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知恵の経営、元気印、経営革新、チャレンジ・バイの各認定等を受けた府内中小企業を紹介するページです。
(令和2年7月6日、ものづくり振興課 足利、吹田、中尾)
株式会社IMAGICA Lab.(外部リンク)大阪プロダクションセンター(大阪市)の平山新二所長様、フィルム・アーカイブ事業本部の井上大助様、エンタープライズ事業本部の鈴木裕美様にお話をおうかがいしました。
--京都発祥でらっしゃるということ、現在は京都に御社と同じ業種がなく、関連する分野の京都の事業所の皆様も御社に頼ってらっしゃるということ、例年私どもの事業にご協力いただいているなど、京都に大変ゆかりがあられることから、是非とも勉強、そしてご紹介したく存じます。大変有名な会社でらっしゃいますが、改めて御社の概要を教えてください。
平山)撮影、映画・TV番組・CM・PR等の映像・音声編集、DCP(デジタルシネマパッケージ)作成、コンテンツ流通・配信サービス、フィルム現像・プリント、映像の修復・復元・保存サポート、デジタル合成・VFX・CG/グラフィックデザインの企画・制作、吹き替え・字幕・翻訳、映像コンテンツの企画制作、イベント等の企画制作、Webやモバイルなどを利用した広告・宣伝・プロモーションの企画制作、システムやアプリケーションの開発、保守運用など、各種映像技術サービスを行っています。
--テレビや映画のエンディングのテロップで「IMAGICA」という言葉がいつも流れるので、「なんだかわからないけどIMAGICAってカッコいい!」と記憶に残るようになったのは、ちょうど私(足利)が中学生の頃です。1986年に商号変更をされたということで、時期がぴったり合います。「なんだかわからない」と言いましたが、一言で言えば、フィルムの現像、色彩補正、合成、テロップ、編集、MA(音声編集)など「ポストプロダクション」を担ってらっしゃるという理解でいいですか。
平山)はい、国内最大のポストプロダクション企業です。もともとは、1932年に株式会社長瀬商店(現・長瀬産業株式会社)が京都・太秦に「極東フィルム研究所」を開設し、映画用フィルムの現像・プリント事業を開始したのが始まりです。長瀬商店も、もともとは江戸時代末期に京都西陣で、染料、澱粉、ふのり類の販売で創業し、その後薬品等も取り扱うようになっています。
--後の「現像」に繋がる要素があったわけですね。
平山)そうですね。1923年にはイーストマン・コダック社製の取扱いを開始しています。かつて2大フィルムメーカーと言われた、もう1つ、富士フィルムの以前の会社のフィルムも1934年に開始しています。
--余談ですが、コダックが、世界で初めてデジカメを発明しながら、それを先駆けて事業化せず倒産してしまったイノベーターのジレンマの話は有名ですが、富士フィルムがヘルスケアや化粧品へと事業転換したように、実際にはコダック出身者がベンチャーとして様々な事業展開をされていると聞きますね。
平山)そういう意味では、変化の潮流が激しい業界です。当社においても、長瀬商店から独立した極東現像所は、1938年には本店を京都にしました。なお、「IMAGICA」と社名変更する前は、長らく「東洋現像所」という社名でした。
--どういった工程があるのか、その一端を教えていただけませんか。
井上)例えば、フィルム現像関連では、16mm、35mmフィルムの現像、プリント、タイミング、音ネガ作成、テレシネ、スキャン等を行っています。
井上)フィルムについてですが、白黒フィルムの場合は、フィルムベースの上に10~30umほどの薄さで乳剤が塗布されています。カラーフィルムの場合は、上から順に青、緑、赤の3原色に感光する乳剤が層を成しています。
--はい。
井上)撮影、すなわち、露光するとフィルム上に画像が記録されますが、人の目では判別できないので「潜像」と言います。先ほどのフィルムの乳剤にはハロゲン化銀が含まれており、光に当たると目に見えない変化を起こすのです。
--なるほど。
井上)そして現像工程で、現像液に浸すと目に見える黒い粒に変化するのです。白黒フィルムの場合には、こうしてできた黒い粒によって画像ができます。カラーフィルムの場合は、ハロゲン化銀とともに含まれている色素(カプラー)が、ハロゲン化銀を黒くするために変化した現像液によって、発色することを利用しています。ネガフィルムの場合は、例えば赤色の光は、上から青、緑に感光する層を通って赤色に感光する層に辿り着くので、補色であるシアンに発色します。つまり、青、緑、赤の各層は、イエロー、マゼンタ、シアンという補色での発色となります。
--ほう。
井上)そして、プリントの際には、プリントされる側にも同様に感光材が塗布されているので、同様に補色で発色します。すなわち、現像で逆転してたものが、プリントで逆転し、撮影どおりに元に戻るということですね。
--そういうことだったのですね。
井上)ちなみに、現像されなかった銀は、定着液によって取り除かれ、再利用されます。
--そうなのですね。
井上)こちらが現像工程です。「撮影時では少し暗めに撮ってしまったので、現像で明るくしてほしい」などと様々なオーダーが来ますので、微妙な調整を行う必要があるところが難しいところです。現像は一発勝負ですから。
--華やかな映像製作の世界を支える裏方の職人、製造現場、といった雰囲気ですね。
井上)そうですね。そして、こちらがフィルムタイミングです。
--タイミング?!
