ふるさとトピックス!福知山、舞鶴、綾部
更新日:2024年6月19日
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この記事は海の京都Timesからの転載記事であり、内容は2022年11月9日時点のものです。
潮風が吹く砂地で育つ舞鶴市神崎の落花生。古くから生産されてきたが、農家の高齢化などで生産量が減っている。しかし、近年は砂地の厳しい環境で育つ故に栄養が蓄えられ、濃厚な味わいを生む落花生に注目が集まっており、「田舎の食文化を残したい」と復興に取り組んだ新たな生産者が生産量の復活に成功。大粒の新品種には京都市内の料亭なども重宝している。潮の香りをまとった幻の落花生に迫った。
美しい神崎海水浴場の砂浜
一級河川由良川が日本海にそそぐ神崎地区。古くは製塩業、海運業で栄えた。海辺一帯は若狭湾国定公園に指定されており、自然豊かな海水浴場を抱える。遠浅で、東西約2キロにも及ぶ砂浜は日本海側でも有数の海水浴スポットで、夏場は京阪神から多くのレジャー客がやってくる。
由良川から運ばれる広い砂浜。神崎は砂地が多く、米の生産に適していなかった。砂は土に比べて水を蓄えることができず、植物を育てるのは難しいからだ。盛んに栽培されたのは桑やサツマイモ、そして南京豆(落花生)だった。
さらさらとした神崎の砂
閉鎖された神崎ホフマン窯
昭和30年代、神崎の村に転機が訪れる。
かつて海軍鎮守府が置かれ軍港だった舞鶴市には、兵器を保管する赤れんが倉庫やれんが造りのトンネルが多く点在する。このれんがを製造し、供給していたのが神崎に残る「ホフマン窯」だった。
しかし、1958(昭和33)年、れんが需要の減退でホフマン窯は閉鎖に追いやられる。製造に従事していたのは約100人と伝えられており、住民は新たな収入源が必要になった。この頃から盛んに栽培されるようになった農産物の一つが落花生だった。
海近くの砂地で栽培される神崎の落花生は海の塩分に含まれるミネラルにより栗のような味わいになり、当時から評判だったという。ほとんどの家庭が栽培に従事し、村の通りには落花生を塩煎りする香りがたち込めたという。
高齢化が進む神崎地区
しかし、収穫から天日干し、乾燥、皮むき、塩煎りまで、ほとんどの工程を手作業で行い、出荷まで多くの時間と手間がかかった。外国産の台頭もあって栽培農家は徐々に減り、近年は地区の過疎化、高齢化が進んで生産量は減っていった。
神崎で栽培した落花生を手にする後守さん
こうした現状を知り、同じ舞鶴市内の加佐地域で農業を営む後守貴博さんは8年前、神崎の畑に落花生の種をまいた。「子どものころから食べていた落花生がなくなりつつあると聞き、何とかお手伝いがしたい」。そんな思いでいっぱいだった。
始めは1反の畑から栽培を始めた。後守さんは10年ほど前から障がいを持つ人と農業のマッチングを掲げて就労支援施設も運営しており、施設を利用する障がい者とともに落花生を生産することを決めた。
障がいを持つ人とともに栽培に取り組む
「田舎の食文化を残したいと始めた。そして障がいを持つ人と神崎の落花生の復活に取り組むことは非常に有意義なことだと感じた。今ではみんなのおかげで大量に生産できるようになった。そして地域産品の維持復興に役立っていることが、みんなのやりがいになっていると思う」
2年前に導入した焙煎機
神崎の落花生といえば塩煎り。昔ながらの味にこだわり3年間かけてレシピを完成させ、2年前には焙煎機を導入した。これをきっかけに大量生産に弾みがついた。今冬の出荷量は200~300キロを見込んいるという。
「就農者らが神崎の落花生に目を向けるきっかけをつくっていきたい」と話す後守さん
