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知恵の経営、元気印、経営革新、チャレンジ・バイの各認定等を受けた府内中小企業を紹介するページです。
(掲載日:令和元年11月25日、聞き手・文:ものづくり振興課 足利)
株式会社SeedBank(外部リンク)(京都市左京区)の石井代表取締役にお話をおうかがいしました。
--まず、京大発バイオベンチャーとうかがっていますが、御社の概要を教えてください。
石井) 2017年2月創業、現在6名体制で、「微細藻類ライブラリ提供サービス」を行っています。
--藻類、ですか。たしか学校で習ったのは、種子植物、シダ植物、コケ植物、藻類、菌類、こんな分類でしたっけ?コンブやワカメなどのように、主に水中にいるのですね。
石井) そういった海藻も藻類ですが、細胞1個だけで構成される、目に見えないほどの小さな微細藻類が、圧倒的な数・種類で存在しています。中でも珪藻と呼ばれる微細藻類は2万種とも10万種ともいわれており、未知なる種もまだまだたくさんいるのです。微細藻類は、太陽の光を利用して二酸化炭素を吸収し、有機物を供給する一次生産者でもあります。我々人類がこの地球上で生きていけるのは、この微細藻類のおかげといっても過言ではありません。
--そうなんですね。
石井) 例えばイワシやサバなどの青背の魚によく含まれているDHAやEPAといった脂肪酸は、元々は微細藻類が生産したものです。食物連鎖を通じて、魚類がそれらを濃縮し、最終的に我々人類が利用しているのです。また、微細藻類は様々な環境に適応して生息しており、地球上のあらゆる場所でその姿を見ることができます。現在、地球は急激な温暖化による生物への影響が危惧されておりますが、こうした環境変動に最初に反応するのは微細藻類です。そうした意味において、微細藻類は環境や生物多様性の指標として極めて重要な存在といえます。当社ライブラリの提供先は、健康食品メーカーから、飼料・肥料、化粧品、汚水処理など様々な分野の企業様がターゲットです。当社が保有する微細藻類の中から目的に応じた種を選択し、製品開発をサポートすることが当社の役割です。
--藻類を用いた商品で有名な企業さんも何社かいらっしゃいますよね。
石井) 当社のように、分離培養と単離株提供に特化したサービスを展開する企業は、今のところいらっしゃいません。当社は、私の長年の研究活動を通じて蓄積した約1,000株の微細藻類をコアコンピタンスとしています。この規模は突出したものだと思いますし、当社が世界で初めて分離培養に成功した微細藻類株も多数存在します。特に、これまで培養が困難とされてきた微細藻類種を中心に、新たな産業創生に貢献できるものと考えております。
--すごい!ですが、逆に、どうして御社は?と言いますか、藻類は歴史も古くたくさんの種類があると分かっているのにどうして?という疑問が生じるのですが?
石井) 例えば、大阪湾にどういった微細藻類がいるかということは、だいたい分かっています。しかし、水中を浮遊しているそれら微細藻類の中から、1種類だけを分離する、つまり、水中の目的外生物全てを取り除く、その技術が非常に難しいのです。例えば、水中には微細藻類以外にもバクテリアなどの微生物が大量に存在します。これは微細藻類の増殖にネガティブに作用することがあります。ですから、このバクテリアを取り除く作業が必要になります。この作業を経た微細藻類は、“無菌培養株”として極めて高い価値を有します。また、上手く目的の微細藻類が分離できたとしても、それが増殖するか否かはその後の培養環境に依存します。我々は、この分離と培養の技術が極めて優れています。
--なるほど!それを御社は独自の技術で実現されていると。どうされているのですか?
石井) 申し訳ないのですが、お見せはできません。
--企業機密でしょうから、当然ですよね。
石井) 手法の一部は国際論文でオープンにしていますが、論文では書くことが出来ないレシピのようなものも存在します。また、極めて高い集中力を持続しながらの緻密な作業になりますので、多くの人が諦めるような作業かもしれませんね。作業環境も重要で、当社には私だけが使える作業部屋があり、たとえ社員であってもその部屋には入れないことになっています。
--えっ?どういうことですか?
