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2月半ばのある昼下がり、栗田湾に浮かんだ海面生け簀に出てみました。初春の陽射しが煌めく海面を透かして目を凝らすと、30センチほどの長さに育った褐色の海藻が揺らめいています。年末には目につかなかったのに、大雪の続いたこのひと月半ほどの間に大きく育ったワカメです。昨年の初夏、同じ場所に胞子の出尽くしたメカブ(ワカメの下部でひだひだのボール状になったところ)がついているよれよれのワカメがあったので、季節の移ろいとともに世代交代をしたのでしょう。
丹後の漁村では、これから5月頃までがワカメ刈りの季節で、磯場に多くの小舟を漕ぎ出し、箱メガネで海底を覗きながら、長い竹竿の先に付けた鎌で根元から刈り取ります。刈り取ったワカメは、水洗いをして乾燥させますが、経ヶ岬をはさんで東と西でできあがりの姿が異なります。東側の若狭湾側では、そのまま縄などに吊して干して「絞りワカメ」に、西側では、竹網の上に薄く拡げて干して「板ワカメ」に仕上げます。いずれも、さっと火で炙って熱いご飯に振りかけて食べると、春の海を感じさせる最高の味です。
日本人にとって昆布とともにお馴染みのワカメですが、現在流通しているものは養殖ものが大勢を占めています。京都府でも昭和50時代は、養殖と加工の技術普及と改良が図られ、舞鶴湾のほか宮津市、伊根町、丹後町、網野町の外海でも養殖されていましたが、今では舞鶴市大浦半島の一部で行われるだけとなっています。
(平成24年2月29日 中路 実)
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