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知恵の経営、元気印、経営革新、チャレンジ・バイの各認定等を受けた府内中小企業等を紹介するページです。
(インタビュー:平成31年2月、掲載日:令和2年3月、ものづくり振興課 足利)
株式会社食一(外部リンク)(京都市)の田中代表取締役にお話をおうかがいしました。
--まずは御社の概要を教えてください。
田中)2008年創業、現在(インタビュー時)5名体制で、全国飲食店・スーパー・鮮魚店向けに、全国100か所以上の漁港から直送する海産物卸や、お店オリジナルの水産加工品の製造請負などを行っています。
--100か所以上の漁港ですか!
田中)漁港によって、漁法が違うのはもちろんのこと、浜値も違えば質、水揚げ時間、取り扱い方、環境、さらにはその漁港に所属している漁師ごとでも質は違ってきます。「産直を以前したことがあるけどうまくいかなかった」「思っていた魚が来なかった」などという話をよく聞きますが、それはお客様の求める魚とその漁港で揚がる魚のミスマッチが原因によるものです。
--なるほど。
田中)私たちは提携している漁港の状況を実際に見て聞いて、お客様の代わりに漁港を見ているという気持ちで細かいところまで確認をしてきています。その中で、お客様の業態、メニュー、店舗数、求める質、価格、魚種、納品形態など様々な情報を伺ったうえで、100以上の中から最適な漁港を選び、魚を出荷しています。
--いいですね!しかも、御社は珍魚も扱ってらっしゃるとお聞きします。
田中)定番の魚から、その漁港周辺でしか出回らない、他では見たことも聞いたこともない変わった魚などを扱っています。変わった魚を扱ったことがない飲食店・小売店さんでも扱いやすいように、捌き方やどんな料理に合うかなど魚の特性を存分に生かしていただけるように、魚を卸した後のフォローもさせていただいています。他では扱えないような魚をお店の売りとして使っていただくことで、お店に来ていただく常連のお客様から新規のお客様まで目を引くようなメニュー作りにもなります。
--具体的にはどんなものが?
田中)本当にいろいろあるんですが、例えば「ヌタウナギ」。韓国では高級食材としてよく用いられており、舞鶴の漁師さんで専門に獲ってらっしゃる方がいますね。宮津の栗田あたりで獲れるので、地元では「栗田アナゴ」と言われているとおり、ウナギじゃないんです。味も全然ウナギとは違って、食感は軟骨みたいな感じです。初めて食べた時、漁港でその場で焼いて食べさせてもらいましたが、これ、むちゃむちゃ美味いです!見た目はグロテスクかもしれませんが、食べた方はこの味に骨抜きにされること間違いなしですよ。
--そう言われると美味しそうに見えてきます(笑)
田中)ミシマオコゼは、徳島でよく獲られますが、京都でも揚がりますね。薄造りでのコリコリの食感がたまらない。から揚げにすればオコゼに負けない味わいです。カマガリは、大分に釣るのが上手な専門の漁師さんがいますね。天然のタイのような味わいで、地元では、お祝いの時に食べられたりする、めでたい魚です。
ミシマオコゼ(左)、カマガリ(右)
--ほんと、美味しそうに見えてきました!
田中)サメのみりん干しなんかもありますよ。紀伊長島の名物品。エイヒレのように炙って食べてもらうと最高の酒のあてになります。
--いやあ、これはさすがに「Jaws」にしか見えません(笑)
田中)サメのみりん干しは、そのまま炙っても美味しい逸品ですが、天ぷらにすると全く違う逸品に早変わりします。
--そう言われると、やぱり美味しそうです!
田中)カメノテ。見た目が亀の手に似ていることから、この名がつきました。エビなど甲殻類の仲間で、エビ同様濃厚な旨味があり、汁物や酒蒸しに向いています。マンボウの腸は、コリコリした食感と、癖のない味わいは一度食べると病みつきになりますね。
--マンボウって、水族館で見るものだと思ってました(笑)。でも、美味しそう!さっきから「美味しそう」しか言ってなくてすみませんが。
田中)例えば「鱧」って、京都では食べますが、私が生まれた九州では1回も食べたことがないんです。全国的に食べるものだと思ったら間違いなんです。このように「流通していない食文化」を広めていくことが私たちの使命の一つだと思っています。なので、調理方法などをその地域の漁港の方々に聞いて、それを伝えていくということも重要ですね。
--なるほど。
田中)このように全国には、まだまだ皆さんが見たことも聞いたこともない魚が数多く存在します。そんな魚の中でも本当に美味しいと思える魚に「海一流ブランド」として認定していく取り組みもしております。また、通販サイトとして「魚魚っとネット」もあります。
--さきほど「釣るのが上手な漁師さん」の話がありましたが、釣るのが上手というのは?
田中)他の漁師さんが釣れなくても、その人は釣ってくるということもありますし、釣った後の処理が上手いというのもありますね。身がばちっと引き締まってて、魚の形もピンとして、見るからにキレイなんです。
--そういう漁師さんお一人お一人まで知ってらっしゃるというのは、すごい強みですね!
田中)ぶっちゃけ「やりにくいなー」と思う漁師さんもいますよ(笑)。だけど、何度も通って、懐に飛び込んで、受け入れてもらってきましたね。
--すごい努力です。
田中)レンタカーを借りて車で寝泊まりをしながら漁港を回り続ける日々もありました。創業から今まで数えきれないほど漁港に足を運んできました。顔が見えるだけではなく、その魚を送ってくれる人の内面までも知ってこその取引だと思っています。「こいつらになら魚を送ってあげたい!」そう思ってもらえるように港ごとの文化や雰囲気なども理解したうえで深い付き合いをしていきたいと思っています.
--このお仕事をされようと思った経過は?
田中)私は、九州で明治時代より120年以上続く魚の仲買業の次男として生まれ、幼少の頃より新鮮で美味しい魚に囲まれて育ちました。刺身を実家で食べる時には大皿にこれでもかというぐらいの刺身の量。正月には、大盛りの丼鉢に山盛り刻んだナマコを入れて大根おろしとポン酢で食べる。骨の髄まで魚で育ってきたので「将来は、兄と共に実家の魚屋を継ぐ!」という夢を持ってました。しかし大学に入り、様々な勉強をしていく中で漁業の現状・問題点を知りました。このままでは、魚屋をするどころか私の大好きな魚が食べられなくなってしまう!という思いが募っていきました。そんな時に、母校の同志社大学でビジネスプランコンテストが開催されるということで、試しに自分が思い温めていたプランで挑戦してみましたところ、優勝をいただくことができ、たくさんの方のご指導・ご支援のもと、大学卒業を待たずに1年間休学をして、2008年に自身でこの会社を設立したのです。京都府・京都産業21の応援ファンドにも大変お世話になりましたよ。
--そうですよね。
田中)いろんな方々に助言をいただく中で、当社の差別化要素をどうしようかと考え、行きついた先が、先ほどご紹介しましたような、他では見たこともない変わった魚を流通させるということでした。
--そうだったのですね。では、今後の展望はいかがでしょうか。
田中)漁師さんが儲かるような、そんな仕組みを自ら作りたいのです。漁師さんも高齢化が進んでおり、儲からないからと、なり手が少なくなってきています。それに、魚自体が減ってきているという問題があります。そこで、流通自体を変えていくのが当社の使命です。そしてゆくゆくは、自社で漁船を持つ、それが私どもの夢です。
ぜひ、夢を実現してほしいです!
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