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株式会社OND(京都企業紹介)

知恵の経営元気印経営革新チャレンジ・バイの各認定等を受けた府内中小企業を紹介するページです。

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トレランや登山に革命を!「IBUKI GPS」

(2021年12月12日、ものづくり振興課 足利)

ibukigpsデザイン

株式会社OND(外部リンク)(京都市)の近藤淳也代表取締役社長にお話をおうかがいしました。

今までできなかったことができる世界を創造する

--株式会社ONDのお話の前に、すみません。以前からどうしても聞きたいと思っていたことがあります。大変失礼な質問なのですが、2001年に創業された株式会社はてな(当時は有限会社)のブログサービスなどが、趨勢の激しいインターネット業界の中で「なぜ成功し、なぜ続いているのか」ということです。2006年出版の御著書「『へんな会社』のつくり方」も当時、拝読しましたが、いつか近藤さんに直接聞いてみたかったのです。

近藤)最初「人力検索」というQ&Aのサイトを立ち上げたのですが、あまりうまくいかず、会社が潰れそうになりました。仕方なく、当時入居していた京都リサーチパークの中を営業して廻り、受託開発のお仕事をいただいて凌ぎました。当初は目論見違いだったと痛感したんですよ。

--そうだったのですね。

近藤)そうしているうちに、なんとか売上の目途も立つようになり、やはり「自分たちのアイデアをカタチにしたい」という思いが再び沸き起こってきて、「はてなアンテナ」を始めました。これはすぐに数万人に使っていただくサイトになりました。しかし、ビジネスモデルを組み込んでいなかったので、収益にはなりませんでした。それでも、「使ってもらえた!」「知ってもらえた!」と。

--ああ、なんか、気持ち、わかります。

近藤)次の「はてなダイアリー」は、1年もかからず数十万人に利用いただけるようになりました(今は数百万人)。途中から、広告や課金などのビジネスモデルも組み込み、なんとか会社としての体も成り立つようになっていきました。当時はこういうサービスはなく、一番早かったということはありますね。

--ふむ・・・。どうしてこうしたサービスを始めたいと思われたのですか?京大の情報系でしたっけ?

近藤)いえ、理学部の測地です。そのために必要な装置づくりとか、それを動かすプログラムなど、ハードとソフトの両方に携わっていたとうことはあります。しかし、何より直接的なきっかけは、大学1年の時に、初めてインターネットに触れたんです。HTMLで書いて、キーボードをたたいたら、「はい、今、書いたものが世界から見られます」と言われて、衝撃を受けたんです。

--!!

近藤)三重県の田舎出身の自分は、自分の文章を世界に届けられるというのは、作家とか、それなりの人にしかできないことと思っていたのです。しかし、今までできなかったことができるようになったことに、感動したんです。それで、自分のホームページを作って、日記を書いたり、サイクリング部のクラブ活動のことを書いたりし始めました。またニフティのPC通信を使って、テーマごとの掲示板にアクセスしてみると、年齢に関係なくいろいろな人と繋がるといったことが起こったのです。こうして、これまでの一大学生ではできなかったような、世界に表現し、様々な人と繋がって、様々なことを知るということができたんです。それがそのままHatenaのミッションになっています(「『知る』『つながる』『表現する』で新しい体験を提供し、人の生活を豊かにする」)。

まるで老舗企業のよう

--なるほど!そうした感動を、これまでできなかったことを、とても純粋に世の人々に提供するということをなさって・・・、ユーザーもしっかり見ていますから、そうしてユーザーに選ばれて・・・ということですね。さりとて、インターネットの世界で、選ばれ続けるのは大変ですよね・・・。

近藤)インターネットの世界でも、必ずしも1社独占となる分野ばかりではないのですよ。SNSなどは、利用者増が利便性を拡大し更なる増加を招く「ネットワーク外部性」が働く分野ですが、ブログは、書籍の出版社がそうであるように、様々な色があるものが併存する分野です。「はてな」は、読書好きの方々、映画好きの方々、プログラマーの方々などが多いですね。

--なるほど。

近藤)もちろん、類似のサービスも数多く登場してきましたけれど、今はもう無くなっているものも多くあります。なぜはてなが続いているか、というと、まずは「本気で運営し続けている」ということでしょうね。

--本気で?

