3.水ガニの漁獲がなぜ不合理なのか
(1) 商品価値からみた問題点
ここで、「たてガニ」と「水ガニ」の単価を比較してみます。図3に両者の甲羅の大きさと平均的な単価の関係を示しました。「水ガニ」の単価は「たてガニ」と比較すると、甲幅9〜10
cmの小型のカニでは約7分の1、甲幅13 cmの大型のカニでは約10分の1とかなり低くなっています。また、「水ガニ」だけに注目すると、その単価は甲羅が大きくなるにしたがい高くなる傾向が認められます。
1尾の雄ガニを水揚げして最大の金額を得る方法は、より大型の「たてガニ」を漁獲することです。これは、実際の漁業で実現させることは残念ながら困難です。しかし、漁獲金額を少しでも高める方向としては、「水ガニ」の漁獲は極力少なくし、「たてガニ」で漁獲すること。「水ガニ」を漁獲するのであれば、小型のカニは控え、大型のカニを獲るということです。
現在のズワイガニ漁業では、最も単価の低い甲幅9cm台の小型の水ガニを多獲しています(図2)。例えば、この漁獲を我慢したとすれば、翌年にはその一部が「たてガニ」となり単価は7倍になります。また、「たてガニ」にならなかったカニは、翌年には脱皮を行い、ひとまわり大きい「水ガニ」となり、単価は高くなります。
1尾の雄ガニをいかに上手に(=高く)漁獲するかを考えると、現在の漁獲の仕方は「不合理」と言わざるを得ません。
(2) 生物の再生産からみた問題点
雄ガニの再生産の役割とは、雌ガニとの交尾です。まず始めに、ズワイガニの交尾について簡単に述べておきたいと思います。
ズワイガニの交尾には大きく2つの形態があります。ひとつは、雌ガニが成熟し、脱皮をした直後に行われる交尾です(図4の「交尾1」)。雌ガニはその直後に生涯の最初の産卵を行います。その後は、1年に1回の産卵を行い、生涯に産卵を5〜6回繰り返し寿命となります。なお、その間は脱皮をしません。
もうひとつは、2回目以降の産卵を行う直前の交尾です(図4の「交尾2」)。このときには、雌ガニは脱皮をしないことから、甲羅は硬い状態にあります。
「交尾1」では、甲幅約6cm以上の全ての雄ガニがその能力を有します。一方、「交尾2」では、「たてガニ」だけがその能力を有します。
最近の研究では、ズワイガニの再生産のためにはとくに「交尾2」が重要であることが分かってきています。同時に、現在の漁業の下では、「交尾2」の能力を有する雄ガニが全体的に不足していることが指摘されています。その原因のひとつが、実は交尾能力を有しない「水ガニ」の多獲にあるのです。小型で未成熟である「水ガニ」の漁獲は、再生産の面からみても不合理といえます。
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