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知恵の経営、元気印、経営革新、チャレンジ・バイの各認定等を受けた府内中小企業等を紹介するページです。
(掲載日:平成31年4月3日、聞き手・文:ものづくり振興課 足利)
株式会社オーガニックnico(外部リンク)(京都市西京区)の近藤営業リーダー様、鷲田アグリサイエンス部長様にお話をおうかがいしました。
―マスコミへの露出も多い御社でらっしゃいますが、本日は改めて、御社のお取り組みについて、お話をおうかがいにまいりました。
近藤) 2010年創業し、現在、パートさんを含めて30名以上の体制で、有機農法による野菜の生産(野菜事業)、生産技術の開発(アグリサイエンス事業)を行っています。
―まず、野菜事業について、どういった品目を生産されているのですか?
近藤) ハウス35aでミニトマト、ベビーリーフなどを、露地100aで九条ネギ、レタス、葉菜類などを栽培しています。土作りがしっかりできた豊かな土、つまり微生物たっぷりのふかふかの土だと野菜が元気に育ち、安全で美味しいうえに、そんな野菜を食べると免疫力も高まり健康につながると言われています。
―なるほど。そうした野菜を産むのが有機農業ということですね。かつては「有機」「減農薬」などの言葉が氾濫していましたが、現在、「有機農業の推進に関する法律」第2条や、有機JAS規格(有機農産物)第2条などにも「化学的に合成された肥料及び農薬の使用を避けることを基本として」云々といった定義がなされていますね。
近藤) ここでいう有機農法とは、化学合成農薬や化学肥料を使用せず、「土づくり」と「生態系づくり」を基本とした農法のことです。弊社は、2017年5月に「有機JAS認定」を取得しました。平成11年に改正されたJAS法により有機(オーガニック)で栽培された農産物および農産加工物は、有機JAS認証機関による認定を取得することで「有機JASマーク」の表示ができるようになりました。
―「土づくり」と「生態系づくり」ですか。
近藤) まず「土づくり」の目的の1つは、農作物に安定的に養分、水分、空気を供給することです。そして、もう1つは、良好な微生物環境を構築して病虫害や連作障害を回避することです。土壌微生物の多様性のバランスが崩れると、農作物の病害や生育不良を起こすからです。
―なるほど。
近藤) 農作物の養分、あるいはその中にいる微生物の餌となるボカシ肥料、油粕などの「養分源」、牡蠣からの石灰、草木灰、苦土石灰などの「ミネラル源」、そして、緑肥、堆肥、キノコ廃菌床、竹チップなどの「腐植源」といった「有機物」を漉き込むか、あるいは、竹炭、もみ殻等の「物理的改良資材」を用いるかして、土の水はけと通気性を良くして好気性微生物を繁殖させるわけです。こうして、腐植量を増やして、微生物を豊富に増やして、ふかふかの土を作ります。
廃菌床と堆肥散布車(左)、物理的に水はけを良くするプラソイラ(右)
―まさに生物由来の有機物を用いた農業ですね。緑肥というのは?
近藤) 栽培している植物を収穫せず、そのまま田畑に漉き込み、植物と土とを一緒にして耕し、後から栽培する作物の肥料にすること、あるいはその植物のことです。緑肥を組み入れた連作、輪作も行っています。
ハンマーナイフモアで粉砕、鋤き込み(左)
―そうなのですね。では、「生態系づくり」についてはいかがでしょう。
近藤) 生態系を活かした農法の例として、エンドウ豆とキャベツの混植などもありますね。キャベツがエンドウの草抑えになりますし、エンドウが小さいうちにキャベツは外葉展開するので日照競合しません。あるいは、ナスとセロリを混植することで、夏はナスの日陰でセロリがよく育つといったこともあります。
―オーガニックについてはわかりましたが、社名のnicoというのは?
