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知の京都- 増村威宏さん (京都府立大学大学院生命環境科学研究科 遺伝子工学研究室 教授)

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無限の可能性を秘めた「矮性イネ」

(2023年8月1日、ものづくり振興課:安達、水口、稲継)

京都府立大学大学院 生命環境科学研究科 遺伝子工学研究室の増村威宏先生に、お話を伺いました。 

増村先生はイネのスペシャリスト

---増村先生の研究内容を教えてください。
  • 主要研究課題は、「イネの種子の利用」です。基礎的研究としてイネ種子タンパク質の合成・蓄積機構の解明、イネの利用、品質向上などを研究してきました。
  • 研究の中で、イネのプロラミンというタンパク質が蓄積するPB-Ⅰ(プロテインボディ-Ⅰ)が人の消化器官では消化されにくく、腸管まで有用成分を輸送するワクチンのカプセルとして利用できる可能性を発見しました。
  • このPB-Ⅰを活用した経口ワクチンの開発・実用化に向け、東京大学医科学研究所(現千葉大学医学部附属病院)との共同研究を進めています。
  • また、新たな戦略として、グリーン抗体高発現イネを「矮性イネ」として作出する研究をしています。

医薬品分野への展開が期待される「矮性イネ」

---「矮性(わいせい)イネ」とは何でしょうか。

  • 「矮性イネ」とは、植物の成長ホルモン「ジベレリン」が欠損することで生じる、草丈が約20cm程度の超短稈イネのことです。矮性イネ自体は、自然界でも突然変異により生じ得るもので、もともとは遺伝子組換等により作られたものではありません。小さいため1本あたりの収量が少なく、屋外生産に不向きのため、これまで農業者には認知されてこなかったものです。
  • 私の研究は、先ほどの抗体タンパク質を蓄積する遺伝子組換えイネを、矮性イネ「京のゆめ」を用いて作出し、栽培システムを構築することです。
  • 矮性イネの利点は、草丈が短く、水耕栽培が可能であることから、植物工場等でLEDを用いた省スペースでの多段栽培が可能となります。また、播種から収穫までが3か月と短いため、結果的に安定した品質のものを大量に栽培する、グリーンな抗体生産システムを構築できます。
---食品分野ではなく、医薬品分野への展開なんですね。
  • 食品分野は、遺伝子組換え作物にはネガティブですからね。
  • また、そもそも遺伝子組換え作物は、自然界への影響を防ぐために、法律で屋外での栽培(第一種使用)が規制されているのですが、医薬品として品質を均一に管理する観点からも、屋内栽培が望ましいのです。屋内栽培に適した矮性イネを医薬品分野へ展開することは、非常に理に適っています。
  • 昨今の新型コロナウイルス感染症の流行により、備蓄ワクチンの必要性が高まっています。従来のワクチンは冷蔵保存が必要ですが、矯正イネでワクチンとなる有用なタンパク質を生産する方法では常温での長期保存が可能であるため、世界的規模の安価なワクチンを供給できる可能性があります

 ハウス内で栽培される矮性イネ

 棚で多段栽培される矮性イネ(シールは作付け回数)

未来の食に向けた研究

---先生は未来の食に向けた研究もなさっているとか。

---どのような会社でしょうか。

  • 経営理念は「未来の食システム」を提案することで、主にイネ事業食用昆虫事業を行っています。
  • イネ事業の残渣(米ぬか等)を利用してミルワーム等の食用昆虫の飼育を行い、その加工残渣を有機肥料としてイネ事業に還元する……という循環型食糧生産システムを考えていますが、残念ながら食用昆虫事業については、なかなか広まらないですね(苦笑)
  • また、自然農法は環境負荷が小さい栽培法ですが、安定な収量確保等が課題のため普及が進んでおりません。このため脱炭素に貢献できる農法であることを科学的に示すためにも温室効果ガス削減に関する定量分析等にも注力していきたいと考えています。

---「食用昆虫」の展開は難しいのでしょうか。

  • そうですね。昆虫を食用とすることには根強いアレルギー感があると思います。それでも日本は、地域によってイナゴやざざむしを食する文化があるのでまだ寛容ですが、欧米ではほとんど広まっていません。
  • また、家畜や漁業への飼料としての展開も、簡単ではありません。生産者は品質向上のため餌に非常に気を遣っており、飼育期間の一時期のみでも、餌に不純物が混ざることは敬遠されます。それまでの苦労が水泡に帰すリスクを考えれば、実績の無い飼料を「お試し」で与えることは難しいですね。

医薬品分野への展開が期待される「矮性イネ」。

今後も研究が進めば、様々な分野へさらなる可能性が開けそうです!今後が楽しみですね。

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