丹後広域振興局
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このページの資料は、技術職員のスキルアップの一環として実施している建設交通部の技術職員による「土木工事管理研修」に使用した資料を編集して掲載しています。
丹後半島のほぼ中心に位置する宇川は、古くから天然アユが遡上する河川として有名であり、昭和30年に京都大学動物学教室の研究河川に指定され、アユを中心とした淡水生物の調査研究活動が継続的に行われてきました。
近年、流域の開発、山林荒廃による土砂流出により、特に下流域での河川環境の悪化が顕著であるため、昭和30年代に見られた礫河原、瀬・淵の再生などを目指し、宇川を取り巻く生物の生息環境に配慮する川づくりを行っていく必要があります。
平成2年災害で被災した落差工を全断面緩傾斜魚道で復旧したことを契機に多自然川づくりを行ってきており、これまでの取り組みを紹介するものです。
(説明図:宇川の下流域の井堰)
宇川は流域面積約62平方キロメートル、流路延長約18キロメートルの河川で、丹後土木事務所管内第3位の流域面積を持ちます。
上流域は「ふるさといきものの里100選」(平成元年環境省)にも選定されている清流です。
洪水時には、暴れ川の様相を呈しますが、下流域での治水安全度は概ね30年の能力があります。
(説明写真:平成2年の災害と復旧)
(説明写真:昭和30年代の古き良き宇川の様子)
アユの解禁日には村中の人々が宇川に繰り出し、川に入ると踏みつけてしまうくらい多くのアユがいたといわれます。
平成5年10月に地元有識者による「宇川多自然川づくり地域懇談会」を開催し、以下の5項目について取り組んでいくこととなりました。
山根堰全断面魚道(平成6年施工)
当時、下流域で最大の落差があった山根堰に中央部をプール式、両サイドを曲面斜路式の魚道を設置し、魚類だけでなくモズクガニなどの水生生物の移動にも配慮した魚道を設置しました。
(説明写真:山根堰の施工前後)
水衝部の河道拡幅については、淵が形成されるように2割の連接ブロックを5分の大型環境ブロックとして施工しました。
(説明図:瀬・淵の再生への対応)
(説明図:適正な澪筋の形成への変化)
(説明写真:デフレクタによる水際整備の工事状況)
(説明写真:デフレクタによる河道の変化)
上の図のとおり、デフレクタを施工し、水の流れを変えることにより澪筋が狭くなることで流速が上がり砂が流されて礫河床となります。
その結果、石や礫にアユの好む藻がつくことにより、アユの成長が期待できるようになります。
(説明図:袋詰玉石工の構造)
(説明写真:五領堰の全断面斜路式魚道の施工状況)
多自然川づくりの効果の検証や課題の抽出に必要なモニタリング調査として、生息環境に関連性が高い次の4項目を中心に実施。
(説明図:魚類、底生生物等の調査状況)
宇川多自然川づくりに当たっては、計画段階でワークショップを実施するなど十分に住民意見を反映させる必要があります。
宇川における現状と課題について、地域住民と共通の認識を持ち、特に山林保全や水質浄化を流域全体の課題として取り組んでいく必要があります。
(説明図:流域住民との取り組み)
毎年8月15日に行われる地元主催の「アユ祭り」の会場となる中瀬橋付近において、親水施設の要望があり、平成18年度に3回のワークショップを開催して構想を策定しました。
(説明図:ワークショップで検討した構想図)
(説明写真:アユ祭りの様子、平成18年8月15日実施)
宇川多自然川づくりは、平成2年災害の復旧を契機に始まり20余年が経ち、魚道整備を中心に少しづつ前進しています。
平成16年の台風は生態系を根こそぎ一層する大きな攪乱をもたらし、改めて自然の驚異を目の当たりにしました。
アユの遡上数に見られるように、徐々に回復傾向にあるようには見えますが、これが魚道整備の効果か自然の偉大な治癒力なのかは現時点では判断できません。
ワークショップにおいては、昔の古き良き時代を熱く語られる方もおられ、地域住民の宇川への思いの大きさを実感できました。しかし、宇川隆起の現状と課題に対する共通認識は一致するものの、雲をつかむようで実際に何から手を付ければよいのか分からないのが実状です。
厳しい財政状況下ではありますが、一定の治水安全度が確保されている区間に予算をつぎ込む余裕はない中でも浚渫残土を利用するなどの工夫により、環境に配慮した整備は可能です。
地域住民の皆さんとの対話についても絶やすことなく、長期的な視野で徐々に進めていき、20年後あるいは30年後の宇川が今よりも、よりよい環境になればと願うばかりです。
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