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知恵の経営、元気印、経営革新、チャレンジ・バイの各認定等を受けた府内中小企業等を紹介するページです。
(掲載:令和2年11月27日、ものづくり振興課 丸山)
株式会社開化堂(外部リンク)(京都市)の八木代表取締役、Kaikado Café川口店長にお話をおうかがいしました。
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--有名な御社に改めてお聞きするのですが、御社の概要から教えてください。
八木)文明開化の明治八年(1875年)、開化堂は英国から輸入されるようになった錻力(ブリキ)を使い、丸鑵製造の草分けとして京都で創業しました。以来、一貫した手づくりで一世紀を過ぎた今もなお、初代からの手法を守り続けてまいりました。従業員規模は40人弱くらいです。
--明治八年ですか!一世紀以上続く御社の歴史について聞かせてください。
八木)初代がつくり出した茶筒の価値を知り、守り、つくり続けることが一番大事であると考え、それを時代や状況が変わっても代々受け継いできました。第二次大戦時は、金属類回収令が発令される中、道具を土に埋めて守りながら隠れて茶筒を作っていました。
--すごいですね。そこまでしながら、歴史を刻んできたのですね。
八木)そうですね。なぜなら、初代がつくった茶筒は、100年後に修理の依頼が来るかもしれません。それに応える為には、100年後でも同じ技術や製法がないといけない。お客様のことを考えたときに、僕らは、100年先も同じ茶筒を作れる技術がないといけません。そのためずっと手づくりの伝統を守っております。伝統を守るとは、単なるこだわりではなく、お客様があってこそ、だと思います。しかし、時代に合った文化や経済状況もありますから、傍らで薬屋を営んでいた時期もありました。
--現代では、お茶を飲む文化が変わってきていると思いますが、需要の変化も感じておりますか。
八木)そうですね。まず、最初の変化としては、茶葉を量り売りするお店が激減し、それに伴って卸売需要が減少したことです。先代はそこで、茶筒に対する需要そのものへの危機感を感じていいたようです。それでも、ギフト需要に着目し、小売市場へと進出してから、再度持ち直しを見せました。一般のお客さま向けの店舗を構え、国内をはじめ海外での実演販売も行うようになり、自社発信で開化堂の魅力を伝えるようになりました。おかげさまで、多くの方からご注文をいただくようになり、経営も回復しました。
--なるほど。あくまで、茶筒をつくる精神は変わらず、展開する市場を見直したということですね。
八木)はい。最近は、急須で緑茶を飲む習慣もなくなってきておりますし、茶筒というものの存在そのものが、若い世代には認知されなくなってきております。だからといって、その時代の変化に反逆するつもりはありません。茶筒屋としての「木の幹」を太く、根深く、持ちながら、その技術を活かせる枝葉となる商品や使い方なども提案しております。枝葉が楽しければ幹に気づいてくれる。茶筒を作り続けられるようなことであれば色々と挑戦して行こうと思っています。例えば、伝え方を変えることで、茶筒を食料品などの保管用途として、国内外のお客様に幅広く購入いただいています。
--こんなにスタイリッシュな筒でキッチン周りをコーディネートできたら素敵ですね!
八木)ありがとうございます。海外のお客様や若い世代は緑茶を煎れて飲む習慣がないので、お茶筒としてだけの用途では、弊社の商品を手にとってもらうことができません。こうして新たな用途を提案することで、開化堂のお茶筒にはなんでも入れて良いんだと思っていただくようにしました。
--Kaikado Caféへの展開も、新たな市場開拓を見込んでのことですか?
八木)そうですね。元々、先代が珈琲が好きだったということで、「リタイアしたら喫茶店をやりたい」と言っておりました。そんな中で、私は「自社で所有するメディア(感覚を共有する場所)」が欲しいなと思っていました。形は喫茶店でないといけないわけではなかったのですが、カフェは「くつろげる居心地のいい場所」であり、「若い世代でも、お客様と直接交流することができて、さらに商品にも触れて貰えます。そこで、カフェを立ち上げようと考えました。カフェをオープンするにあたり、東京から川口さんに来て頂きました。
--川口さんは、バリスタさんなのですか?
川口)いえ、違うのです。私自身は、IT関連の仕事をしておりまして、元々は開化堂のファンのひとりでした。そんな中で、八木から、カフェを作るにあたって相談を受けました。その後、自分の中でいつかコーヒーに関わる仕事がしたいと言う漠然とした夢が大きくなり、自分がカフェの仕事をしたいと申し出ました。
八木)カフェとして美味しい珈琲を出したいという想いはありましたが、単に珈琲を飲む場所にはしたくなかったのです。開化堂というものづくりをやっている企業の感覚を共有する場所として、位置づけていますから、喫茶店をやりたい人材より、開化堂の想いをよく知っている存在がベストだと思い、川口さんへ声をかけました。
--Kaikado Caféは空間も素敵ですね!オープン当時、新聞などに掲載されていましたね。
川口)はい。ここは、元々京都市さんの建物でして、40年前まで、市電の詰め所だったところです。40年間そのままの状態で歴史が流れ、老朽化してきたことで、建物の販売に踏み切ってくれました。非常に貴重な機会をいただいたと思っております。
--至る所に市電の詰め所の風情が残っておりますね。
川口)そうですね。高い天井は、市電がそのまま入庫できるためです。客席横の大きな窓枠の所がシャッターになっており、市電架線などのメンテナンスをここでしていたと聞いております。壁にも、職員さんのメモなどが残っており、臨場感を感じられます。
--開化堂を知らない方でも、歴史ある建物を改装したカフェとして訪れるのではないですか。
川口)はい。京都はコーヒー好きの顧客が多いです。カフェの展開により、今までの店舗販売だけでは出会わなかった顧客層へ工芸や開化堂を知っていただく場所となっています。そして、カフェで使用した作品を、欲しいと思っていただけたお客様に販売も行っています。
--コーヒーカップなども、オリジナル商品ですか?
