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知恵の経営、元気印、経営革新、チャレンジ・バイの各認定等を受けた府内中小企業を紹介するページです。
(掲載日:令和2年11月20日)
京都府立工業高等学校(外部リンク)(福知山市)に実習用としてレーザー加工機を導入されたことをきっかけに、技術習得に加えて企業のものづくり現場における実践事例を学ぶ機会も授業に組み込みたいとの要望を受け、京都北部地域でレーザー加工機をいち早く導入された(株)衣川シャーリングの衣川成也専務取締役に、学生への出前授業を実施していただきました。衣川専務取締役の発表に先立ち、中小企業技術センターの坪井副主査から、レーザーについての基本的な原理と利用事例、安全対策について紹介しました。授業を聞いた高校生から多くの質問が挙がるなど、活発な意見交換が行われ充実した授業となりました。
「レーザーの原理と実用例の紹介」 中小企業技術センター 応用技術課 坪井瑞輝 副主査
「レーザー切断を通じて地元のものづくりを支えたい」 株式会社衣川シャーリング 衣川成也 専務取締役
授業の様子を両丹日日新聞(外部リンク)(令和2年11月20日)に掲載いただきました。
(掲載日:平成30年3月8日、聞き手・文:ものづくり振興課 笠原)
(株式会社衣川シャーリング)
株式会社衣川シャーリング(福知山市)の衣川成也専務取締役に、お話をお伺いしました。
―まず、御社の概要について教えてください。
当社の事業は、鋼材の切断加工、販売が主なもので、社名にもなっている「シャーリング」とは、金属板をせん断し、必要な寸法に切り出す加工機械の名称のことです。顧客の注文に合わせて、鉄やステンレス等の鋼材を販売するとともに、オーダーに応じてレーザー切断、ガス溶断、シャーリング、ノコ切断、曲げ加工等の加工を行っております。
もともと、当社は、昭和30年4月に、鉄工所で使われる鉄板やステンレス鋼材の卸売業として私の祖父が創業しました。その後、現在の代表取締役である父が後を継ぎ、以来、現在に至るまで60年以上の間、福知山や綾部など、主に中丹地域の鉄工所へ鋼材の販売をしてきました。
―どのような素材・製品を扱っておられますか?
主に鉄やステンレス素材を扱っています。製品は、産業機械部品を中心に、特殊治具、建築金物、自動車改造用部品、看板、溝蓋の他、イノシシの檻といったものまであり、多種多様です。
従業員は12名と少数ですが、単に鋼材を切断するだけでなく、レーザー等で切断した鋼材に曲げ加工や穴開け加工などの一次加工を施し、顧客のニーズにきめ細かく対応することをモットーとしています。
鉄鋼材を扱う職場は、いわゆる3K(きつい、危険、きたない)職場と言われていますが、高性能な工作機械を用い、データを駆使した高度な加工方法を考案するなど、新しい取り組みを進めており、ものづくりの面白さを感じることができる仕事だと思っております。
(レーザー切断から曲げ加工の製品例 : モーターカバー)
―御社は、最先端のドイツ製レーザー切断機を中丹地域で初めて導入された中小企業と伺っています。大きな決断をされたきっかけなど教えてください。
創業以来、鋼材の卸とシャーリングがメインの仕事でしたが、2008年のリーマンショックで受注が大きく落ち込み、事業の先行きが不透明な状況になってしまいました。
この時、鋼材を切断するだけでは付加価値が低いので、何とか鋼材の付加価値を高める方法がないかと模索していたところ、古くから付き合いのあった機械商社の紹介で、ドイツのトルンプ社製の高性能レーザー切断機と出会いました。
トルンプ社のレーザー切断機はプログラム制御で非常に高精度な加工が可能です。つまり、CAD-CAMシステムと連動させて、この切断機を使いこなすことができれば、鋼材の仕入から切断加工、さらに後加工である曲げ加工や穴開け加工までを見据えた加工を行うことができ、客先の細かなニーズに即応できるのでは、と考えました。
ところが、問題は資金でした。トルンプ社のレーザー切断機は、中古品でも当社の年間売上総利益の5倍近い投資額であり、なかなか決断できませんでした。
3ヶ月間、悩みに悩みましたが、このままでは事業の将来性も期待できないと考え、新規設備投資により、当社の事業領域を広げる決断をし、2009年にレーザー切断機及びCAD-CAMシステムを購入しました。
(トルンプ社製 レーザー切断機)
(レーザー切断機内 : 加工の様子とレーザー切断サンプル(ステンレス厚さ2mm))
―大きな決断をされたのですね。結果はいかがでしたか?
