特集1その歴史的・文化的意義を未来につなぐ!
寛永行幸(かんえいぎょうこう)四百年祭
江戸時代の初め、長き戦乱の世に終わりを告げ、公武融和を象徴する行事として行われた「寛永行幸」。以来四百年の節目となる今年、この行幸の歴史的意義と、行幸を機に花開いた寛永文化を再発見するイベントを開催。その魅力をご紹介します。
寛永行幸四百年祭総合プロデューサー
濱崎 加奈子さん
知る
寛永行幸とはいったい何か?
戦乱の世に終わりを告げ公武融和を叶(かな)えた一大イベント
寛永行幸とは、1626(寛永3)年9月6日に徳川将軍が後水尾(ごみずのお)天皇を二条城に招き、5日間にわたってもてなした出来事です。大坂夏の陣で戦国の世が終わりを迎えた後、江戸幕府は諸制度を整え、太平の世への地ならしに邁進(まいしん)。さらに二代将軍秀忠の五女・和子(まさこ)を後水尾天皇のもとへ入内(じゅだい)させ、朝廷との結び付きを強めました。
そうした中、公武融和の世の到来を象徴する行事として行われた寛永行幸には、全国の大名の8割近くが集結。約9千人からなる壮麗な行列を、当時の町衆たちはきっとわくわくして見守ったことでしょう。そして、この行幸を契機に、京都には多彩な文化が花開くこととなったのです。
二条城行幸図屏風(びょうぶ)に描かれた人々
屋根に黄金の鳳凰(ほうおう)が輝く
天皇の鳳輦(ほうれん)と従者たち
酒を酌み交わしながら見物する人々
感じる
四百年前の行列を令和の世に再現
京都御苑から二条城までを行列が練り歩く
そんな寛永行幸から今年で四百年を迎えることを記念し、12月6日に行幸行列の主要シーンを再現するイベントを開催します。再現に当たっては、膨大な史料と専門家の知見をもとに、行列の構成やルート、装束、牛車(ぎっしゃ)などを復元。有職故実(ゆうそくこじつ)に基づいて再現された装束を身にまとった約330人の行列が、京都御苑から二条城までの約3キロを、絵巻物さながらに京の町を練り歩きます。
行幸行列再現イベント
日程
12月6日(日曜日)
時間
※詳細な時間は公式Webサイトへ
出発式
12時頃(京都御苑建礼門前)
到着
14時30分頃(二条城東大手門前)
訪ねてみました行幸行列再現プロジェクトの現場
四百年前の行列の再現は、京都に受け継がれた知恵と技、そして、それをつないできた人の思いを結集した一大プロジェクトとして進められてきました。その一端をご紹介します。
「行列参加者への礼法研修」
四百年前の「心」を歩くために
今回の再現行列は、単に歴史衣装をまとって歩くパレードではなく、四百年前の京都で大切にされていた礼節や人を敬う心を今に受け継ぐためのもの。そのため府内だけでなく、北海道から沖縄まで全国から公募・抽選で選ばれた行列参加者全員を対象に、弓馬術礼法小笠原流による礼法研修を実施しました。研修では全員が袴(はかま)を身に着け、正しい姿勢での立ち方、相手と呼吸を合わせた礼の仕方や歩き方などを繰り返し稽古。遠方からの参加者も「視線や所作も含めて歴史絵巻の一部になれるよう、家でも稽古します」と意気込んでおられました。
研修で最初に教わるのは、正しい姿勢。一つひとつの動作には理由があります
「家光の装束と牛車を再現」
京都の伝統工芸の技を結集して
寛永行幸において徳川家光が使用した装束と牛車を、京都が誇る職人の技術を結集して復元するプロジェクトにも取り組んでいます。
装束の再現に当たっては、『御装束之図(おんしょうぞくのず)』に残された記録をもとに反物(たんもの)の図案を起こし、織り出すための紋型を制作。寛永の時代と同様、織り、張り、染め、仕立てなど工程ごとに幾人もの職人の手を経て織り上げていきます。
牛車については、『徳川家輿車図(とくがわけよしゃず)』などの文献に基づき、金具や装飾に至るまで緻密に整えて再現。寛永の美意識を蘇(よみがえ)らせます。
文献をひもときながら一つひとつ工程を重ねていく装束と牛車の復元
提供:寛永行幸四百年祭実行委員会
御所から二条城へ向かう後水尾天皇の鳳輦/「二条城行幸図屏風」(部分)/泉屋博古館蔵
深める
寛永行幸をきっかけに花開いた文化
政治だけにとどまらず、文化の面においても公家と武家の融和が図られ自由な発展を遂げた寛永の美意識
寛永行幸の主役である後水尾天皇は、学問を好み、和歌や書などを極めた文化人でもありました。寛永期には後水尾天皇を中心に文化サロンがいくつも形成され、公家や武家、町衆といった階層を超えて教養と美意識を磨き合いました。
それまでは公家や武家の中でそれぞれ伝えられてきた文化が相互に共有されたのが、寛永という時代だったのです。こうして寛永期の京都で育まれたさまざまな文化は、のちの日本文化に多大な影響を与えています。
能楽
