新春対談 継承と創造 京都文化を世界へ
京都府知事
西脇 隆俊
歌舞伎俳優
松本 幸四郎さん
Profile
松本 幸四郎さん
1973年1月、六代目市川染五郎(二代目松本白鸚)の長男として東京都に生まれる。79年、歌舞伎座『侠客春雨傘(きょうかくはるさめがさ)』で三代目松本金太郎を襲名し初舞台。81年には歌舞伎座『仮名手本忠臣蔵(かなでほんちゅうしんぐら)』で七代目市川染五郎を、2018年に歌舞伎座 高麗屋三代襲名披露公演『壽 初春大歌舞伎(ことぶき はつはるおおかぶき)』で十代目松本幸四郎を襲名。古典から新作まで幅広い演目に取り組む一方、俳優として映画やドラマでも活躍。大阪・関西万博のアンバサダーも務める。
歌舞伎俳優であると同時に、舞台や映画、ドラマなどでも幅広く活躍する、十代目松本幸四郎さんを迎え、京都との縁、歌舞伎や時代劇を受け継ぐ上での思い、そして、松本さんがアンバサダーを務める今年の「大阪・関西万博」への展望などについて語り合いました。
京都は「自分を育ててくれた場所」
西脇松本さんとのご縁は2018年、南座発祥400年 南座新開場の時でしたね。69人もの歌舞伎役者さんが紋付袴(はかま)姿で練り歩くさまは実に壮観でした。
松本あれはすごかったですね。やはり歌舞伎発祥の地である南座の前で、その歴史の重さや伝統の厚みを肌で感じながら歩いた「お練り」には、格別の思いがありました。
西脇新開場した南座の舞台で、私も「翁(おきな)渡しの儀」を初めて経験させてもらいました。あの日、お父上の白鸚(はくおう)さん、幸四郎さん、ご子息の染五郎さんが三代襲名披露されたお姿も鮮明に覚えています。
松本実は前回(1981年)の南座新開場の時も、私は染五郎として三代襲名披露をさせていただいたんですよ。
西脇何と2回目とは。南座、そして京都とは浅からぬご縁がおありなんですね。
松本そうなんです。祖父の代からお付き合いのある方から「この前の舞台、先代はもっとこうだったよ」とご指摘を頂くことも…。そんなふうにお客さまから厳しくも温かい目で見守られ、育てていただける場所は京都しかありません。
西脇京都は日本の映画発祥の地でもあり、京都の撮影所から数々の時代劇の名作が世に出ました。昨年、公開された松本さん主演の映画『鬼平犯科帳』も京都で撮影されていますね。
松本ええ。叔父が最初の『鬼平犯科帳』を撮影した時にスタッフだった方が今回、監督をされたんですよ。私自身、京都の撮影所には10代の頃からお世話になっていて、監督はもちろん、照明や音響、衣裳など、関わる全てのスタッフから、数え切れないほど多くのことを学びました。ここでの撮影は緊張感がありますし、毎回よい刺激を受けています。いろんな意味で、京都は私にとって自分を育ててくれた特別な場所です。
文化は日常の中にあってこそ
西脇松本さんは6歳で初舞台に立たれたわけですが、幼少期は歌舞伎とどのように向き合っておられたのでしょうか。
松本物心つく前から祖父や父の舞台を観て、歌舞伎を「格好良いもの」と感じて育ちました。遊びは、もっぱら歌舞伎ごっこ。特に『勧進帳(かんじんちょう)』の弁慶に憧れて、よくまねをしていました。幼い頃から踊りや歌の稽古にも通っていましたし、歌舞伎は日常の中にあるものだったんです。いま振り返ると、とても貴重な経験だったことを実感します。
大阪での襲名披露公演で『勧進帳』の弁慶を勤める松本幸四郎さん=2018年7月、大阪市中央区の大阪松竹座(Copyright)松竹
2歳の頃、弁慶に扮装(ふんそう)して遊んだ(松本幸四郎さん提供)
西脇やはり子どもの頃から“本物”を体験することは、文化を継承していく上でも非常に重要ですね。府では、文化の心次世代継承事業の一環で、「学校・アート・出会いプロジェクト」を実施し、古典芸能や伝統工芸、音楽、美術など、さまざまな分野の専門家を学校に派遣し、子どもたちが文化に触れる機会を創出しています。
府内の小中学校や特別支援学校に、文化芸術体験事業の専門家を派遣する
「学校・アート・出会いプロジェクト」の様子
松本伝統芸能は「難しいもの」というイメージを持っている人も多いので、まずは子どもたちに、映画を見に行くのと同じくらい身近な選択肢として、「歌舞伎を見に行きたい」と思ってもらえるようになるとうれしいですね。文化って肩肘張るものではなく、日常に存在するものだからこそ、今日(こんにち)まで残っているものだと思いますし。
西脇そうですね。京都では神社仏閣がその典型例かもしれません。歴史的建造物を、単に遺跡として保存するのではなく、毎日お経をあげたり、参拝者が訪れたり、そこに何らかの営みがある。各家庭の日常生活でも、折々にお花を生けたり、急須でお茶を淹(い)れたりする中に文化が息づいています。一昨年、文化庁が京都に移転し、食文化や文化観光、さらにはマンガやゲームなど、より幅広い分野を文化として守り発展させようという動きが進んでいます。
