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北山丸太生産の伝統技法「本仕込み」を行う唯一の親方

尾島俊明(おじまとしあき)さん

尾島さんのプロフィール

  • 代々北山杉の育林作業に従事する家に生まれ、現在は「尾島組」の親方(常時3人、臨時で2~3名を雇用)として、主に京都市北区北山林業地域(一部右京区を含む)で北山杉の枝打ち等、育林から伐出までの一連の作業の請け負いをはじめ、京都市内での造園作業や京都御所の庭木手入れまで幅広く仕事をされています。 
  • 40年余りにわたり北山丸太の生産に携わってきた経験と知識を活かし、全国銘木青年連合会が主催する研修会の講師やパネルディスカッションのパネラーなど、北山丸太のPR活動もされており、 平成18年度には「磨き丸太づくり」で「森の名手・名人※」に選定されました。

(※森に関わる生業において、すぐれた技を極め、他の模範となっている達人を、社団法人国土緑化推進機構が毎年、「森の名手・名人」として選定・表彰しています。)

  • 北山丸太は、和室の床柱などに使われる高級材で、直円で艶のある「磨丸太」の他、木肌にしわが入った「絞丸太(しぼりまるた、しぼまるた)」などがあります。独特の気品ある光沢と色上がりを良くし、干割れ(ひわれ)の生じにくい丸太に仕上げるため、「本仕込み」と呼ぶ伝統的な作業が行われます。これは伐採した丸太を山で立たせたままの状態で皮を剥き、天日で乾燥させるもので、尾島さんは「本仕込み」を行う「組」(加工技術集団)を束ねるとともに、その優れた技の伝承に努めておられます。

北山杉と共に歩んでこられた道のりをうかがいました

  • 「親父は、薪、炭焼き等の燃料づくりが主で、戦後に磨丸太づくりを始めた。当時親父は、若い者2人を雇っていたが、45歳で亡くなり、母親は交通事故に遭った。自分と姉だけが社会人で、弟2人妹1人の生活を見る必要に迫られ、東京オリンピックの年にやむなく山に帰った。当時、山仕事は町のサラリーマンよりは身入りが良かったが、仕事は危険と隣合わせで、『怪我と弁当は自分持ち』と相場が決まっていた。労災保険も無く、『死んだら死に損、それでおしまい』、それが当たり前の時代だった。」

  • 「北山の中川地域に本仕込みの出来るチームが3つあり、そのチームのひとつに自分は入っていた。今はそれが減って自分のところの1チームのみとなっている。本仕込みの仕事が多かりし頃、奈良県の吉野林業の林業研究グループが私たちの技術を学ぼうと何度も視察に来ていた。色々と質問をうける中で、吉野に来ないかと誘われた。『苗は買えるが技術は買えない。年間300万円で10年間来てくれ』、と言われ、のどから手が出るほどの魅力的な話であったが、『技術を売ることは里を売ること』、墓参りも出来ないのはかなわない。今ならどうと言うことはないが、当時はそんなことが出来るような時代ではなく、俺は断った。また、会社組織のところに誘われたが、会社に管理されるような仕事はどうも肌が合わないから、と断った。それ以後、馬の合う若い者とチームを組んで請負で仕事を始め現在に至っている。」

こだわり

 「家の事情で山に戻って来て以来、色々な人と仕事をしてきたが、他の人と同じことをしていてはいけない、同じレベルでは進歩がないと感じた。人の上を行くモノを持たなければダメ。一日の糧を金銭で換算するのが仕事師で、一日の仕事の満足感を得るのが職人である。そういう『こだわり』を持つ職人としての俺に若い子が付いて来ている。俺は『若い者に追い越されてたまるか!』という信念を持っている。常に最高の技術を追い求め、前進しているからだと思う。職人としての技術の魅力に付いてくる。銭・金の問題ではない。」

人間、ビビったら終わり

「北山杉の7丁取り(地上21m)の高さで枝締め作業をした時のこと。その現場の北山杉は急斜面の中腹に生えているのでその高低差はすごい。そこからの高低差は国道まで50m、清滝川までおよそ100mはあっただろうか。風が吹き、木の上の揺れは大きく、目がくらむ。そんな自分に『人間ビビったら終わり』と言い聞かせ、『死んでもええわい』くらいの気持ちで作業をしたものだ。」

安全は緊張感で!

  • 「人間は適度な緊張感を持って常に仕事をしなければならない。朝のかかり、昼前、昼のかかり、仕事終了の前の4つの時間帯は特に注意が必要と言っている。緊張感の無さが仕事の質の低下や事故につながる。緊張感を持ち続けてやってきたのが良かったと思う。」

北山杉、北山丸太は北山地域が生んだ芸術

  • 「北山杉の形成する独特な景観、また北山台杉の樹形は、実益と鑑賞を兼ね備えた、北山地域が丸太生産のために生んだ最高の芸術なのである。その姿が人の心を惹き付け、川端康成の「古都」の文学の世界と併せて魅力となり、大勢の人々の心を引きつけているのだと思う。
  • 北山丸太は「温かみ」、床柱は「温もり」を感じさせる。家も柱も時間と共に変化するが、このスギは光沢が出てくるし、飽きが来ない。家は親しめるのが一番、今の家は機能性が良いかもしれないがあまり親しみは湧かないのではないかと思う。」

  • 「今の林業の現状では元気が出ない、夢も持ちにくい。しかし『我々は山の中の懲りない面々』ですわ!ここで生まれ育ったからには、この世界でやっていかなければならない。 」
  • 「他人の山の仕事だけでは物足りず、自分の山を育てる面白みを味わおうと夢を持って山を買った。息子も『山をやる』といい、夢を持って木を育ててきた。しかし、今は丸太の価値が下がって3分の1や、どうすんねん?これからは、好きな時間に自分の山へ行き、炭を焼いたり畑の世話をしたい。」

一口コラム:一番好きな植物は?  

  • 「人知れず咲いている『リンドウ』、『センブリ』の花。素朴である。自分の誇りを持って、人に見られようが見られまいが、一所懸命に生きていくことが大切だと感じさせてくれた。」

 

  • 連絡先:京都・杉坂 電話075-406-2875

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