近藤)当たり前のことなのですが、技術は日々進展していきます。例えば、スマホが出たら、スマホでも操作できるようにとか、iPhoneやAndroidでもちゃんと動くようにとか、きちんと対応し続け、ほったらかしにしないということです。

--なるほど。

近藤)それから、例えば有名人にブログを書いてもらって、ユーザーを一気に増やすということはあまりやってきませんでした。一時的に読者が増えるかもしれませんが、もしその方がブログをやめると、読者もいなくなってしまいます。長く使ってくれるユーザーさんのためのサービスを地道に改善し続けて、少しずつ大きくなり続けてきた、という感じでした。

--ん?!まるで老舗企業のような発言ですね。近藤さんの人柄、考えと言いましょうか、「はてな」の価値観。それが鍵なんだと、今、よく分かった気がします。

近藤)急激に大きくなるよりも、続くことが大事ですから。

--京都っぽいですね!ITのスタートアップは、どちらかと言うと若者特有のギラギラした印象が強いですが、ちょっと違って良い意味で「へんな会社」ですね、著書のタイトルのとおり(笑)。

近藤)ははは(笑)

新たな価値観を!「物件ファン」

--さて、では、株式会社ONDの事業についておうかがいしたいと思います。「UNKNOWN KYOTO(外部リンク)」については、昨年度、京都産業21とともに立ち上げました「Kyoto Startup Homebase(外部リンク)」にてインタビューさせていただきました。そこでは「物件ファン(外部リンク)」についても少し触れていただいています。

近藤)不動産情報って、「駅から徒歩〇分」とか、間取り、家賃とかいった「スペック重視」のものがほとんどですよね。しかし、駅から近いことよりも、その物件で過ごす時間がどう快適なのかという方が重要だったりしますよね。特にコロナ禍以降は、リモートワークをすることも多くなり、駅に近い必要もなくなったり。


「Kyoto Startup Homebase」のホームぺージより(外部リンク)

--たしかに。

近藤)築40年でも、しっかりリノベーションされていてかっこいい物件も増えてきています。でも、大手不動産サイトでそういった別の価値観の物件を探そうにも、どれもスペック重視で、なかなか出てこないんですよ。

--なるほど。

近藤)そこで、大手不動産サイトでは表現できていない、別の価値を表現する言葉を紡ぎ出しているサイトを作ったというわけです。

サイトイメージ(物件ファン)

--いい感じですね!

近藤)物件のオーナーの皆さんから喜んでもらっています。

夜通し100マイルを走るトレイルラン

--こういう不動産、私、とても好きです!では次に「IBUKI GPS(外部リンク)」についてはいかがでしょうか。

近藤)株式会社はてなの経営を軌道に乗せ、後任者に任すまでの15年間は、忙しく、ずっとPCに向かっていました。息子が物心ついたばかりの頃、「お父さんの仕事って指の運動だね」と言われたことがあります。頭の中ではいろいろ考えていますが、結局仕事中に体を動かしているのは指だけだね、って指摘されて、ハッとしました(笑)

--なんと!

近藤)そうなんですよ。そうした生活だったものですから、「はてな」の一線を退き、少し時間に余裕が出てくるようになったので、久しぶりにもっと体を動かそうと思って山に行ったんです。

--山ですか。

近藤)高校時代はワンダーフォーゲル部に所属していたんですよ。山に入るには、登山靴、長そで、長ズボンはもちろん、非常食数日分の準備など何かあった際の荷物などを抱えて重装備でないといけないと徹底して教えられてきたわけです。

--ふむ。

近藤)ところが、その時、短パンにランニングシューズ姿の人たちが、山を駆けていたんです。一見、華奢な女性もいました。そんな軽装でどこから来たのかと聞いてみたら、従来の「登山」では考えられないほど遠方からやってきたことを知りました。トレイルランとの出会いです。

山 山を走る

--ほう!

近藤)今でも、「登山」をする人たちの中には、こういうトレイルランに対し否定的な方もいらっしゃいます。

--ところが!

近藤)はい。「むっちゃ、おもしろそー!!」と。早速、ランニングシューズを買ってきて私も始めました。

--トレイルランというのは、いつ頃始まって、どのくらいの距離を走るのですか?

近藤)本格的に普及し始めたのはこの10年くらいです。距離はどんな距離でも楽しめますが、レースは短いものが20kmくらいから、長いものは100マイル、160kmのレースもあります。100マイルレースを目指す人も多く、そうしたレースでは夜通しで山を走るんです。

夜 雨

--すごい!

近藤)地図が好きで、学生時代にはアメリカ横断をしたくらい冒険も好きで、京都の周辺の山々にもどんどん新しいルートを開拓していきました。京都から実家のある三重まで、できるだけ山道を通って走って帰ったりし始めました。ただ、ランナーの方でも、私のように新しい道を自由に繋いでいくという方は少なくて、私のブログが雑誌で紹介されるようになったり、フォロワーがついたりして、やがて、ランナーのガイド役を頼まれたりするようになりました。

総延長438km、滋賀県境山岳地帯を一周する日本最長級トレイルラン「シガイチ」

--おお!私も地図や冒険は好きで、比べものにならないのですが、若い頃、登山マラソンに出たり、完走できませんでしたが100キロマラソンに出たり、亀岡から京都まで「明智越え」の山道を走ったりしていたことがあり、むちゃむちゃ共感します!