挑戦から始まる新たな文化の創造
継承してきたのは、工夫し革新し続ける精神
革新と創造を重ねて、文化を次代へつないでいく
松本京都は、古いものがただ残っている場所というわけではないんですよね。実は歌舞伎も、新作は京都で積極的に生み出されていて、南座の初演から全国に広がった作品も多いんです。文化を守るだけでなく、そこに新しい要素を採り入れたり、独自の価値観を加えたりしながら革新的に進化してきた。それが京都の面白いところであり、魅力でもあると思います。
西脇伝統に根差し、革新を続けてきたという文化的な背景があるからこそ、ハイテク企業が育つというのも京都の特徴なんです。清水焼や京仏具、西陣織などをルーツに持つ町工場が、日本を代表するグローバル企業に成長した例も少なくありません。
松本映画の制作に関しても、京都には時代劇を作ってきた歴史があり、その技術が昨年、第76回エミー賞で史上最多18部門を受賞したドラマ『SHOGUN 将軍』で世界をうならせましたよね。
西脇あの作品では、かつらや殺陣(たて)指導などに京都の撮影所の専門家が起用されたそうですね。この世界に誇るべき技の集積を活かすとともに、次世代の映像技術の開発と人材育成を図るため、「太秦(うずまさ)メディアパーク構想」に基づいて、AR・VRなどを学ぶアカデミーの設立や企業の誘致を推進しているところなんです。
2023年6月に松竹京都撮影所で「京都におけるコンテンツ産業の強みと未来」をテーマに、
映画やアニメ、ゲーム、メタバースの各分野に携わる方々と共にトークイベントを開催
松本それは楽しみです。最近、時代劇にもCGなど新たな技術がどんどん採り入れられていますからね。
西脇世界をうならせるということでは、松本さんは海外公演にも積極的に取り組まれ、2015年にラスベガスのベラージオの噴水で『鯉(こい)つかみ』を上演されていますね。
松本歌舞伎のアクションと噴水、映像技術を組み合わせるという実験的な取り組みでした。演出を考えるに当たって現地スタッフに相談したら「何ができるかではなく、あなたが何をしたいかだ」と言われてハッとしたんです。これは歌舞伎の精神にも通じることだなと。
西脇「傾(かぶ)く」という語源の通り、歌舞伎はまさに新しいことへの挑戦から始まった舞台芸術ですからね。
松本ええ。江戸時代から今日まで上演し続けている作品が多くある一方で、当時のまま上演しているものは一つもありません。なぜなら、いつの時代も「今を生きる人たちにどう感動していただくか」を考え、試行錯誤を重ねてきたからです。先輩方が教えてくださるのはあくまで基本の型で、「ここからどう工夫するかはキミ次第だよ」と自分で考えさせる。私たちが継承してきた伝統は、この「工夫する精神」そのものなんです。
西脇京都に千年以上の時を越えて伝統文化が継承されてきたのも、常に時代ごとの変化を捉えながら、革新と創造を重ねてきたからなんですよね。だからこそ時に淘汰(とうた)されない強さがある。
大阪・関西万博に向けて
西脇いよいよ今年4月に開幕する「大阪・関西万博」で、松本さんはアンバサダーを務めておられます。万博への思いをお聞かせ願えますか。
松本まずは歌舞伎の世界に身を置く立場として、伝統芸能の魅力を世界に発信したいと思っています。万博は世界中から日本に人が集まる機会ですから、開催地である関西の中で、とりわけ文化の中心地、京都への注目はより高まることでしょう。そんな京都にお住まいの皆さんには、この地で先人たちが伝統を守り、進化させてきたことにぜひ誇りを持っていただいて、この万博を京都の文化の持つ“創造の力”を発信する機会にしていただきたいですね。
西脇そうですね。今回の万博に向けて、府では各市町村、経済界などと一体となって、オール京都体制での取り組みを進めています。そうした取り組みの一環である「きょうとまるごとお茶の博覧会」「Music Fusion in Kyoto音楽祭」といったイベントを通して、国内外から訪れる方々に府内各地を周遊していただきたいと考えています。
松本いいですね。私もぜひ「もうひとつの京都」を巡ってみたいと思います。
西脇万博のテーマは「いのち輝く未来社会のデザイン」。さまざまな先端技術が集いますが、技術の土台となる創造や革新の精神は京都に息づく文化の中に継承されています。そんな京都文化を世界へ発信し次代へつないでいく機会とするとともに、万博がこれからの京都づくりの足がかりにもなるよう、府民の皆さんと共に盛り上げていきたいと思います。本日はありがとうございました。
大阪・関西万博における関西パビリオン京都ブースのイメージ。
「一座建立(こんりゅう)」をテーマに一定期間ごとに展示を替えながら
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