井上)まず「検尺」と呼ばれる工程で、1カット毎のコマ数を測ります。
--緻密な作業ですね。なぜこのような作業が必要なのですか?
井上)カットによって撮影時の明るさ、色味が違いますから、それを補正する必要があるからです。実際に色味を合わすのは、「タイマー」という専門技術者が、カットごとに、こうした青、緑、赤の色を重ねていきながら細かな調整をするのです。こうしたフィルム上での色補正の工程をタイミングと言います。
--いやあ、根気のいる作業ですね。まさしく職人技。映画監督さんからもちょくちょく指示が来るのですか?
井上)来ますね。
--それと・・・、先ほどおっしゃってました、テレシネって何ですか?
井上)例えば、フィルムで撮影した映像をビデオに移し変えることです。映画とテレビ絵は画面の縦横比が違いますよね。それだけでなく、映画が24コマでテレビが30コマであったりするので、映写機で映写したものをビデオカメラで撮影するとチカチカしたりするのです。こうした変換作業も行います。
--では、スキャンとは?
井上)フィルムからデジタルへの変換ですね。スキャナーによって2K、4K以上の高解像度データ化を行えます。
スキャナー。Cinevivo(左)とScanity(右)
--そうなのですね。
井上)そして、さきほどのフィルムタイミングで培ってきた映像の色彩表現に対する知識と経験を活かし、デジタルデータ上で色補正を行う「カラーグレーディング」により、一層、作品に深みのある独特な世界観を演出します。
--そうなのですね。では、次に「デジタルリマスター」について、教えてください。国内の3,000以上の映画館のうち、もはやフィルム映画が見られるところは、100を切っています。
鈴木)映画もそうですし、テレビ番組もありますし、教育機関等でも多くのフィルムを所蔵されています。
--そうですよね。大変重要なことだと思いますが、どういった作業工程なのでしょうか?
鈴木)まず「素材の選定」です。ネガフィルムが最適ですね。ポジフィルムやプリントしか存在しない場合は、最良の素材を厳選します。
--ほう。
鈴木)そして、カビや塵などの付着物を除去するための「洗浄」をクリーニング設備で行い、続いて、ひび割れ、破損などの「補修」は、こうして手作業で行います。
--すごい指さばきと言いますか、器用でらっしゃいますね、当たり前ですけど。一人前になるのにどのくらいかかるのですか?
鈴木)5年とか、10年とか、ですかね(笑)
--学校で教えてくれるところ、あるのですか?
鈴木)ないですね。私も入社してから学びました。
--そうなのですね。
鈴木)そして先ほどの説明にもありましたが、「スキャニング」によるデジタルデータへの変換、「カラーグレーディング」を行った後、「デジタルレストア」と呼んでいる、画面の揺れの除去(スタピライズ補正)、画面の明減フリッカー)の除去、パラ(傷痕、ゴミ、汚れ)を消すパラ消し作業を行います。
--これまた細かい作業ですね。機械、コンピュータを使うとは言え、職人の皆様が見て判断し、どこを直すか決めてらっしゃるんですね。AIでは難しいのですか?
鈴木)正直まだ難しいですね。雨のシーン等は、雨を全てゴミと判断してしまったり。
--欠損があったり、直したりする際には、オリジナルで何か画像を作るのですか?そういうAIはありますけどね。
鈴木)前後のコマから流用します。
--あっ、そうか、そうですよね。カラーグレーディングを先に行うのですか?
鈴木)事前に色合いや明るさを調整しておくことで、グレーディング前には視認できなかったパラが発見できるので合理的なんです。
--なるほど。
鈴木)音声に関しても、専門技術者がノイズの聞き分けを行って除去し、音声のバランス調整なども行います。
--フィルムに映像だけでなく、音声を記録する「サウンドトラック」という言葉を聞きますが。
鈴木)そうですね。そういうケースもありますし、デジタルリマスターの対象となるものには、映像フィルムと音声フィルムが別になっているものもありますよ。
--別ですか?!どうやって映像と音を同期させるのですか?
鈴木)よくご存じの「よーい、スタート!」「カット」というあの掛け声ですよ。
--なるほど。それにしましても、デジタルリマスター、非常に頭が下がる作業ばかりです。それなりにコストがかかりますし、やはりビジネスにならないと、なかなか進まないわけですよね。
鈴木)過去の巨匠たちが作ったメジャー作品等が向いているのはたしかですね。しかし、記録映画など、人類にとって大切なフィルムもたくさんあります。どんな状態のフィルムであっても「捨てずにいてさえくだされば」私たちがなんとかしますので、ぜひ、大切なフィルムをお持ち込みいただければと思います。
今後の展開が楽しみですね。
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