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知恵の経営、元気印、経営革新、チャレンジ・バイの各認定等を受けた府内中小企業を紹介するページです。
(2022年9月13日、ものづくり振興課 足利・石飛)
リバーセル株式会社(外部リンク)(京都市上京区)の梶川代表取締役社長に、改めて同社の強みについて、お話をお聞きしました。
「CAR-Tなど、現在行われている自家のT細胞療法は、患者から採取した細胞に遺伝子を導入し、培養するプロセスが必要であるため、数週間程度の時間がかかり、オーダーメード故に価格も高いのですが、弊社の他家T細胞療法では、他家iPS細胞から大量培養することで、待機時間が少なく、低コストで、品質も安定したものを提供できる」と語る梶川社長。
"Current autologous T-cell therapy, such as CAR-T, requires a process of introducing genes into cells collected from the patient and culturing them, which takes several weeks, and because they are custom-made, they are expensive. "However, with our allogeneic T cell therapy, by mass culturing allogeneic iPS cells, we are able to provide products with low waiting time, low cost, and stable quality," says President Kajikawa.
同社は、2013年に世界で初めてiPS細胞からがん抗原特異キラーT細胞の再生に成功された河本教授の技術を基に、他家多能性幹細胞から再生した抗原特異的キラーT細胞を、汎用性の高い即納型T細胞製剤として提供することを目指しているのだ。
Based on the technology of Professor Kawamoto, who succeeded in regenerating cancer antigen-specific killer T cells from iPS cells for the first time in the world in 2013, the company uses antigen-specific killer T cells regenerated from allogeneic pluripotent stem cells. The company aims to provide it as a highly versatile, ready-to-deliver T-cell preparation.
その仕組みの特徴はこうだ。
まず1つ目、認識に関して。狙った抗原に特異的に働きかけることが重要であるため、特定の抗原を認識できるT細胞レセプター(TCR)をiPS細胞に導入する。
The characteristics of this mechanism are as follows.
First, regarding recognition. Since it is important to act specifically on the target antigen, a T cell receptor (TCR) that can recognize a specific antigen is introduced into iPS cells.
CARの場合、細胞の表面抗原しか認識できないのに対し、TCRは、細胞内部の抗原をも認識できるという利点もある。
In contrast to CAR, which can only recognize antigens on the surface of cells, TCR has the advantage of also recognizing antigens inside cells.
そして2つ目は、攻撃に関して。実際に攻撃するキラーT細胞を、iPS細胞を分化誘導して作製する。
The second thing is about attacks. Killer T cells that actually attack are created by inducing differentiation of iPS cells.
3つ目は、他家故の免疫拒絶反応の抑制に関して。まだ詳細は語れないが、HLAをノックアウトする技術、さらにはHLAをノックアウトした細胞を殺してしまうNK細胞を抑制する技術等を開発中。とても活気的だ。
The third point is regarding suppression of immune rejection due to allogeneic origin. Although I cannot go into details yet, we are currently developing technologies to knock out HLA, as well as technologies to suppress NK cells, which kill HLA-knockout cells. It's very lively.
代表的な応用展開として、WT1抗原を標的とした急性骨髄性白血病の治療戦略がある。WT1抗原は、白血病に限らず、多くの固形がんでも高い確率で発現する。
A typical application is a therapeutic strategy for acute myeloid leukemia that targets the WT1 antigen. WT1 antigen is expressed with high probability not only in leukemia but also in many solid cancers.
凍結保存したキラーT細胞をすぐに患者に届けられ、辛い抗がん剤治療などではなく、点滴治療によって体への負担が小さいのだ。
将来、京都生まれの技術によって、自ら創薬メーカーになることを目指している。
Cryopreserved killer T cells can be delivered to patients immediately, and instead of undergoing harsh anti-cancer drug treatments, intravenous treatment puts less of a burden on the body. In the future, they aim to become a drug discovery manufacturer themselves using technology born in Kyoto.
