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知恵の経営、元気印、経営革新、チャレンジ・バイの各認定等を受けた府内中小企業を紹介するページです。
(掲載日 平成30年4月16日 聞き手・文:ものづくり振興課 上井)
株式会社ヤサカ(外部リンク)(京都市山科区)の西井康博代表取締役様にお話をお伺いしました。
―東京ビッグサイト「新価値創造展2017」出展など積極的に活動されていますが、まずは、御社の事業概要を教えてください。
西井)精密金型の設計・製作がメインの金型屋です。異形状の金型製造を得意としています。金型は、粉末冶金用・プラスチック用の両方に対応しておりまして、そうしたところは珍しいと思います。いずれも自動車用用途が50%以上です。近年、精密金型の需要は増しており、売上の主な部分を占めています。当社はプラスチック、セラミック、金属の精密部品の量産には欠かせない金型を製作しており、常に先端技術や新製品に関っています。社員は、経営陣をのぞくと13名、うち10名が職人です。
―お若いときに急に社長職を継がれることになり、苦労なさったと伺いました。
西井)先代社長である私の父(現・会長)が、同じ山科区の別の場所で「八阪精工」という名前で創業しました。当時は精密プレス金型や成型研磨加工が主な事業内容でした。昭和55年から精密プラスチック金型の製作を開始し、有限会社設立を経て現在地に移転し、昭和60年から自動車部品の試作やロータリープレス部品の製作を開始しました。その後、併設した(株)ヤサカの方に八阪精工(有)を吸収合併しまして、平成18年に工場を増築して最新設備を導入し、精密プラスチック金型の増産を開始いたしました。ところが、10年ほど前に父が病気で倒れたため、私が30歳そこそこで急に社長職を継ぐことになったのです。私自身は幼い頃から父の働く姿を見てものづくりの楽しさを感じており、専門学校卒業後、2年ほど他社で勤めた後この会社で働いていましたが、後を継ぐとかそういうことはまだ先のことだと思っておりましたので、とにかく慌てました。当時はリーマンショックの最中で仕事が無く、休業も余儀なくされ、本当に悲惨な状況でした。
―そこから、どのように会社を建て直されたのでしょうか。
西井)発想の転換です。といえば聞こえが良いのですが、弊社のような中小企業は、新しいことをやろうと思っても、そう簡単に新しい設備を導入することはできませんので、「今ある設備・今いる人でできること」を考えました。たとえば、自動車部品の試作の仕事が激減しましたが、「受注量が読めない」等、弊社にとってはデメリットもあり、粉末冶金(焼結合金)金型の製作や精密プラスチック金型など金型事業を中心に据えて取組むことにしました。幸い、先代からの熟練の職人が残ってくれていましたし、また、設備は同じでも工程を変えてみる、といったようなことも、考えつくことは何でもチャレンジし、お客様のニーズに応えられるよう日夜努力する傍らで若手を指導し全体のスキルアップも図りましたので、難易度の高い高精度な金型にも対応出来るようになりました。平成24年度には、(公財)京都産業21の設備投資の補助金を受けることもでき、結果、業績はV字回復をたどり今期は10年前の1.5倍の売上を見込んでおります。
―そのあたり、もう少し詳しく教えてください。
西井)粉末冶金は、切削加工と異なり、金属粉末を金型でプレス成形し、焼結させる製造法のため、材料の組成や製品の形状に大きな自由度を持たせることができる製造法です。多彩な素材を混合出来ることから、新素材や新製品の部品製造の現場で今後ますます多く取り入れられていく可能性があります。それに伴い、粉末冶金金型の需要も拡大し、その形状も複雑化していくものと思いますが、それらは当然高温高圧下で使われることが前提ですので、どのような環境・形状でも安定した品質を保つ必要があります。そのため私たちは、自らが治工具を設計製作して高精度に仕上げるとともに、高価な3次元形状測定器を導入して緻密な寸法測定に裏付けされた精度保証に努めております。
―お客様の反応はいかがでしょうか。