近藤)京都から三重へ、ある時、琵琶湖の北回りで9日間かけて帰った時に、その様子を記したブログを見ていた方から「一緒にレースを主催しましょう」と声を掛けていただいたのをきっかけに、「NPO法人滋賀一周トレイル」を立ち上げ、今では「滋賀一周ラウンドトレイル(シガイチ)(外部リンク)」を開催しています。総延長438km、累積標高28,300mの日本最長級のトレイルです。全体の9割以上がトレイルまたはダートの林道となっており、未舗装率が高いのが特徴です。

シガイチ 集合

--ほほう。京都一周トレイルとか、高島トレイルとか、東海自然歩道とかを結びながら・・・なのですね。

近藤)そうなんです。ただ、奥伊吹の辺り、約30kmくらいの区間が全然繋がってなくて、50日間かけて草刈りをしましたね。長浜に家を借りて。

滋賀県

トレランや登山に革命を!「IBUKI GPS(外部リンク)」で現在地をライブ配信

--なんと!

近藤)で、前置きが長くなったのですが・・・。

--全然いいです!むしろトレイルの話を聞けて最高です!

近藤)最初、数十人程度の少人数で、プレ大会を開催したのですが、山岳地帯を走るので危険ですので、ランナーにGPS端末を持ってもらったんです。すると、バッテリーは持たないし、位置精度もいまいちでしたし、バッテリーが持たないため位置情報の発信を10分間隔にすると、電波状況で1回、2回途切れると、それだけで20分、30分間が空いてしまい、その間にもし何かあれば危険なわけです。

--だったら・・・。

近藤)はい。「だったら作ろうか」と。はてなではソフト、大学ではハードも作っていましたし。それが「IBUKI GPS(外部リンク)」です。

GPS端末 入れ物 ザック

--小さいコンパクトなものですね!ネーミングは、草刈りをなさった「奥伊吹」からですか?(笑)

近藤)それもありますが(笑)、「命の息吹」とか「時代の息吹」とか言った方の意味ですね。

--なるほど。スマートフォンではダメなのでしょうか?

近藤)スマホにもGPSは付いていますが、先ほど言いましたように、既存のGPSには電源等の問題があります。特にスマホの電源を温存させてあげたいのです。

--ふむ・・・。

近藤)IBUKI GPSでは、位置情報をLTE-Mで飛ばします。

仕組み スペック

--それはLPWA、つまり、省電力で遠くまでデータを飛ばせるものですね。

近藤)はい。その情報をクラウド側のサーバーで地図上にマッピングし、それをランナーは必要な時にスマホで閲覧できます。大会運営者は常時監視し、もし何かあれば、ランナーのスマホに電話をかけます。つまり、ランナー自身が地図で位置を確認したり、もしもの時の電話連絡のためにスマホの電源は温存しておきたいのです。

見る

--なるほど!すごく納得です!

近藤)地図上に表されるのはこんな感じです。

山GPS 滋賀GPS

--これまた、むちゃむちゃおもしろいですね!山の中のどこにいるか、全てリアルタイムで分かるんですね。

近藤)そうなんです。ですので、大会の運営もより効率的かつ的確に安全管理が可能となり革新を起こすことができます。山は厳しいところですし、ましてやトレラン(トレイルラン)は、何昼夜走りっぱなしで、意識が朦朧としたりもしますし、遭難することも現実にあります。しかし、IBUKI GPSがあれば、その方の位置がリアルタイムで分かります。山を楽しく安全なところにしたいのです。

--なるほど!

近藤)ですので、山岳救助にも活用できるのではないかと思っています。

--ヘリコプターや救助隊にはものすごくコストもかかりますし、躊躇する方もいると聞きますしね。とても良いですね!

近藤)また、日常生活、例えば、子どもの通学の見守りにも使えます。

--これも良いですね!!

近藤)大人の方もお持ちですよ。トレランの練習でもGPSを持って、ご家庭でも位置情報を把握できるので、そうしたらいつ頃帰宅するとか時間も読めますし、ご家族に人気ですね。私も毎日持っています。

--この「大人」の位置情報の把握だけは・・・、賛否分かれるかも(笑)。では、最後に、「はてな」に続いて2回目の起業ですが、意気込みはいかがですか?

近藤)「IBUKI GPS」にしても「物件ファン」にしても、山を楽しく安全なところにする、物件の知られざる価値観を伝えるといったように、自分たちの技術や価値観で「変えてあげたい」と思うのです。そのために、2回目だからと落ち着いているつもりはなく、どんどんチャレンジしていきたいと思っているところです。

 

これからの発展が楽しみです!

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