(掲載日:令和3年9月29日 聞き手・文 ものづくり振興課 石飛)
リバーセル株式会社(外部リンク)(京都市上京区)の河本取締役(京都大学 ウイルス・再生医科学研究所 教授)と三宅事業開発部ディレクターにお話をお伺いしました。
―まずは、御社の概要・起業の背景を教えてください。
三宅)2019年10月に設立した、汎用性キラーT細胞製剤を用いた治療法の確立を目指すバイオ創薬ベンチャーです。社名の由来は細胞が生まれ変わるという「リバース(Rebirth)」に細胞の「セル(Cell)」を組み合わせたものです。がんをはじめとする、治療期間が長く多大な治療費がかかる病気で苦しむ患者とその家族を救いたく起業しました。もともとレグセル社(制御性T細胞を扱う⼤阪⼤学の坂⼝志文教授が設立)に河本教授が参画するかたちで始まりましたが、扱う細胞の種類等が異なることから独立・分社化しました。
―そうなのですね。「汎用性キラーT細胞」(獲得免疫系)とはそもそも何でしょうか。
河本)キラーT細胞は、その名の通り”殺し屋”として標的となるウイルス感染細胞やがん細胞を見つけて殺傷する能力に非常に優れています。この性質を利用して薬として使うわけですが、問題は投与された患者さんの中で自分以外の細胞に対しては拒絶反応が起こるという点です。そこであらかじめ免疫による拒絶反応が出にくいように加工したiPS細胞からキラーT細胞を再生することを試みており、その性質を汎用性と呼んでいます。
―どういった方法で、免疫拒絶反応が出にくいiPS細胞からキラーT細胞をつくるのでしょうか。
河本)まず、iPS細胞の中でも免疫拒絶がおきにくい細胞(日本人の6人に1人に適応される細胞)を使用します。それでも、HLA(白血球の血液型で、自他認識をする役割等がある)が違うと副反応が起こってしまいます。
そこで当社は、HLAをノックアウトする技術を研究しており、実用化されれば、日本人の大半に適応するT細胞を作ることができます。
その際、NK細胞(Natural Killer、自然免疫系)はHLAをノックアウトした細胞を殺してしまう為、NK細胞を抑える必要があり、その技術も開発しています。
―T細胞とiPS細胞による相乗効果により、さらに効果が高まるのですね。
河本)はい。さらに言えば、キラーT細胞が持つがん化した細胞だけを選択的に殺すという性質は、標準的な化学療法などに比較して「身体への負担が少ない」という点もメリットです。
―それは良いですね。では、御社の強みをあらためて教えていただけますでしょうか。
河本)研究開発の速度や精度に関して言うと、私自身が元臨床医だったこともあり、今後の治験に向けて京都大学医学部付属病院(以下、京大病院)と密に協力できる点は強みだと思います。さらにはiPS細胞から高品質なキラーT細胞を作る培養技術に関して複数の特許を保有している点は、かなり大きなアドバンテージだと考えております。
―すごいですね。どのような特許ですか。
河本)代表的なものは、がん抗原を認識する遺伝子をiPS細胞に導入してそこから分化誘導してT細胞を再生するための特許(TCR-iPS細胞法)で、欧州と豪州および日本で特許が成立しています。さらに、高品質なキラーT細胞を作る培養法についても欧州と日本で特許が成立しています。これにより、世界に先駆けた開発・治験が可能となっております。
―そうなのですね。開発の計画予定はいかがですか。
河本)直近では治験に向けた細胞製剤の製造を進めています。2021年度中には治験に用いるT細胞製剤の材料となるiPS細胞を作製します。2022年度と2023年度は京大病院に設置されるクリーンな細胞製造施設でそのiPS細胞から本番で使用するのと同等の品質の細胞を作製して、その安全性(病原体を持たない、腫瘍化しないなど)と有効性(がん細胞を殺傷できるかなど)を検証します。2024年には急性骨髄性白血病を対象にした京大病院での医師主導治験を行って有効性を確認、2027年には製造・販売開始を目指しています。
―最近、TVでも御社の特集を見ました。御社の技術は、コロナ治療への応用も可能なのでしょうか。
河本)我々が実現を目指す汎用性T細胞製剤は、その原理から抗ウイルス薬としても活躍できると考えます。
具体的には新型コロナの回復者の血液から、新型コロナウイルスを記憶したTCR遺伝子(がん抗原等を認識するT細胞受容体)を抽出してiPS細胞に組み込み「汎用性ウイルス特異的再生T細胞」として培養することで、治療に活用することが可能と考えております。
また、2020年10月から、藤田医科大学と汎用性キラーT細胞を用いた新型コロナ治療法に関する共同研究を開始しております。2021年3月には、京都大学も加わり、3者で研究を進めております。
―実用化に向けてはどのような状況なのでしょうか。
河本)薬の開発には時間がかかりますので、最短でも3年後に臨床治験開始というスケジュール感です。3年後といえば新型コロナは収束しているかもしれませんが、この方法が確立されると、未知のウイルスによる次のパンデミックが起こった時には素早く対応できますし、現在どこかに潜伏しているSARSのような危険なウイルスに対してもあらかじめ細胞製剤を作って備えておくことができますので、取り組む意義は非常に大きいと感じています。
―最後に今後の展望をお聞かせください。
河本)未来は「病気になったら細胞製剤で治す」という世界になっているかもしれません。弊社の技術によってがんや感染症だけではなく、自己免疫疾患やアレルギーなども含めた、さまざまな病気を治すことができるよう研究・開発を進めてまいります。
―今後の展開が楽しみですね!
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