西井)弊社の知恵と技術の結晶とも言える製品が、車戴用製品のうち、ショックアブソーバピストン用の金型に用いられる異形長尺コアピンです。これは、最長300mmの細長い金型ですが、反らないように加工することが大変難しく、工程を変更したり、治具を作ってみたり、と何度も試作を重ねて様々な形状に対応してきました。自動車部品もそうですが、京都には大手電子部品メーカーもあり、皆さん日進月歩で次々に新しい製品を生み出そうと研究開発に余念がありません。一つクリアしたら、更に上に上にと、どんどんハイレベルのご相談をいただきますので、我々も必死に食らいついていっている訳です。もちろん、失敗してお客様にご迷惑をおかけしたこともありますが、そうしてお客様のニーズにお応えしているうちに、そのお客様からまた別の方に「ヤサカならやってもらえるよ」とお話をいただき、新しい取引の御縁につながりました。常に、「お客様にとって」価値の高い製品づくりを心がけておりますので、その姿勢が評価につながっているものと自負しています。
―ずばり、御社の強みとは。
西井)特に、先ほどのショックアブソーバピストン用の粉末冶金金型や車載用電装部品などの精密プラスチック金型は、自動車用部品の多くが中国等の工場で作られている中で、これは日本の技術でないと作れないものですから、今のところ、比較的安定して発注をいただけております。需要は多いのですが、自動車メーカー様の用件を満たす技術を持っている企業はきわめて少ないのです。先ほども申しましたとおり、弊社は非常に精密な部品の金型の作成を得意としていますが、それを可能としておりますのが10人の職人による1ミクロン単位で寸法調整する高精度な技術です。多様なオーダーに正確に対応できる設備と人材を有することと、いろいろな受注をいただくことで蓄積できた設計・製作のノウハウが何よりの強みです。
―それはまさに「匠の技」ですね!最近の状況はいかがですか。
西井)おかげさまで、粉末冶金用金型は年間を通じ安定した受注をいただいており、精密プラスチック金型の方も、決まったお客様からリピート注文をいただけるようになって参りましたが、やはり、国内外の価格競争に勝つためには、そこにあぐらをかかず、常に新しい技術を磨き続けることが何よりも必要だと痛感しております。
―いろいろご苦労もあったのではないでしょうか。
西井)昨今、メーカーのリコールやデータ改ざんなどにより品質に対する厳しさが増しております。更に、開発もスピードがないと国内はもちろん海外の市場で戦えませんから、どんどん短い納期を求められるようになってきています。特に覚えておりますのは、新規のお客様から、全体で700kgにもなる金型のご注文をいただいたことです。しかも納期は2週間ということで、弊社工場のキャパを超える初めての大きさの金型でしたが、社員一丸となってアイデアを出し合って取組んだ結果、無事にお客様に納得いただける製品を期限内に納めることができたことです。
―なるほど、高い技術力に加えて、チャレンジ精神旺盛な社風とチームワークが功を奏しているのですね。今後はどのようなことに力を入れていかれますか。
西井)今のままではダメだ、何か新しいことをしていかないと、という漠然とした思いを持つ同業の若手経営者で定期的に勉強会もやりました。月1回、勉強会そしてゴルフをしたり(笑)。また、先日は東京ビッグサイトで開催された「新価値創造点2017」に初めて出展いたしました。おかげさまで、大手メーカーの方と名刺交換もさせていただいたり、その後あらためて弊社にお越し頂いた企業様もあり、今後の成果も期待できます。
―手応えがあったんですね!
西井)我々のような業種は、直接一般のお客様に商品を販売する仕事ではないので、どうしても業界内での人脈に頼りがちですが、やはり、これまでおつきあいのなかった業種の方々とも交流させていただくことで、新しいビジネスチャンスにつながると確信できました。
―すばらしい!今後の展開がますます楽しみですね!
【会社概要】
◆創業:昭和46年1月
◆会社設立:昭和57年7月
◆事業内容:精密金型設計・製作(射出成形用金型/粉末冶金金型)/自動車用部品試作/ロータリープレス部品/精密機械加工一式
◆代表:代表取締役 西井康博
◆資本金:1,000万円
◆従業員数:13名
◆所在地:京都市山科区勧修寺東北出町105番地
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