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「文化財保護法」第1条の「目的」が明記しているとおり、文化財の保護とは「文化財を保存し、かつ、その活用を図り、もって国民の文化的向上に資するとともに、世界文化の進歩に貢献」することである。近年ではとりわけ「保存」と同時に如何に「その活用を図り」、この「目的」に沿うように努めるかが重視されている。
その意味で、今回、重要文化財に指定された京都府庁旧本館は、竣工から100年が経過し、府民が参画し協働するという、新しい地方自治が始まろうとしている中で、旧本館がその象徴として府民に親しまれ、開かれた利活用の場となることを願うとともに、重要文化財としての価値や観光・文化といった京都ならではの活用を念頭に置き、次の三つを基本コンセプトとした。
正庁、旧知事室、貴賓応接室等の2階四隅の部屋及び明治期の現存する議場としては全国 唯一である旧議場は、特に文化財的価値が高く、内装も含め元の姿にしっかり復原した上で、 貴重な近代化遺産の建造物として公開することとし、それらを含めて旧本館全体に以下の利活 用機能を持たせるとともに、観光資源として活用する。
正庁等は府民を対象とした表彰や結婚式、金婚式、コンサート等に利用するとともに、民間企業・団体等への貸し館利用も行い、中庭、前庭も含めて文化財としてのロケーションを生かした催事機能を持たせる。
また、旧議場についても、子ども議会等の自治を学び理解を深める場や講演会等に活用する。
文化財としての建物自身の「見せる価値」を生かしつつ、明治・大正・昭和の100年の京都府の歴史・文化など「京都府って何」を見て学べる小ミュージアム・展示機能を、旧知事室をはじめ2階南側等に設ける。
世代を越え国を越えて人と人とが出会い、京都の伝統・生活文化や文化財に親しみ、現代京都の有形無形の特色を国内外に発信し、子どもや若者たちにも伝えられる、にぎわいのある交流の場を東側に設ける。
新しい自治の象徴として府民交流、府民参画、府民協働の拠点となるNPOと行政との連携・交流の場等、21世紀協働型の行政のシンボルとなる府民活動を応援する機能を東側に設ける。
府庁の中にある立地を生かし、府民に情報を公開し、わかりやすく情報を伝え、広く府民への相談にも答えられる、府民の利便性を考慮した情報共有機能を西側に設ける。
四季の変化に応じた利活用ができる「憩い」「出会い」「にぎわい」の広場として、中庭や前庭を自由に散策でき、コンサートなどが楽しめる空間に整備する。
旧本館内に個性豊かなレトロな喫茶室又はレストランの誘致を図る。
100年間現役の行政庁舎として使用してきたことは、この建物の大きな特徴でもあり、上記各機能が効果的に発揮できるよう関係行政部門も入居した行政庁舎としても活用する。
内装も含め元の姿にしっかり復原するところと、利活用の実態に応じた修復や傷みが進まない程度の必要な補修にとどめ、大がかりな整備を行わないところとのメリハリをつける。
1 復原し格式ある儀式や会議の場に活用するとともに公開
2 府民を対象とした表彰式やコンサート、展示会、講演会、結婚式や金婚式などの催事会場として多目的に活用
復原し明治期の知事室として公開
1 唯一現存する明治期の議場として、2階傍聴席も含めて復原し公開
2 府民が広く利用できることを前提に、明治期の議場の雰囲気を生かした活用を図る
例:
子ども議会、明治模擬議会、出前講話、講演会、コンサート、修学旅行生や小・中学生の総合学習の場
1 貴賓応接室は復原し、賓客等の応接や会議等の場に活用するとともに公開
2 旧議長室、参事会室は復原して府民利用も含めた会議室として活用するとともに公開
3 その他2階南側の諸室は、建具・内装・間仕切り壁を保全の上、明治・大正・昭和の100年の府政や地域の歴史・文化など「京都府って何」を見て学べる展示を行い公開
NPO等のサポート機能を備えた府民交流、府民参画、府民協働エリア
例:
NPOと行政とのパートナーシップセンター
茶文化や着物文化など、人と人との交流を通して体感できる場
京都の伝統工芸の展示、実演(若手新進工芸家等)異なる文化を持つ人と人との交流の場
個性豊かなレトロな喫茶室又はレストラン
1階西側と2階西側
1 府民との情報共有エリアとして活用
あわせて観光や文化等に関する情報を映像により提供
例:
府政情報センター
府民相談
IT機能を活用したミニミュージアム
文化財アーカイブ
2 行政機能エリア
府民の憩い、出会い、にぎわいの広場として活用
例:
散策、コンサート、FMラジオの公開放送
1 イベント開催時や季節・期間を定めてのライトアップ
2 ドラマや映画撮影のロケ地
3 釜座通りの並木道と正面の外観を組み合わせた観光資源として発信
(1)整備の進捗にあわせて段階的に公開を進めることとし、最終的には常時公開を基本とする。また、御所の一般公開等、周辺エリアのイベント開催時等にあわせ、歩いて回れる「界わい」的な連携を図り、公開範囲、季節・期間を定めて積極的にアピールする。イベントによっては夜間も公開する。
(2)特に府民交流、府民参画、府民協働エリアについては夜間や土・日曜日も開放する。
(1)利活用の内容に応じて民間活力を積極的に導入する。特に府民交流、府民参画、府民協働エリアの企画運営は民間主導で行うこととし、企画コンペやプロポーザル方式で運営主体を募集する。
(2)府民交流、府民参画、府民協働エリア以外についても、重要文化財であることを十分認識した上で、可能な限り府民ボランティア等の民間活力の導入を図る。
(3)旧本館の最終的な管理は府が行うこととし、基本コンセプトにあった利活用を円滑に進めるための運営組織を検討する必要がある。
(1)現在4か所あるトイレはいずれも入り口が男女共通で段差があり、和式で身障者対応ができていない。男女別に区分し、やすらぎ感のあるバリアフリー対応のものに改修する。
(2)エレベータがなく、車椅子等身障者の1階と2階の動線確保ができていない。文化財としての建物の形状を可能な限り変えない方法で、エレベータを設置する。
平成8年の耐震調査の結果、大規模地震に対応できる強度が不足している。その後の屋根改修時に一部補強されている状況もあり、再度詳しい調査を実施した上で、文化財の保存と府民の利活用を視点に据え、耐震補強の程度、手法を検討し、耐震対策を実施する必要がある。
(1)財政状況を勘案し、1基本調査、2実施設計、3建物整備を計画的(5年~10年)に実施する。整備期間中は館の休止期間ととらえず、文化財の保存と復原の教科書として、見学会や学習会を開催し広報することにより、完成までのプログラムを「学びの場・見せる場」ととらえて活用する。
(2)ソフト面の利活用をはじめ、大きな整備を伴わずに実施できるものから府民への利活用を図っていく。
(3)復原整備、安全対策等の財源は国庫補助を活用するとともに、府民の財産として保存と利活用を図る観点から、府民公募債による資金の調達についても検討する。
1号館と旧本館を有機的に連携させた活用を図るため設置しようとしたものであるが、渡り廊下をつなぐことは庁舎機能の利便性を高めるとしても、国の重要文化財の指定を受けた建物自身の価値を損ねる恐れがあることにも、十分留意する必要がある。
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