ここから本文です。

株式会社TSK(京都企業紹介)

知恵の経営元気印経営革新チャレンジ・バイの各認定等を受けた府内中小企業を紹介するページです。

京都企業紹介(業種別) 京都企業紹介(五十音順) スタートアップ title_naiture 京都府の産業支援情報

レアメタルではなく、地球の重さの3分の1を占める鉄の触媒で新たな材料を作る

(2022年6月6日、ものづくり振興課 足利・足立)

鉄鋼鉄触媒

株式会社TSK(外部リンク)(精華町)の孫代表取締役にお話をおうかがいしました。

京都の研究力×世界的企業の展開力

--鉄触媒の社会実装に取り組んでらっしゃるとお聞きしました。

孫)はい。京都大学化学研究所の中村正治教授と共に、2021年7月に当社を立ち上げ、鉄を触媒とした環境負荷の小さい合成方法の社会実装に取り組んでおり、韓国のサムスンらと有機EL材料の共同開発を行っています。

--世界のサムスン!!すごいじゃないですか!

孫)いえ、京都大学の化学研究も世界一です。ノーベル化学賞の受賞者もとても多いですし、私はそんな京都大学で化学を研究したいと思って、韓国慶北大学の大学院から京都大学の大学院に進学し、博士号を取得しました。その後、国内の化学メーカー、そしてサムスンディスプレイにも勤務していたのですが、中村先生とのご縁で、鉄触媒の実装化に取り組むこととなったのです。

--日本の産業は、技術は得意でも、ビジネスモデルや世界展開の面が下手だとよく言われますし、理想的な組み合わせですが、いくら勤務経験があるとは言え世界のサムスンと共同開発とはすごいですね。

孫)もちろん、巨大な相手ですし、私自身の経験上も、事業化はそうたやすいものではないと思っています。それでも、京都大学の優れた基礎研究を、ぜひとも実装化に繋げ、お世話になった京都に恩返しがしたいのです。

--会社名のTSKって何の略ですか?

孫)鐵(Tetsu)触媒(Syokubai)化学(Kagaku)の略ですね。「金を失う」の「鉄」ではなく、「鐵」という文字にしているのも、こだわりです!

研究室

C-Nクロスカップリング反応など鉄触媒にしかできない合成を実現

--いいですね!さて、鉄触媒の特長をお聞きする前に、まず、触媒について教えてください。触媒って、化学反応を促進するもの、すなわち、原子間の組み換えを起こしやすい活性化状態になるエネルギーを通常より下げるものですね。原子間の組み換えを起こしやすいように、触媒が原子と弱く結合するのだと聞いたことがあるのですが、その弱い結合の正体って何ですか?

孫)それはいろいろなパターンがあるのですが、一例を挙げますと、「クロスカップリング反応」というものがあります。医薬品や農薬、液晶・有機ELなどの開発、工業生産に欠かせない化学技術ですが、例えば、炭素と炭素を結合させるのは一般に難しく、多くの場合高温や強塩基などの強い条件を必要とします。クロスカップリング反応では、プラスに帯電、マイナスに帯電した炭素源を使うことで、炭素どうしを合成することが可能です。プラスに帯電した炭素に、金属触媒が電子を与える(酸化される)ことで炭素-脱離基結合を切るとともに、酸化された(電子を奪われた)触媒とマイナスに帯電した炭素とが配位子交換を起こすことで、触媒を介してプラスに帯電していた炭素、マイナスに帯電していた炭素がくっつき、そこから触媒が離脱して炭素-炭素結合が生成されます。

--なるほど。

孫)この際の触媒として、レアメタルであるパラジウムやニッケルが多用されてきたのですが、それらが不得手とするものに、ハロゲン化アルキル(炭化水素の水素原子1つをハロゲン原子で置換したもの)を求電子基質とするクロスカップリング反応というものがあります。しかし、鉄触媒にキレートジアミンという化合物を添加剤とすることで、それが可能となることを世界に先駆けて発見されたのが中村先生です。

--おお!ハロゲンって、フッ素、塩素とか、外側の電子が7個なので、電子を引き付ける力が強い元素のことでしたね。

孫)あるいは、炭素(C)と窒素(N)のクロスカップリングを行うことは難しいのですが、中村先生は鉄触媒による合成に世界で先駆けて成功されました。

--おお!

孫)現在も、様々な化合物の生成を鉄触媒によって進めています。こうした鉄触媒にしかできない合成ができるというのが、1つ目の鉄触媒の特長です。

鉄触媒と化学式

安全、安心、安価と三拍子揃った鉄触媒

--なるほど。

孫)そして2つ目の特長は、レアメタルではないということです。つまり、地球に多く存在し、リサイクルも容易です。そして、毒性も低く、環境負荷も小さいです。

--ビッグバン以降、水素、ヘリウムができて、やがて原子が融合してより重い元素ができて、鉄まで辿り着くわけですよね。鉄より重い元素は中性子星の融合で・・・、ということで、そういう鉄を使うというのは、宇宙好きの私はロマンを感じますねえ。

孫)鉄は、地球の重量の3分の1をも占めます。しかも、安くて、ざっくり言えば、試薬のコストは、パラジウムを用いる場合の3分の1くらいになる計算です。

--事業化のためには、そこは大変重要ですね!

孫)はい。おっしゃったように宇宙で生まれた鉄、生物を育む鉄を活用する化学技術で、人間社会とそれを取り巻く豊かな自然環境の未来を切り拓いていきたいと考えています。

社長
左から孫代表取締役、中村教授、松浦取締役

 

コロナによるサプライチェーンの毀損の問題や国際情勢に伴う経済安全保障などを考えましても、こうした「地産地消」は今後の重要なテーマですね!

お問い合わせ

商工労働観光部産業振興課

京都市上京区下立売通新町西入薮ノ内町

ファックス:075-414-4842

monozukuri@pref.kyoto.lg.jp