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知恵の経営、元気印、経営革新、チャレンジ・バイの各認定等を受けた府内中小企業を紹介するページです。
(令和4年10月21日更新、ものづくり振興課:足利・足立・中原・稲継)
パソコンのCPUやメモリなど、「演算」や「記憶」などの働きをする半導体が有名ですが、パワー半導体は、モータを駆動したり、バッテリを充電したり、CPUを動作させるために、交流を直流にする、電圧を変換するなどのための、「電力の供給・変換」などの働きをするものです。
そのパワー半導体に革新を起こしつつあるのが、株式会社FLOSFIA(外部リンク)(京都市西京区)です。同社の強みと戦略の概略はこうです。
酸化ガリウム半導体によって、「半導体エコロジーTM」のコンセプトで、世界に貢献を果たそうとされています。
(令和3年3月31日、ものづくり振興課 中原・岩橋)
株式会社FLOSFIA(外部リンク)(京都市西京区)の井川営業部長にお話をお伺いしました。
-まずは、御社の概要を教えてください。
井川)弊社は2011年に設立した京都大学発のベンチャー企業で、同大学で生まれた「コランダム型酸化ガリウム」を用いて、電力損失が少なく、かつ低コストのパワーデバイス(電力の制御や供給を行う半導体素子)を開発しています。FLOSFIAの社名は、流れる(flow)と知恵・叡智(sophia)を組み合わせた造語で、様々な知恵や叡智が流れ込み、それをさらに磨きあげて社会に流し戻すことで、人類の進歩に貢献する会社でありたいという意味を込めて名付けました。
-そうなのですね。「酸化ガリウム」とはそもそも何でしょうか。
井川)酸素とガリウムの化合物です。ガリウムはブルーレイディスクやディスプレイ、LED電球などに用いられている発光ダイオードなどの材料として使われていますが、京都大学が酸素と化合させることで、サファイアの結晶構造と同じ「コランダム」という特殊な構造をした「コランダム型酸化ガリウム」の単結晶成膜に世界で初めて成功しました。「コランダム型酸化ガリウム」はパワーデバイスの性能を評価する指標として一般的に使われている「バリガ性能指数」で比較すると、現在のパワーデバイスの約8割で使われているシリコンの約7,000倍、次世代材料として注目されているSiC(炭化ケイ素)の約20倍と言われており、パワーデバイスの材料として非常に高いポテンシャルを秘めています。この「コランダム型酸化ガリウム」を活用したパワーデバイスを、電気自動車や産業機器、民生用小型電源などの様々な機器に搭載することで、ACからDCやDCからDC、DCからACなどの電力変換時に生じる電力損失を劇的に低減する効果が期待されています。
-すごいですね。
井川)弊社はその「コランダム型酸化ガリウム」を用いたパワーデバイスを開発していますが、そのためには高品質な単結晶を実現する必要があります。弊社では、ミストドライ®法と呼ばれる、京都大学で開発されたミストCVD法を独自に発展・改良した成膜技術を活用して、高品質なコランダム型酸化ガリウムの単結晶成膜を実現しています。ミストドライ®法では、ガリウムの原料を特殊な溶媒に溶かし、ミスト(霧)状にして高温に加熱した基板に流し込みます。ミストを基板にたどり着く直前に気化させて基板上で化学反応を引き起こすことで、基板上に約10ミクロンのコランダム型酸化ガリウムを成膜しています。
-なるほど。
井川)また、基板には同じコランダム構造を有するサファイア基板を使用しています。サファイア基板はLEDの業界等で一般的に使われているものであるため、入手が容易であり、コスト競争力が非常に高いことから、低コストでデバイスを作ることができる要因の一つにもなっています。そのほか、知的財産にもかなり力を入れており、国内外で550件以上関連特許を出願し、約170件の権利化に成功しています。
-いいですね。パワーデバイスの製品化に向けてはどのような状況なのでしょうか。
井川)パワーデバイスの製品化の第一弾として、ショットキーバリアダイオード(SBD)のサンプル出荷を開始しております。SBDとは、「ショットキー障壁」と呼ばれる半導体と金属を接合したときに電気が一方向にしか流れない現象を利用したダイオードです。スイッチング電源のような高い周波数で動かす上で非常に都合がよく、現在の電源回路の高効率化・小型化には欠かせない電子部品ですが、弊社の製品は他のシリコンやSiC製のものよりもスイッチング速度が速いことを特徴としています。本製品は、民生用で耐電圧600V、電流10Aの中耐圧品を想定しており、エアコン・冷蔵庫・洗濯機などの家電のインバータやACアダプタ内での既製品からの置き換えを促し、「中耐圧市場」でまずは市場のポジションを獲得していきたいと考えています。
-そうなのですね。開発状況はいかがですか。
井川)試作も終わり、いよいよ2021年度の上市に向けて量産体制の準備に入っております。量産にあたっては、「セミファブレスモデル』を想定しており、コランダム型酸化ガリウムの成膜などのコアとなるプロセスは弊社で行い、それ以外のウェハ処理工程等の前工程やパッケージング工程等の後工程については、外部企業に委託する予定です。
-なるほど。販売体制はいかがですか。
井川)国内については大手半導体商社である伯東株式会社と協栄産業株式会社と販売店契約を締結済で、2社の幅広い販売網と豊富な知見を活かして、国内市場を獲得していきたいと考えています。すでにSBDが搭載された評価用ボードの販売を行っていますし、一部の企業様には量産に向けた検討をいただいています。海外についても広く引合いをいただいており、コロナ禍ではありますが、Web会議や海外展示会のオンライン出展等を活用して対応を進めています。
-御社の製品が市場に出回り、ゲームチェンジが起こることを期待しています!最後に今後の展望をお聞かせください。
井川)まずは、SBDの量産・上市をしっかりと成功させたいと思います。その上で、製品化第二弾として、電子回路で信号を増幅又はスイッチングする用途に使われるMOSFETの開発を進めています。パワーデバイス使用時の電力変換時の電力損失は、世界の全発電量の10%超を占めると言われており、せっかく作り出された電気(エネルギー)が無駄になることから、世界的な社会問題として認識されてきました。そのような状況下で、弊社の新規パワーデバイスを通じてエネルギーの利用効率を最大化し、省エネ革命を実現していきたいと考えています。また、京都の新しいエコ観を打ち出していきたいとも考えており、「半導体エコロジーTM」と称して、弊社から新しい未来の実現に向けてメッセージを発していきたいと考えています。そのために、京都府や他の企業様とも連携させていただきつつ、弊社の新規パワーデバイスを搭載したコンセプト製品の開発にも取り組んでいきたいと考えています。
-今後の展開が楽しみですね!
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