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知恵の経営、元気印、経営革新、チャレンジ・バイの各認定等を受けた府内中小企業を紹介するページです。
(掲載日:令和3年11月15日 聞き手・文:ものづくり振興課 笠原、矢島)
株式会社島津製作所(外部リンク)(京都市中京区)の分析計測事業部 営業統括部 東京支社 分析計測営業部 主任 内田あずさ様、同部 グローバルアプリケーション開発センター ライフサイエンスG 主任 岩田奈津紀様にお話をお伺いしました。
―昨年度、「マイコトキシンの分析方法」で京都府発明等功労者表彰を受けられましたが、テーマ選定の経緯を教えてください。
内田) 「マイコトキシン」とは、カビ毒ともいい、食品に付着したカビから産生される代謝物のうち、人や動物に健康被害をもたらす有害成分の総称です。中には発がん性があるマイコトキシンも報告されており、世界各国で規制対象となっています。輸送、貯蔵など様々な段階でのカビの侵害により、農作物や食品がマイコトキシンに汚染されます。高温多湿の環境など保管状態によってカビが発生するのですが、収穫した穀物などの輸送、貯蔵に欠かせない十分な温度、湿度管理を一貫して管理することは難しく、現状ではマイコトキシンによる汚染をゼロにすることは極めて困難と言われています。食の安全という観点から、検査需要があるのではないかと考え、「マイコトキシン」に着目しました。
また、社内的にも、「マイコトキシン」の分析に用いる弊社製品「高速液体クロマトグラフ」の販路拡大とともに社会貢献も考えて、よりユーザー様が使いやすい製品を開発したいという想いもあり、「マイコトキシン」が候補として挙げられたという背景もあります。
―高速液体クロマトグラフの活用について、食品分野での活用を目指して開発を進められたのですね。
内田) そうですね。食品に限らず様々な分野が候補として挙げられていましたが、食の安全・安心に注力して開発を行いました。岩田は、「マイコトキシン」とは異なる「合成抗菌剤」で同様の製品開発を行っています。
岩田) 食の安全・安心に関しては、フードセーフティーアナライザー(食品の安全性を確認する分析装置)という製品がありますが、その中にマイコトキシンスクリーニングシステムと、私が担当した合成抗菌剤スクリーニングシステムがあります。
内田) 岩田のプロジェクトと私のプロジェクトは同時進行で進んでおり、リリースのタイミングも同じでした。
マイコトキシンスクリーニングシステム
―今回のテーマは、きっかけから開発・製品化まで、どれくらいの期間がかかりましたか。
岩田) とても時間がかかりました。合成抗菌剤の場合、24成分のスクリーニング分析の前処理条件と分析条件をそれぞれ2条件作成し、これをパッケージングして発売しましたが1年半程度、条件検討と検証に費やしました。
内田) マイコトキシンの方も同じく1年半程度かかりました。
―この1年半は、ある程度出口が見えていたのか、まったく先が見えない状況で気がついたら1年半経ってしまったのか、どちらでしたか。
内田) 後者ですね。食物が固体の状態も多くあり、液体クロマトグラフで分析するためには、何とかして測定したい化合物を液体に溶けている状態にしなければなりません。この前処理工程の検討も含めて製品化したところが、このプロジェクトの難しかったところの1つです。
当社は、これまで主に分析装置を販売してきましたが、前処理工程も含めてトータルでパッケージ化した製品はほとんどなかったため、どこまでの機能を組み込むのかなど、設計段階から難しかったと感じています。
―製品化は大変だったとのことですが、ユーザーから見ればオールインワン型のメリットを受けられるということですね。
内田) はい。「Ready to Use製品」というコンセプトのもと、「弊社の製品を購入いただければ、すぐに分析できます。」というのが強みです。
―素晴らしいですね。冒頭にご説明いただいた販路拡大に向けた食品分野への展開という動機付けと、ユーザーが使いやすいパッケージ化というコンセプトで提供された製品ですが、ズバリ、ヒットしましたか。
内田) そうですね。特に、ヨーロッパ、東南アジア、中東諸国など海外でヒットしました。検査方法に指定がない地域では、Ready to Useで「この製品を買ったらすぐに分析できるね!」ということでスムーズに受け入れていただけたと感じています。
―今回、発明考案者として、ここが着目点です!というPRポイントを教えてください。
内田) マイコトキシンの分析をされたことがなくても、前処理や分析条件などノウハウを製品化した点がPRポイントになると思います。
―お値段はどのくらいですか。
内田) 定価ベースで約1千万円です。液体クロマトグラフに加えて、マイコトキシンの分析で必要な装置に要する費用が追加となります。例えば分析条件が入ったCD-ROMや蛍光検出器などが対象となります。
―続いては、内田様と岩田様のことをお伺いしたいと思いますが、研究開発業務のやりがいや魅力をお聞かせいただけますか。
内田) これまでも研究開発業務に携わってきましたが、やはり新しい技術を創り出すことができるというのが、研究開発業務の魅力だと思います。
私たちのお客様は、各業界の専門家です。ものづくりの専門家や研究開発者であり、新しいものを創り出したいとか、製品を改良したいと思ったときに、課題を把握する際に分析技術の相談を受けることが多いです。このように、ものづくりの上流側で波及効果が大きいところに携われていると感じられるところが魅力ですね。
内田あずさ様(写真左)、岩田奈津紀様(写真右)
―確かに、社外でも認められるような、いわゆる第三者的評価は大切かもしれませんね。
岩田) 苦労した分、嬉しさが倍増するので、本当にありがたいです。
