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京都の撮影所等において伝承されてきた脚本作成から撮影、編集等の撮影技術及びその周辺技術について文化財の構成要素である「わざ」の可視化を行うとともに、芸能・芸術史上の視点から学術的評価を行い、それらを無形文化財登録に向けた報告書としてとりまとめました。
令和7年3月21日 発行:京都府 監修:京都文化博物館 編集:藤田奈比古
京都文化博物館 森脇 清隆 時代劇文化は歌舞伎や浄瑠璃といった古典芸能を継承し、総合芸術として建築、着物、陶芸、庭園、 和楽等々の成果を取り込み発展してきた。一方、現場では制作本数の減少に伴い、時代劇制作技術の持続可能性の危機が叫ばれるようになった。この状況を踏まえ京都府では現状を把握するために、京都文化博物館とともに、東映京都撮影所、松竹撮影所のご協力のもと、京都の撮影所等で伝承されてきた時代劇の「美術」や「役者(殺陣、所作 )」、さらに「撮影技術(編集・制作等 )」を継承・保持する専門家の皆様へ聴き取りによる基礎調査を実施し、令和5年3月に報告書をまとめた。この調査では時代劇制作技術の特殊性と専門性が明らかにされるとともに、継承への課題が制作現場のスタッフ、職人から指摘された。今回の調査は、前回の調査に学術的な視点を重ねて、その評価・重要性のエビデンスとするために企画された。執筆者は、映画・映像文化の研究および実践を担ってきた研究者であり、学術的な成果や自身の創作経験に基づいた論考を寄せていただき、時代劇制作文化を対象とした体系的な知見が本報告書には凝縮されている。 本調査報告書では、すでに無形文化財として評価され保護されている日本古来の文化、伝統芸能と時代劇文化の関係性については、児玉竜一氏による日本芸能史の積層性のポイントから時代劇文化の日本文化・古典芸能との不可分の関係性が示された。また、斉藤利彦氏の論考では歌舞伎と映画のマクロで具体的な人的ネットワークからの濃厚なつながりと継承性が明らかにされた。さらに和楽の中本哲氏、中本敏弘氏からは時代劇の音楽性と和楽の馴染み深い親和性が語られ、藤原征生氏は和楽を含む伝統的日本音楽を時代劇がいかに吸収してきたか、その歴史と意義を論じている。同時に、時代劇として独自の技術が蓄積されてきた演技としての殺陣や所作、そして時代劇衣裳の技術と特殊性など、時代劇制作に必要とされる特殊な職能について、学術的な蓄積に基づく論考が加えられた。 今回の調査報告では、すでに無形文化財として認定・評価されている文化・古典芸能との関係性を示す論考を中心に構成・編集したが、時代劇制作文化の理解と普及には、今後も継続して学術的エビデンスを重ねて蓄積していくことが重要と考えられる。時代劇制作技術の可視化を進め、保存・継承すべき 技能・職能のポイントをより明らかにすること、そして海外に目を向け、諸外国の歴史を扱った創作文化にどのような保護・振興がなされているかの調査なども時代劇制作文化の無形文化財登録に向けて必要となるであろう。前回の報告書とあわせて、本報告書はそうした展開の基盤となるものと考えられる。またこの取り組みが、時代劇のみならず、アニメーションも含めた映像文化をめぐる社会的な位置づけや、認識、制度を変える一助となることを願う。 |
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