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2.事業家への試みと問題点、課題
 
 サザエの栽培漁業化を進める道筋(図1)に基づいて行われました事業化への試みについて、いくつかの事例とその中で明らかになった問題点を整理してみました(図2)。そして、これらの問題点、課題を解決するためのこの間の取り組みについてもいくつか御紹介します。
1)種苗量産
 京都府栽培漁業センターでは殻高5mmサイズの中間育成用種苗を毎年50万個以上生産していただいています。しかし、種苗の量産化が進むにしたがって殻高5mm未満の規格外の小型種苗が数多くできますが、これらは未活用のままとなっていました。したがって、これらの小型種苗を有効利用できる技術開発が必要となってきました。そこで、当センターでは平成3年に陸上円型水槽を利用して、殻高3mmの小型種苗を6月から中間育成しましたところ、12月には殻高約18mmに成長し、約80%が生き残りました(表2)。したがって、殻高5mm未満の小型種苗についても放流用種苗として有効利用できる見通しができたわけです。
2)天然海域での中間育成
 昭和63年からは漁業者の皆さんによる天然海域での中間育成が開始されました。昭和63年には13地区17ヶ所でこの中間育成が実施され、平成元年には9地区12ヶ所、平成2年には8地区8ヶ所、平成3年には10地区10ヶ所でそれぞれ同様に実施されました。
 しかし、表3から判りますように、4年間にわたる天然海域での中間育成の結果、実際の漁場に放流する殻高20mm以上の種苗(以下放流種苗という)の回収数は6,000個から66,000個の範囲と芳しい成績とはなりませんでした。また、昭和60年の実験開始以来、船揚場などの静穏域で種苗の中間育成が行われてきました。外海に面した所でも漁港内等のその地域にとっては比較的静穏な海域で中間育成が行われてきました。その育成結果を図3にまとめてみましたが、当初の目標に達する放流用種苗の回収率をあげた事例は一部に限られていることが判ります。このように、天然域での種苗の中間育成によっては放流用種苗の数が当初の目標どおりに十分確保できないという問題が生じました。
 このように放流用種苗の回収率が低い原因については考えてみますと、その一つは天然域での中間育成という方法は静穏度がかなり高い海域でないと成りたたないという点にあります。外海に面した所でも漁港内等のその地域にとっては比較的静穏な海域を選んで中間育成が行われたわけですが、この方法で十分な放流用種苗の回収率をあげるためにはそれでも海域の静穏度が不足するということです。もう一つの原因としては、天然域での中間育成という方法は静穏度の高い海域を中間育成場として永続的に利用していこうとすると、餌となる海藻を維持するために育成中の種苗が放流用種苗の大きさに達した時点でほぼその全数を中間育成場から回収しなければならない、しかも、潜水してこれを回収しなければならないという点にあるのではないかと思います。育成中の種苗が放流用種苗の大きさに達するのはどうしても秋から初冬となり、潜水するには水温条件が厳しい時期に当たります。また、全数に近い数を回収しようとするとかなりの作業量が必要で、夜間(夜間の報が効率よく回収できる)も含めて数日を要します。さらに、水視漁業に携わる皆さんは比較的年輩の方が多く、潜水作業に馴染みにくいという面もあります。このような諸条件が重なって放流用種苗の回収率が十分進まなかったものと考えられ、多くの放流用種苗がそのまま中間育成場に取り残される結果となりました。したがって、事業家に向けての試みの中で、天然域での中間育成手法は天然の生産力を利用して低コストで放流用種苗を生産できるという長所をもつ反面、以上に述べましたような短所を持っていることが明らかになりました。
 さらに、この間、放流用種苗の回収が十分進まないことに起因してもっと重大な問題が発生しました。静穏度が高く、餌海藻が豊富で中間育成に適した海域はもともと限られている中で、高率で生き残った放流用種苗の内、一部のものしか回収されないために、取り残された多数のものが中間育成場の餌海藻を食べ尽くしてしまうということが起こりました。このような状況が続く中で、しだいに中間育成できる海域がなくなっていき、放流用種苗の不足がいっそう深刻になっていきました。
 このため、サザエの主要生産海域である外海域の漁場に放流用種苗が供給できなくなり、サザエの栽培漁業の展開に著しい遅れがでてきてしまいました。したがって、放流用種苗を安定的に大量供給できる中間育成方法が必要となり、餌海藻の増殖技術の開発なども必要となってきました。
 このような中間育成段階の問題に対して、先に述べましたように陸上での中間育成が可能となった他に、平成3年には海上での篭による中間育成で殻高7mm以上の種苗を殻高約20mmまで育成することも可能になりました(京都府水産事務所試験)。現在、府では天然海域での中間育成、陸上での円型水槽を利用した中間育成、海面での篭による中間育成という3つの方法で漁業者の皆さんによる中間育成を進めていただいております。しかし、天然域中間育成については育成する場がほとんど消滅してしまっているため、現実には陸上中間育成と海面篭中間育成の2つの方法が主流となっています。この2つの方法についても漁業者の皆さんへの技術移転が十分進んでいないために、現状では必ずしも十分な放流用種苗の確保が達成されていません。この間の放流用種苗の供給に関しては京都府栽培漁業センターの協力を得ておりますが、できるだけ早い時期に技術の移転を進めようとしておりますし、放流用種苗の安定した供給体制を確立するために、放流用種苗供給体制の見直しも検討されつつあります。

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