寛永行幸では、二条城を舞台に5日間にわたって和歌や管絃(かんげん)など多彩な饗応(きょうおう)が行われました。中でも、この行幸を象徴する重要なもてなしとして位置付けられたのが能楽です。二の丸庭園に特設の能舞台を設け、後水尾天皇と徳川家光が大広間に並んで共に能楽を鑑賞した記録が残されています。当時の能楽は武家の嗜(たしな)みとして位置付けられ、天皇が鑑賞することは初めての出来事でした。当日、上演された演目には『翁(おきな)』『難波(なにわ)』『猩々乱(しょうじょうみだれ)』などがあり、当時を代表する能役者たちが勤めました。能楽は単なる芸能ではなく、公家と武家が同じ場で美意識と秩序を共有するための文化的基盤として機能していたのです。
今年9月6日、金剛能楽堂で催された寛永行幸四百年祭記念能では、二条城で後水尾天皇と徳川将軍が観覧した『猩々乱』が、異なる流儀の二人の能楽師によって舞われました
提供:寛永行幸四百年祭実行委員会
茶道(茶の湯)
安土桃山時代に千利休が「わび茶」を大成した茶道(茶の湯)は、寛永期、小堀遠州(こぼりえんしゅう)、金森宗和(かなもりそうわ)、千宗旦(せんのそうたん)など傑出した茶人のもと身分を超えた横断的なサロンが作られ、洗練されていきました。寛永期には、現代に見られるような流儀は形成されていなかったのです。花や香、書画、工芸、文学的素養、建築、庭園など総合的な教養を必要とする茶道は、寛永期の文化的傾向と合致し、新たな魅力として幅広い階層の人々に受け入れられました。
たとえば古典的な和歌から引用した銘を茶道具に付け、「綺麗(きれい)さび」といわれる美の世界を開いた小堀遠州は、寛永行幸の際に二条城の改修を指揮した官僚であり、行幸の前後に数十回にわたる茶会を開いて行幸を成功に導きました。また、八幡の僧侶・松花堂昭乗(しょうかどうしょうじょう)は、茶は遠州の弟子で狩野派の絵をよくする書の達人で、茶を通して幕府と朝廷をつなぎました。
後水尾天皇も自ら茶会を開き、茶道具を作らせるほど茶道を愛好しましたが、その茶会は船遊びや能楽など他の芸能を伴う一日がかりのものだったといいます。
私たちが今、見たり触れたりしている京都の文化の多くが、こうして寛永の時代に新たな進化を遂げ、今に受け継がれています。
亭主自らが茶を点て、立場を超えて客人を迎える茶道
唐物中心だった茶道具が和物中心になったことも、寛永の時代に起きた変化の一つ
触れる
「ほんまもん」の展示で寛永文化を再発見
特別展「寛永 太平がはぐくむ美」
寛永文化と寛永行幸を軸に、江戸時代初期に花開いた京都文化の粋を紹介。本阿弥光悦、俵屋宗達、野々村仁清、池坊専好など名高い芸術家を多く輩出した時代の空気に触れるひとときを。
日時 〜11月15日(日曜日)10時から18時(金曜日は19時30分まで)※入館は各30分前まで
料金 一般1,800円ほか
《松鶴文様小袖》京都府蔵(京都文化博物館管理)展示期間:~11月15日
徳川秀忠からの下賜とも伝わる《刀 無銘貞宗(名物二筋樋(ひ)貞宗)》/重要文化財/株式会社ニトロプラス蔵/展示期間:〜11月15日
寛永期に活躍した絵師・狩野山楽が手掛けた二条城大広間四の間の障壁画《松鷹図》(部分)/重要文化財/京都市(元離宮二条城事務所)/展示期間:〜11月15日
[お問い合わせ]
京都文化博物館
TEL:075-222-0888 FAX:075-222-0889
さらに詳しく! 京都府立図書館 「寛永行幸四百年」展示コーナー
寛永行幸や寛永文化に関する書籍や資料を集めた展示コーナーを設置しています。ご来館の際はぜひお立ち寄りください。
日時 〜12月23日(水曜日)9時30分から19時(土曜日・日曜日・祝日は17時まで)
料金 無料
1階閲覧室の一角にて展示
[お問い合わせ]
京都府立図書館
TEL:075-762-4655 FAX:075-762-4653
CHECK京都・寛永つながるミュージアム
寛永行幸に関する展覧会や作品の展示を各所で開催しています。
四百年の歴史とともに未来の京都へ
寛永行幸は、朝廷と武家の融和を全国に示す歴史的な出来事でした。また、寛永行幸を契機として花開いた寛永文化は、芸術、学問、生活文化など幅広い分野に影響を与え、日本文化の発展に大きな足跡を残しています。
この寛永行幸から四百年の節目を迎える今年、府はその価値を現代に活かす取り組みを京都市や京都商工会議所をはじめ関係機関と連携のもと進めてきました。そして皆さまの熱意によって、四百年前の壮麗な歴史絵巻が今まさに蘇(よみがえ)ろうとしています。
この節目を機に、当時の精神を見つめ直し、観光・文化・産業のさらなる発展へとつなぐ取り組みを京都全体で推進しながら、京都に息づくかけがえのない文化を未来へ受け継いでまいります。
京都府知事 西脇隆俊
参考:『寛永行幸四百年祭公式ガイドブック』寛永行幸四百年祭実行委員会編(京都新聞出版センター)、『京都 二条城と寛永文化』Living History in 京都・二条城 協議会編(青幻社)
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