塩煎り落花生の価格は400グラムで3千円程度と高級品だが「甘みが強くてクリーミー」と評判で、舞鶴市内の直売所などに並べると飛ぶように売れるという。後守さんは「地元ではまだまだ売れるが、私たちだけでやれるものではない。これからも就農者らが神崎の落花生に目を向けるきっかけをつくっていきたい」と話す。
神崎の砂地で落花生の栽培に取り組む村上さん(左)ら
神崎で夏みかんの栽培などに取り組む村上貴是さんは7年前、神崎落花生部会を発足。仲間2人と落花生の栽培を始めた。
落花生はインゲン、ソラマメなどと同様に連作障害が起こりやすい作物。毎年種をまく砂地を変え、薬剤などに極力頼らない方法で栽培に取り組んでいる。
今年も大きく実った落花生を手にする村上さん
5月に種をまき、9月中旬に収穫する。村上さんがこだわるのは食感の良い大粒の落花生。1莢(さや)約10グラムもある”極大粒”品種の栽培に成功し、料理用として莢付きの”生”で出荷。京都市内の料亭や豊岡・城崎の料理旅館などに供給している。塩煎りを終えた落花生も12月に市場に出せば、年末にはほぼ完売する。
焼き上げたチーズケーキの最終チェックを行うソラアオの福本さん=京都市右京区の工房で
復活をとげた幻の落花生に心を奪われた菓子職人がいる。京都市右京区の人気ケーキ店「ソラアオ」のパティシエ、福本大二さんだ。
”京都のチーズケーキ専門店”をうたうソラアオは京都を代表する企業や店、そして特産品とコラボしたケーキを作り続けている。通販のみの展開で、2年待ちの商品もあるほど人気の店。メディアからの取材も多い。
「素材には絶対に妥協しない」という福本さん。良質な京都の食材を求める中、神崎の落花生とは偶然、出合った。
薄皮までおいしい神崎の落花生
知り合いの和菓子職人が作る評判のミカンゼリーに神崎の夏みかんが使用されていることを知り、生産者の村上さんを訪ねた。すると、落花生も栽培していることを知り、その場で塩煎りの落花生を試食。「濃厚な味で薄皮までおいしく衝撃的だった」と福本さんは振り返る。
福本さんはその場でこの落花生でチーズケーキを作りたいと伝え、村上さんは快諾した。そして生産者が減り、幻の落花生とも言われている現状を知り、多くの人に伝えたいとも思った。
完成した京都神崎落花生チーズケーキ
商品化に当たり、応援購入ができるクラウドファンディングを活用し、サイトで村上さんら生産者の思いも含めて現状を発信した。結果、約1カ月で688人から目標金額の30万円を大きく上回る503万3900円が集まり、反響の高さに驚いた。
完成したチーズケーキは薄皮ごとピーナッツバターにし、生地に混ぜて焼いている。生地の上にはローストしたピーナッツを細かく刻んでのせた。風味と食感の変化を楽しめるようにし、食材の良さを最大限に引き出した。
「ケーキを通じて府内のおいしい食材を発信したい」と話す福本さん
福本さんは「京都府内にはおいしい食材がたくさんあるが、発信力が弱いため埋もれているものがある。私がつくるチーズケーキでそういった部分を補い、生産者やまちが元気になって京都の発展につながればうれしい」と思いを話す。
村上さんは「まだまだ神崎の魅力はたくさんある」と語ってくれた
村上さんは落花生を食材にしたレシピなども作り公開している。新しい担い手を増やしたいとの思いで、栽培にとどまらず手塩にかけた農作物の発信にも余念がない。「神崎のポテンシャルはすごい。まだまだいろんな魅力がいっぱいあり、今後も神崎の『伝道師』として多くの人に魅力を伝えていけたら」と語った。
潮香る幻の落花生 舞鶴・神崎 | まちと文化 | 海の京都 Times (uminokyoto.jp)
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