開催されました。
当所は、審査員を担当するとともに、審査会補助員として、関係機関と連携し、審査用見本茶の準備や得点記録の集計など、円滑な審査会運営につとめました。
本年は、春先や4月下旬の低温により生育が遅れ、被覆や摘採の時期を判断するのが難しい年でしたが、出品されたお茶は、品質の高いものがそろっており、出品者の高い技術と努力が伺えました。
今後、審査結果を基に、栽培、製造方法について、関係機関を通じて出品者に改善点を伝えるなど、生産技術向上の支援を行います。
香りの審査 審査用見本茶への注湯作業
府内で生産が増加している直がけてん茶について、宇治茶の優位性を保ち、ブランドを維持・拡大するために、品質向上を目指した栽培技術の確立のための試験を今年度から開始しました。
今年度は、栽培技術を確立する際の目指すべき品質を明らかにするため、これまでに、茶市場に出荷された茶の品質関連成分の分析を行いました。今後、官能検査結果及び価格と品質関連成分との関連性を解析し、品質指標を作成していきます。
※直がけてん茶…棚などを使わないで、樹冠面に直接被覆資材をかけて、栽培したてん茶。
飲用から食品用まで、幅広い抹茶原料として用いられる。
当所では、一番茶の生育状況を把握するとともに、生産現場での被覆開始や摘採のタイミングを決める指標にするため、新芽の生育調査を行っています。
所内の定点茶園において、4月7日の萌芽宣言以後、4月10日から5月10日まで5日ごとに、新芽の長さと開葉数の調査を行い、ホームページなどで生育状況を公開し、生産者・茶業関係者へ情報提供を行いました。
なお、本年は、萌芽が平年より遅かったため、新芽の伸長、新葉の展開ともに平年同時期と比べ遅れて進み、摘採日は、自然仕立て園では平年より5日遅い5月12日、弧状仕立て園では平年より3日遅い5月10日となりました。
自然仕立ての生育調査(4月10日~5月10日)
品質と収量のバランスがとれた茶の摘採時期※1を判断するには、葉色や新芽の硬さを目安にするなど、長年の経験に基づく熟練の技が必要です。
当所では、経験の少ない生産者が、簡易に最適な摘採時期を判断できるように、平成28年度から近赤外光を用いた非破壊測定による摘採時期判定技術の開発を行っています。
昨年度、樹冠面の近赤外光反射率と繊維含有率※2などの新芽成分との関係を解析し、繊維含有率の推定に有効な近赤外光の波長域を絞り込みました。
今年度は、生育の年次変動による影響が少ない波長をさらに絞り込むために、新芽の生育ステージごとに測定を行いました。今後、生育ステージと近赤外光反射率の関係について、解析を進めます。
※1 茶の摘採時期と品質・収量の関係:
摘採が早い…品質は良いが、収量が少ない
摘採が遅い…収量は多いが、品質が良くない
※2 新芽の繊維含有率:新芽の硬さの指標
被覆棚下での樹冠面の近赤外光反射率測定 樹冠面の上から見た新芽の生育
4月7日に一番茶シーズンの到来を告げる平成29年度一番茶萌芽宣言※を行いました。本年は、3月の平均気温が平年と比べて低く経過したことから、前年より8日遅く、平年より2日遅い発表となりました。
同時に府内の生産者及び関係機関に、一番茶摘採に向けた準備、霜害対策の徹底を呼びかけました。
※ 萌芽宣言…当初作況園における萌芽日(全体の70%の新芽が包葉の約2倍の長さに達した時期)を公表
報道機関への説明
当所がメンバーとして参加している宇治茶ブランド拡大協議会では、ICTを活用した宇治茶の生産力向上プロジェクトを進めています。本プロジェクトでは、昨年度までに、ホームページ上で閲覧できる気象観測システムを構築し、既往の研究成果を基にした病害虫発生予測機能を搭載しました。
4月26日に本年度の方針について検討し、システムの機能をさらに充実させるために、山城地域内で環境測定ポイントを増設し、より多くの地点から気象・環境データを収集することが決まりました。
当所では、集められたデータを茶園管理に総合的に活用できるシステムの構築を目指して協力していきます。
増設される気象・環境センサー
センサー設置茶園の気象・環境データがホームページ上で閲覧可能
過去の月報はこちら
お問い合わせ