天橋立の保全対策について
はじめに
- 特別名勝である天橋立は、「白砂青松」として日本三景の一つに数えられ、毎年全国各地から年間100万人を超える人々が訪れ、丹後地域の重要な観光資源となっています。
- その天橋立は「丹後天橋立大江山国定公園」第1種特別地域に指定されており、国定公園利用拠点として総合的な整備を行う集団施設地区にも指定されています。
- 天橋立は白い砂と約6,700本の松でできており、その姿は「白砂青松」として古くから愛され、文人墨客により和歌や絵画により表現されてきました。
- 京都府としては、これまでから松枯れ対策を行い、海岸部分については港湾事業として砂州の侵食対策など天橋立の保全対策に取り組んできました。しかし、平成13年には176本の大規模な松枯れ被害に遭い、平成16年には台風23号により約200本の倒木被害を受けました。
- このような経緯を踏まえ、平成17年に松枯れ対策の継続と併せて松並木の適正な管理を検討する「天橋立公園の松並木と利用を考える会」を立ち上げ、専門家や地元メンバーを委員として4回にわたり検討を行いました。
- 天橋立公園の松並木と利用を考える会(都市計画課)
松並木のあるべき姿とは
- 天橋立は「白砂青松」という形で千年以上も続いてきました。何故、続いてきたのでしょうか?
- その理由を考える中で松の特性、天橋立の現状等、天橋立の松を取り巻く環境について考えることが大切です。
松の特性は?
- 陽樹であり、陽光を好む
- 乾燥地、やせ地でも生育可能
- 肥沃地では広葉樹林へ遷移する
- 天然更新で繁殖できる
- キノコと共生し、菌根を形成する
松は海岸や山の尾根など土壌環境が優れているとは言えない場所で見られる事も多くあります。
逆に、土壌の富栄養化が進むと、広葉樹へと遷移が進行するため、松は生育しにくい状況となります。
植物群落の遷移(松は放置すると広葉樹へ植生遷移する)
天橋立の現状
- 土壌養分が良好な状態である
- 遷移が進んでいる
- 光環境の問題がある
- 地下水位の問題がある
- 現在の天橋立は腐植土により栄養過多の状態であり、松以外の植物が育ちやすい環境となっており、それは松自身にも影響しています。
- 天橋立は地下水位が高いため松は苦労せずに水が吸収できるので、根をあまり張らない状況にあるといえます。
- それに加えて、土壌養分がよくなっていることから根は余り育たないまま、幹だけが高く育ってしまい、バランスの悪い状態となっています。
- 平成16年の台風23号の際には、松が根から倒れる例が多く見られたのもこれらのことが影響していると考えられます。
下草の繁茂
下草の繁茂している様子 |
光環境の悪い状態 |
台風による倒木被害の状況
なぜ天橋立の松並木が千年以上も存続してきたのでしょうか。
- 人が主に日々の燃料として、松の落ち葉や落ち枝を活用していた。
- 松はヤニが多く燃やすと高温になるため、製鉄にも使われていた。
- しかし、化石燃料への転換を機に人と松の関わりは失われてしまった。
- その結果、天橋立の松並木は、徐々に広葉樹林への遷移を進行させている。
|
昔は炊事や風呂に沸かす燃料として、松の枝や葉などを集めていました。
そのことが松林を良い環境に保つことに繋がっていました。
地域による天橋立の保全活動
地域ボランティアによる取り組み
- 天橋立は日本を代表する景勝地であるとともに、ふるさとの財産として地域住民達によって愛され続けてきました。
- その地域住民中心としたボランティア団体の代表として「天橋立を守る会」があります。
- 天橋立を守る会は昭和40年1月に結成され、天橋立の景観を守るため日々活動されています。
- 主な活動として、天橋立の公園清掃や毎年恒例行事として「クリーンはしだて1人1坪大作戦」が取り組まれています。
- また、天橋立の環境をテーマとした啓発活動も実施されており、周辺地域の小・中学生を対象にした環境学習も実施されています。
台風以降のボランティアの取り組み
- 台風23号による約200本という倒木被害は、私達だけでなく、地域の人々やこれまでから天橋立に関わってきた人々にとっても大きな出来事でした。
- 被害直後、天橋立を心配して駆けつけた地域住民達は、その悲惨な松並木の状況を目の当たりにして「自分たちも天橋立を何とかしなければならない」と立ち上がりました。その思いが1つになり、有志による「天橋立名松リバース実行委員会(外部リンク)」が設立しました。
- 「天橋立名松リバース実行委員会」は台風で倒木した松を地域活性化を目的とした再利用としてベンチやフラワーポットなどを作成したり、住民達への天橋立への意識を高めるために、フォーラムを開催するなど、台風以降の天橋立の復活を目指した取り組みが行われています。
- こうして、今も天橋立は私たち行政だけでなく、地域住民達によって守られているのです。
松の保護から松並木の適切な管理へ
このような現状から天橋立の松並木を適正な状態に戻して行くには、従来から行ってきた松枯れ対策などに加えて、新たに次のような作業が必要となります。
引き続き実施する作業
|
新たに必要となる作業
|
- 下草刈り
- 支柱の設置
- 後継樹育成
- 植樹
- 命名松後継樹の育成
- 後食時期の薬剤散布
- 枯死松の伐倒、持ち出し
- 周辺林枯死松の処理
|
- 地面表層の草と腐植土の除去
- 落ち葉掻き
- 適度な間伐除伐
- 整枝剪定
- 高齢松の根系回復
- 踏圧改善
- 松林の巡視
|
天橋立に必要な3つの管理
松並木の保全育成作業を進めていきためには、上記の「松林の管理」だけではなく、「砂州の管理」や「利用の管理」と連携しながら進めていくことが必要です。
松林の管理
砂州の管理
利用の管理
- 歩道整備による進入箇所の限定、ビジターコントロール
天橋立周辺環境の保全
- 天橋立の美しさは「天橋立十景」でも表されるように、様々な角度からその景観の美しさを楽しむことができます。それは周辺の山々、海、そして町並みとの一体となって表現されるものであるため、一体的に環境保全を考えなければなりません。
- 現在、天橋立周辺の町並みを検討する「天橋立周辺景観まちづくり検討会」や阿蘇海の浄化を考える「阿蘇海環境づくり協働会議」など、周辺環境保全についての取り組みが進められています。
取り組み状況
森林保全作業
下草(葛)除去作業、松葉拾い
- 松林に悪い影響を与えている下草の除去や土壌の富栄養化を防ぐために松葉も積極的に拾わなければなりません。
- 地域住民やボランティアと協働で下草の除去や松葉拾いを実施しています。
地域やボランティアとの協働による管理作業の実施
保全作業である葛の除去や松葉拾いだけでなく、漂着ゴミの除去を含め協働作業での取り組みについて、関係機関とも連携して実施しています。
多くの方々に協働した取り組みをしていただいています。
世界遺産登録を目指して
- 白砂青松の天橋立の美しい景観について、文化遺産として価値を高め、未来へと継承する必要があります。
- 現在、天橋立とその周辺地域について、世界文化遺産としての登録に向けて、取り組みが進められています。
- 天橋立世界遺産登録に係る取り組みについて
天橋立関係のページへ
お問い合わせ先
丹後土木事務所 施設保全課 ダイヤルイン電話 0772-22-3245