川口)はい。京都には、素晴らしい伝統産業品が沢山ありますから、それを発信する場所としてもカフェを活用しています。
八木)これは、朝日焼の16世がつくったカップです。珈琲を美味しく飲むために、研究して作って貰いました。上から見たら、カップの円周が楕円になっていて、口当たりが良いのです。(https://asahiyaki.com/?lang=jp)
朝日焼さんは、昨年のG20で、各国ファーストレディ、ファーストジェントルマンへのギフトを制作するなど、大変嗜好の高い焼き物です。工芸を若い方に伝えるのにいきなり朝日焼の16世が作ったカップですとお出しすると、一歩引いてしまう部分があると思います。そこで、珈琲を通じて「ああ、このカップいいな。」と思って貰えたらいいなという感覚です。
--確かに、楕円形ですね。珈琲も、美味しいですね。
川口)こちらのカップのことを覚えていてくださったお客様が、東京からわざわざ買いに来られたこともあります。
八木)そういった顧客とのダイレクトなコミュニケーションが、カフェの良いところです。珈琲も工芸品みたいなもので、焙煎職人と協業してオリジナルで作って貰っています。職人さんによると、「カフェを出て、横断歩道を渡った辺りで、ああ、あの珈琲美味しかったな~また飲みたいなあと思えるような味にしました」とのことです。
--助け合いの輪補助金を活用され、梅園さんとも協業しておりましたね。
川口)はい。「あんがさね」という商品を作りまして、東京での催事で販売を行ったのですが、大人気で、完売でした。優しい味で珈琲、紅茶などに合うお菓子です。
--美味しいですね!さすが、甘味にずっと携わってきた梅園さん。優しくて、どこか懐かしい味です。
川口)催事では、パッケージも開化堂オリジナルにしていただき、お客様も喜んでおられました。
八木)弊社は茶筒をつくる会社ですが、梅園さんをはじめ、色々なものづくり企業と連携していきたいと感じています。
--これは、話題になった、スピーカーですか?
八木)そうです。伝統産業の中でも、工芸分野を担う若手職人のユニット GO ONの活動の一環として、Panasonic様と100年先の良い暮らしを考えることをご一緒させていただいた商品です。ミラノサローネにも出展し、海外からも注目を集めました。(https://panasonic.co.jp/design/goon/)
--茶筒をスピーカーにするとは、面白い発想ですね。
八木)白物家電と言われている製品の技術と、伝統工芸を掛け合わせ、100年先の良いくらいと言うのはなんだろうと言うことを考え、その中で、次の代に引き継げるものが生み出せないだろうか?という発想のもと生まれたのが京筒のスピーカーでした。限定100台で製造しましたが、おかげ様で反響もありまして、すぐに売り切れました。
--開発にあたり、大変だったことなどはありましたか。
八木)手作りの伝統工芸品は「一つ一つ向き合って作っている」という点が良さでもあるのですが、家電をつくる以上は「まったく同じものを作る」ことが重要で、1mmも狂わない商品を製造しないといけない点が大変でした。
--なるほど。
八木)そのため、僕自身、父と共にPanasonicさんの製造工場へ出向いて、普段の工房と同じ環境をつくって、一つ一つ、製造しました。伝統は「守り」ですが、工芸は「時代に合ったもの」と感じておりますので、工芸品として新たな挑戦ができたのではないかと思います。
--素晴らしいですね。「GO ON」はどんな思いで活動をされているのですか?
八木)職人の世界を憧れられる世界にしたい、という想いで、伝統工芸家で構成して活動しています。職人って、暗い中でおじいちゃんがものづくりをしているイメージで、あまり綺麗な印象がないと思うのです。そこを変えたい。「職人はかっこいいな、こうなりたいな」という存在になりたい。そこで、伝統工芸の職人が集まって、そんな職人の世界の価値を伝える活動をしています。価値あることをきちんと伝えられたら、そこに正当な対価が支払われる世の中にしたいです。
--たくさんのお話、ありがとうございました。最後に、今後の展望をお聞かせください。
八木)職人はカッコいい、伝統産業ってイケてる、というイメージを持ってもらいたいし、実際そうでありたい。だから、まずは自分がそれを再現できるように心がけています。
また、展望ではなく、実際に活動していることですが、最近ではCrafts Night という取り組みをしております。「職人及びものづくりに携わる人が気づきを共有し合い、可能性を拡げ、共に成長していく場」をテーマした活動です。例えば、木曜なら木工、金曜なら金物など分野分けをして、現在はオンラインで発信しております。
--面白いですね!時代の変化についていくというより、時代を先駆けながら進化していくのですね。
八木)開化堂の茶筒は、へこみや歪みができても修理することで使い続けていただくことができます。大変有り難いことに、二世代、三世代にわたり弊堂の茶筒をお使いのお客様がおられます。これからも百年使える暮らしの道具を皆さまにお届けしていきます。その中で、「伝え方」であったり「売り方」を模索していきたいです。
これからも、応援しております!
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