事業の存続を賭けた大きな決断でしたが、結果は大成功でした。
これまでは、当社で鋼材を切断後、納品した客先では穴開けや曲げ加工、さらに溶接組立を行っていました。同機導入後は、CADを使用した図面展開、レーザー切断、プレスブレーキによる曲げ加工の技術を総合して一貫製造でき、大幅なリードタイムの短縮が可能となるなど、顧客に大きなメリットが提供できるようになりました。
さらに、レーザー切断機の最大の特徴である精度の向上や、溶接構造のかわりに曲げ加工とすることで高強度かつ製品の見栄えが良くなるなど、顧客が欲しいというものを提案できるようになり、顧客満足度の向上につながりました。
―最近の状況について、教えてください。
鋼材販売店でレーザー切断や曲げ加工まで対応しているところは少なく、中丹地域でも自前でレーザー切断機を持っている企業はないので、受注は堅調です。現在では、受注の約半分が同機で加工する製品となっています。
また、当社は顧客ニーズに合わせて鋼材を在庫しておき、顧客の発注に即応できる体制を整えています。そのため、大きな規模の取引は難しいですが、地元の中小企業を中心に、当社に発注すれば安心と思っていただけるよう、顧客第一の姿勢で、業務に取り組むことを心がけております。
また、レーザー切断機に留まらず、顧客の高精度要求に対応するため、昨年11月に、同じくトルンプ社製の曲げ加工機械であるプレスブレーキを導入しました。この機械も中丹地域では唯一の機械です。
こちらの機械もかなり高額でしたが、京都府中小企業団体中央会の「ものづくり補助金」と地元信用金庫の融資を受けることで、購入できました。
これにより、CAD/CAMシステムと連動していたレーザー加工機に加えて、曲げ加工機までネットワークで繋がったため、非常に高精度な曲げ加工を施した一次加工品を、顧客の要望に迅速・的確に対応できるようになりました。
材料屋でかつ一次加工屋であるところが当社の強みであり、今後とも、売上を追求するのではなく、自社と顧客、双方の付加価値向上を目指し、利益率の高い仕事が受注できるような「ものづくり」を進めていきたいと思っております。
(トルンプ社製 プレスブレーキ : 2017年11月導入)
―これから取り組まれることなど、今後の御社の取り組みなどについて教えてください。
当社は、顧客対応の一環として、レーザー切断機で加工したデータを全て保存し、加工履歴を管理しています。そのため、常に顧客の問い合わせに迅速に対応することが可能であり、顧客のより高精度、高難度な製品づくりに寄与していると自負しております。
今後は、IoT技術の活用など、レーザー切断機で蓄積しているデータの活用についても研究を進めていきたいと思っております。
また、最近ものづくりの現場で問題となっている人手不足は、ますます進展すると考えているため、現在、工程別に専任の担当者で対応している状況を改善し、多能工化を進めていきたいと思っております。
特に、新技術であるレーザー切断加工技術やCADによる図面展開技術は、専務である私だけの技術となっているため、早期に若手技術者の教育を行い、現場の対応力を強化したいと考えています。
「仕事があって、機械もあるのに人がいないから動かせない」といった状況にならないよう、地元企業との連携をさらに深め、それぞれの強みや技術を持ち寄り、工程のシェアリング等の取り組みを進めていきたいと考えています。
中丹地域のシャーリング加工拠点を目指し、進化を続けていきます。
インタビューの最後に「鋼材を切るのが仕事ですが、人と人との縁は繋ぎます」と力強く専務が仰いました。中丹地域を代表する地元密着型企業、株式会社衣川シャーリングの今後に注目です!
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