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知恵の経営、元気印、経営革新、チャレンジ・バイの各認定等を受けた府内中小企業を紹介するページです。
(掲載日:平成30年4月25日 聞き手・文:ものづくり振興課 土江)
平成28年度「知恵の経営」認証企業、招德酒造株式会社(外部リンク)(京都市伏見区)の蔵元、木村紫晃さまにお話をお伺いしました。
―まずは、御社の概要を教えてください。
木村) 弊社は1645年に洛中で創業して以来、長きにわたって酒造りに取り組んできました。名水の里であるここ伏見の地へ移転したのは大正時代になります。
戦後に近代化の道を歩んできましたが、そのなかで「酒造り」が量産化・装置産業化によって没個性化し、商品としての魅力を失っていくことに危機感を抱き、1970年代初めより、醸造アルコールを添加しない「純米酒」の復活・普及に注力してまいりました。
「純米酒こそが清酒本来の姿」というこだわりは、現在まで受け継がれており、契約農家と連携した栽培品種・栽培方法の研究開発、京都産米使用への特化等と、さらに深化し、広がりを見せています。
穏やかな芳香と柔らかな味わい、米の旨さと自然な酸味が調和する招德の純米酒は、京都の食文化と伝統に育まれ、「燗でよし、冷でよし」の美味しい酒とご愛顧いただいております。
―御社のお酒はどのように造られているのでしょうか!?
(1)洗米・浸漬
木村) まずは契約農家から届いた米をよく観ることが重要で、白米の手触りやツヤを確認したうえ、洗米することで米についた糖や不純物を丁寧に洗い落とします。その後米を水に浸すのですが、浸水時間を、米の品種や精米具合、当日の天気等によって変化させており、ここは蓄積された知識に基づいた判断が必要となる、繊細な工程です。
かつて使用していた洗米機は、一度に米を洗う方式で、機械の中の場所によって米の浸水時間にばらつきがあり、京都で生まれた酒米「祝」のような繊細な米だと、洗米時に水流の力が加わるだけで割れてしまうこともありました。そこで平成27年に多品種小ロット向けの三段式洗米機を導入し、デリケートな酒米でも品質を落とさず丁寧に洗うことができるようになりました。「守るべきは守り、変えるべきところは変える」という弊社の知恵が活きております。
(2)蒸し
木村) 次は蒸米です。米を「炊く」のではなく「蒸す」のは、この後の麹造りに必要な麹菌が繁殖するのに、最も適した水分含有量を得られるからです。
蒸米は麹造りや、酛(もと)・醪(もろみ)の質に関わる大切な工程で、蒸しの温度や時間には、弊社に昔から伝わるノウハウがあります。
蒸米装置には、温度等のセンサーが装備され、蒸しあがった米の粘りや色、芯の具合を細かく制御できます。蒸しあがった米の状態確認は人が行っていますので、新しい技術と伝統技術が融合した工程となっております。
ここまでの工程が、酒の「品質」や「味」を決めると言っても過言ではありません。
(3)麹造り・酛造り
木村) この麹造り・酛造りは、微生物がはたらく環境を整える工程と言え、非常に繊細です。まず、蒸米に麹菌を振りかけて、温度・湿度を調整した室(むろ)と呼ぶ培養室で麹菌を増殖させます。麹菌が増殖しだすと、麹菌が米のデンプンを糖に変え、麹の温度が上昇しますが、上がりすぎないよう、蒸米の塊をほぐしてその都度調整します。麹造りが完了したら、蒸米を室から出して冷まし、これ以上麹菌の繁殖が進まないようにします。
蒸しの工程で酒の「品質」や「味」が決定されるのに対し、日本酒独特の「風味」や「香味」は、この工程で決定されます。
そして、出来上がった麹と蒸した米・水をタンクに入れ、さらに酵母菌を加えると、酵母菌が糖を取り込んでアルコール発酵します。こうして出来上がったものを、「酒の元」と書いて「酛」あるいは「酒母(しゅぼ)」と言います。
木村) 一般的な酛の製造方法では、最初に乳酸を添加して酸性にすることで、雑菌や野生酵母の混入を防ぎますが、弊社では、蔵に住み着いた天然の乳酸菌の力を借りる昔ながらの「生酛(きもと)造り」に取り組んでおります。生酛造りは江戸時代に確立された方法で、非常に時間がかかりますが、有機酸やアミノ酸糖が多く含まれる味わいの奥深いお酒が出来上がります。
(4)仕込み
木村) 酛を大型タンクに移し、さらに、麹・蒸米・水を加える「仕込み」を4日間・3回に分けて行い、段々と発酵させます。この方法を「三段仕込み」といい、発酵中の状態のものを「醪」と言います。
(5)搾り
木村) 発酵が終わったら醪を搾機でゆっくりと圧縮して、生酒と酒粕に分離します。出来上がった生酒は、そのまま出荷したり、あるいは加熱殺菌(火入れ)したうえで瓶詰め・出荷します。生酒は時間の経過と共に品質が変化しますが、近年人気が非常に高く、お求めになる方も多いです。
―なるほど!ところで、御社が他社と差別化を図られているポイントは、何でしょうか。
木村) 生産者である契約農家との強い結びつきです。株式会社丹波西山(綾部市)とは特に密接な関係を結んでおり、一緒に栽培技術の研究や向上に努めるとともに、田植えや稲刈りには弊社の社員が総出で農作業のお手伝いに出向きます。
木村) お酒は口で味わうリアルなものですが、その背景にあるストーリーも楽しんでいただきたいと考えております。伏見地域の酒蔵として、地域住民の方や日本酒好きの方に来ていただける「蔵開き」も実施しており、酒蔵見学や当社の商品を通して、酒造りやその背景にあるストーリーも知ったうえでファンになっていただけるように仕掛けております。
また、その先のつながりも大切にしております。ファンクラブの運営や、米づくり体験の提供、SNSの活用等でファンの方と積極的に交流しており、これによりお客様の嗜好の変化を知ることができますし、「京都の食文化・風土を伝えていきたい」という思いの実現にも繋がっております。
―「知恵の経営」に取り組まれて、良かったことは何ですか?
木村) これまでの取り組みを整理して、自社の強み、弱みを把握するために取り組んだのですが、弊社の長い歴史を振り返るなかで、酒造りへの思いを棚卸して整理したことにより、弊社の強みや弱み、今後の展開や課題を認識できたことです。弊社を応援していただいている関連企業の皆様や生産者、お客様へ、この思いと感謝の気持ちを伝えていきたいと思います。
―伝統の酒造りを守りながら革新を続ける同社の今後が楽しみです!
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