石井) 外部環境からの微生物やホコリなどの混入をなるべく防ぎたいからです。単離作業は、顕微鏡を覗きながら、細いガラス管のようなものと先端の尖った動物の毛を用いて、目的以外のものを「えい」「えい」とはじき飛ばしながら、最終的に目的の微生物だけの状態にします。
--えー!!顕微鏡クラスの小さな世界で、手作業なのですか?!
石井) はい。一本釣り漁の漁師、いや、スナイパー、といった気分ですよ。私は長年技術を磨いてきまして、自分の体、手の揺れのリズムをつかむことができます。この作業をする前には、3日前からお酒も断つなど健康状態には気を使いますね。ただ、この作業も近い将来に機械化していこうと思っています。実は先ほど、5年前に一度だけ見かけたサッカーボールのような形をした新たな微細藻類を偶然再発見して、それと格闘していました。事前に万全の準備を整えた上で得た一期一会のチャンスなので、格闘が長引けば、このインタビューを断らざるを得なかったかもしれません(笑)
--間に合っていただいて良かったです。それにしても「職人技」なんですね。「京大発」とか「バイオベンチャー」とのことなので、「最先端の機材で」という先入観を持っていましたが、久々に良い意味で予想を大きく裏切られ、とても興奮します!
石井) これまで100人以上に教えてきましたが、ほとんどの人が挫折しましたね。論文を読んだ研究者から「うまくできない」とクレーム(?)を時々いただきますが、「丁寧に慎重に」とお答えしております。
--そりゃそうでしょうね(笑) 単離したものの培養は?
石井) 会社の培養器のなかで大切に保管されております。
--良かった。なんか安心しました(笑)
石井) この分離・培養技術で、微細藻類の一種である珪藻の選択的単独培養に世界で初めて成功し、有用株の生産が可能となったのです。
--素晴らしいですね。それにしても、どういう経過で今に至ってらっしゃるのですか。
石井)中学生の頃は、賀茂川などの河原で水生昆虫を採集していましたね。これは釣りの餌のためです。そのうち、その水生昆虫の種類が川の環境によって異なることに気付きました。そのことを夏休みの自由研究にしたら、当時の理科の先生(近衛中学校の竹村先生)にえらく褒められたことが大きなきっかけになりました。その後、その研究で多くの賞を頂きました。楽しいことで褒められて幸せでしたね。中学生の頃に書いた論文?は膨大な枚数で、研究者になってからも当時以上の枚数の論文は書いていないと思います(笑)。そういえば、母親の友達から顕微鏡をもらったこともありました。その顕微鏡で家の前の白川疎水の水を観察した時の驚きを今でも覚えています。
--顕微鏡!
石井) まさに宇宙でしたね。普段みている世界はちっぽけな世界なんだと。高校時代は研究から離れてラグビーに励んでいました。料理が好きで、有名料亭で板前のアルバイトをしたこともありましたね。そのまま料理の世界に入ろうと思いましたが、当時知り合った大学生たちの話を聞いているうちに、研究欲が蘇ってきました。2012年に京都大学大学院農学研究科博士の学位を取得、その後も研究を続けるなかで偶然にも新しい微生物培養方法を見つけ出しました。その方法で人類初の微生物培養にも多数成功し、これは人類の未来を変える技術であると確信しました。その技術で、2015年に京都大学起業家育成プログラム(GTEP)で優勝し、2017年に当社を設立するに至りました。
--そうなのですね。では、今後の展望はいかがでしょう。
石井) 様々な可能性のある微細藻類を、多くの産業で利用していただけるようにすることが私たちの目標です。そのために、分離・培養の技術の自動化や、保存技術を高めていくなどの技術革新や体制整備を図っていきたいと考えています。微細藻類の力で世界は大きく変わります。例えば、近年、深刻な問題になっている地球温暖化に対しても、光合成を行って二酸化炭素を吸収する微細藻類が環境とビジネスの両面で大きな役割を担うことになります。しかしながら、当社だけでこれを進めていくことは出来ません。今後は、多くの企業、様々な分野の人達とともに新しい未来を創造し、人類のより良い未来に貢献していきたいと考えおります。
素晴らしいお取組です。今後がますます楽しみです。
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