近藤) 国内における有機農業で栽培した農産物のシェアを、2025年に25%まで引き上げようという弊社の進めている運動です。現在のそのシェアはわずか0.4%でありまして、弊社の野菜についても、よく「どこで買えるの?」と問い合わせをいただきます。近隣では京都生協さん、スーパーマツモトさん、イズミヤさんの一部の店舗でお求めいただけます。
―すごく高い目標ですね。
近藤) 有機JAS規格の認定をとっているとはいえお値段は少し高いのに、私たちが有機にこだわるのは、子どものアレルギーしかり、人体への影響、あるいは地球環境への影響を慮るからです。こうした人体の問題、環境の問題って、時間がかかり、すぐに答が分かりませんから、結局、突破していくためには「熱い思い」しかありません。私は、もともと高齢者施設の運営をしていまして、当時の弊社から野菜を仕入れていて、中村社長のことはよく知っておりました。中村社長は「地球環境」への思いが熱く、私は「人」がいかに心豊かに生活していけるかということへの思いが熱く、お互い響き合ったんです。
―そうだったのですね。では次に、アグリサイエンス事業について教えてください。
鷲田) ハウス内環境制御装置「Harmony」というものがございます。これは、栽培ハウスに、「風向風速・降雨センサ」「照度センサ」「温湿度センサ」「CO2センサ」等を備え、ハウス内環境の状態を可視化するとともに、天窓や換気扇、加湿器、CO発生装置等を自動制御するものです。例えば、「雨が降っている」「温度が高い」というような環境を把握して、「じゃあ、どの位置のどの窓を開けようか」ということを自動で判断して開ける、といったものです。
―IoTですね?
鷲田) はい。しかし、それだけではありません。たしかに、この装置の目的の1つの柱は、ハウス内の情報を可視化することで「省人化」、例えば暖房費等の「経費の節減」を図ろうということです。しかし、もう一つは、植物の光合成能力を高めることで、「収量アップ」や、例えば糖度等の「品質アップ」を図ろうということです。光合成には、温度、光、CO2濃度等が大きく関係しますが、当社は、これらのバランスの良い「解」を出すためのアルゴリズムを有しているのです。
―そういうことなのですね。
鷲田) 当社は、さきほどご説明があったとおり、「実際の生産現場」を有しているほか、計測制御などの「システム技術」については、中村社長をはじめとして、長年大手メーカーでの開発経験が豊富な人材がおりますし、更に、土壌、生態系、作物生理、微生物応用等の「農業技術」を有しているのです。
―なるほど。様々なセンサも開発なさってますね。
鷲田) そうですね。近赤外線分光技術を利用した、栄養状態を計測する硝酸態窒素センサですね。
―硝酸ですか。
鷲田) 植物は硝酸塩等の形で根から窒素を吸収し、その窒素と、光合成の中間産物を利用してアミノ酸を合成し、最終的にタンパク質となります。
―なるほど。植物がアミノ酸やタンパク質を生成し、それを食べる動物が排泄物を出し、また土壌が形成されて・・・という循環があるわけですね。
鷲田) そうですね。植物の話に戻しますと、硝酸と光合成のバランスによって、吸収された硝酸がどれだけアミノ酸に合成されるか変わってくるので、品質にも大きな影響があるのです。
―いろんな要因が複雑に絡まり合って、農業って本当に難しいですね。センサーで情報を把握しても、なかなか活かしきれないんじゃないでしょうか?
鷲田) そうなんです。そこで、私どもが有しているアルゴリズムを活かした、こういう場合にはどういうアクションをすべきかという解を出す、コンサルティング事業を開始しており、そのシステムの開発を進めています。
―それは、圃場の場所など固有の事情は反映されるのでしょうか?
鷲田) 気象庁等のデータ等も取り込んでいます。私たちが目指しているのは、作付計画の近代化と申しましょうか、どの辺りに、どんな品種を、どのくらい作付したら、どのくらい儲かるか、ということを提示したいのです。
―素晴らしいですね。今後の展望はいかがでしょうか?
鷲田) このコンサルティング事業は、日本国内だけでなく、巨大な人口を抱える中国を見据えて進めています。そうした巨大市場を抱えるところで、本当に人の体にも地球の環境にも良い、効率や生産性のよい農業を実現していくことを目指して日々努力しているところです。
今後の展開が大変楽しみです!
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