―御社では、入社後比較的早い段階から開発に取り組めるものなのですか、または、ある程度下積み期間が必要なのでしょうか。
岩田) 私の場合、入社してすぐに先輩の開発を手伝いながら、開発業務の流れを勉強後、開発プロジェクトを任されるようになりました。合成抗菌剤やマイコトキシンの開発は4年目くらいだったと思います。一人で分析条件の選定ができるようになった頃に、今回のプロジェクトの担当となりましたが、経験が少なかった前処理技術や分析条件の検討を試行錯誤しながら経験を積むことができ、このプロジェクトを通じて成長できたと感じています。
内田) 今回受賞した3人、私と岩田、中島は同期入社の3人です。そういった意味では同じタイミングで入社した3人で力を合わせ、独り立ちしたてのタイミングだったと思います。試行錯誤しながら、なんとか対応したというのが正直なところです。
―御社では、入社2年目から3年目あたりで独り立ちしていく傾向なのですか。
内田) そうですね。若手に任せる文化、チャレンジできる環境があります。もちろん放任するわけではなく、職場の上司や先輩のフォローもありますが、まずは自分でやってみて、失敗し、そこから学んでいくことを受け入れてくれる文化があると思います。
―若手に任せる文化、チャレンジできる環境、さらに失敗から学んでいくことを受け入れてくれる文化もあるとのこと、研究者が成長できる環境が整えられているのですね。
内田) その通りだと思います。今は、入社10年目になりますが、最近は後輩をフォローする立場になってきていると感じています。
―今回ご受賞された3名様は全員女性ですが、御社の女性研究者比率はどれくらいですか。また、お仕事とご家庭、いわゆるワークライフバランスや会社のサポート体制についてお聞かせいただけますか。
内田) 同期入社100人の中で女性の技術職は15人程度です。現在、中島は育休中ですが、女性のライフイベントがあっても続ける方が非常に多く、女性の平均勤続年数が長いのも弊社の特徴です。出産に限らず介護など、様々なライフイベントがあると思いますが、続けられる体制や福利厚生制度が非常に整っていると思います。
さらに、テレワーク制度やフレックスタイム勤務、介護休暇に育休・産休も充実しており、最近は男性の育休取得者も増えてきており、働きやすい環境が整っています。
―ご受賞のテーマやお仕事の進め方についてご説明いただきありがとうございました。ここからは、少し個人的な面をお伺いしていきたいと思います。
そもそも理系の仕事あるいは将来、理系に進もうと思われたきっかけなどエピソードがあれば教えてください。
内田) 文系理系の選択は、たしか高校1年生あたりで選択したと思いますが、とても悩んだ記憶があります。文系にしようか、理系にしようか。大きなきっかけというものはなかったのですが、祖父や父が工学系の大学出身で理系出身者が身近にいたということと、化学や生物の勉強が面白いなと思ったことが決め手となって理系を選びました。
岩田) 私は小学生の頃から環境問題に非常に興味がありました。その頃は明確に将来の夢とまでは意識していなかったのですが、高校入学後、文系・理系の選択をする少し前くらいにゼミ形式の授業があり、その時に理系のゼミを選択したことがきっかけになりました。
特に、グループ研究の経験がとても大きくて、携帯電話を活用した自由研究プログラムである「ボーダフォン・モバイル・エコ・スクールアワード」で、ブロンズ賞(全国3位)を受賞しましたが、宇宙飛行士の毛利衛さんからお褒めのお言葉をかけていただき感激したことを覚えています。そのときの研究テーマは、ガラケー用のアプリケーションを作成し、太陽活動を速報するという活動で、アプリケーションを通じてネットワークを広げ、理系の人を増やしたいと思って取り組みました。この活動を通じて、将来は研究職を目指そうと思い進路も理系を選択しました。
―高校のゼミでそこまで。
岩田) そうですね。研究成果は、伏見の青少年科学センターで、小・中学生やお子さま連れで来られている保護者にアピールしていました。
太陽活動の観測結果に基づいて、今、太陽ではこういうことが起こっていますよという速報をメールマガジンのような形式でお知らせする仕組みで、オーストラリアへの研修旅行が副賞のグランプリを狙っていたのですが(笑)。
―進路選択のお話から、全国3位のエピソードとは!ザ・リケジョの面目躍如ですね。
―それでは、普段のお仕事や生活の中でのモットーなどあれば教えてください。また、今後の目標をお聞かせいただけますか。
内田) モットーは「失敗は成功のもと」。とりあえず迷ったらやってみることを心がけています。
岩田) チャレンジすること、粘り強く継続することを意識しています。やらないで後悔するより、やって後悔した方が良いですからね。
内田) 今後の目標は、もっともっと技術や知識を吸収して、お客様に喜んでいただけるような技術者になりたいと思っています。現在、私は営業部門に所属しており、毎日お客様と接する中で製品提案を行っています。既存の技術をどう組み合わせて、お客様のニーズに応えられる提案ができるかということに注力しており、「これが求めていた製品です!」と喜んでいただけることもあります。この経験を生かして、再び製品開発に携わったり、社会課題に取り組んだりしたいと思っています。
岩田) やはり最初に申しましたように、お客様に喜んでいただけるような製品や分析条件を創り出すということを常に念頭に置いています。今後もたくさん実験し、経験を積んでいきたいです。また、後輩の育成にも尽力したいと思っています。
社是にある「科学技術で社会に貢献する」を体現、後輩の指導にも注力されているお二人の、今後さらなるご活躍を期待しています。
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