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植物園よもやま話(2011)

ソテツのこも巻き(平成23年12月1日)

ソテツは宮崎県以南の海岸の断崖などに自生する亜熱帯植物で、庭園などに観賞用としてよく植栽されています。当園では毎年12月に入るとソテツを寒害や凍害から守るため、防寒を目的とした「こも巻き」を行っています。 

「こも」とはわらを荒く織った「むしろ」のことで、長さ180センチ、幅110センチのこもを半分(幅約60センチ)に切って使用します。
こも巻きは、まず各株ごとに古い葉を数枚ほど残して切り落とし、こもを巻きつけ、荒縄で縛っていくという繰り返し作業になります。

 ソテツのこも巻き作業前の写真 ソテツのこも巻き完了の写真

こもを外す時期は気象条件をみて判断しますが、例年3月下旬には外すようにしています。平成8年にはこもを外した後の4月に積雪があり、葉が茶色くなったことがあり、こも巻きをしなければ葉が茶色く変色したり、場合によっては枯死することも考えられます。

京都御香宮神社(京都市伏見区)には雌雄の立派なソテツが植栽されていますが、こも巻きなしで越冬しており、これより以北では防寒が必要といわれています(原色日本植物図鑑 木本編2 北村四郎 村田源 保育社 ソテツの頁参照)。
地球温暖化がいわれる中、どの程度まで防寒するかいうことには判断に迷うこともありますが、かつてクスノキ並木の葉が全て落葉したといわれるほどの底冷えする寒波がくることも考えられることから、もう少し様子を見たほうが良いと思います。

当園の園芸相談窓口(水曜と日曜に開催、9時から16時(昼休みは除く))には、観葉植物の枯死等の相談が増えているということです。暖かい冬に慣れてしまって、植物管理に油断をしてしまうと、数年に一度の寒い冬で枯らしてしまうことがあります。

ランシンボクの果実(平成23年10月30日)

11月開店予定の「森のカフェ」の北側には、ランシンボク(別名カイノキ、トネリコバハゼノキ)を3本植栽しています。このランシンボクは1965年に横浜市の金沢文庫から譲り受けたもので樹齢40年以上の立派なものです。

ランシンボクは雌雄異株の樹木で、うち一本が雌木であります。平成20年から果実がつくようになりましたが、今年は特に豊作のようです。以前は双眼鏡で見なければならないほど、上の方にしか果実が付きませんでしたが、今年は目線近くでもたくさんの果実が観察ができます。

まだ青葉なのであまり注目されていませんが、この木をよく見ると、赤い果柄に青い果実と赤い果実が混ざるように付いて非常に美しいものだと気づきました。果実は、はじめは黄白色ですが、紅色となったのち紫青色になります。

ランシンボクの果実の写真 まだ青葉のランシンボク

当園のランシンボクは11月の中旬頃になるとオレンジ色にたいへん美しく紅葉しますが、ぜひこの果実もご覧ください。 

ドングリの成長(平成23年9月15日)

ブナ科樹木のドングリは、お盆あたりから急に成長して大きくなってきます。国立筑波実験植物園名誉研究員八田洋章博士は、アラカシのドングリは7月から8月にかけて横(直径)方向に成長し、9月から10月にかけて縦(高さ)方向に成長するというデータを取られています。

アラカシのドングリの写真

上の写真はアラカシ(大芝生地南側)のドングリの現在の様子です。まだ小さいですが、これからドングリの「お椀」を突きだして成長するのが楽しみです。

シリブカガシの開花とドングリの写真

上の写真はシリブカガシ(大芝生地南側)の様子ですが、ドングリの成長と同時に、秋に開花する花を観察することができます。枝先に突きだした一本の雌花序とその回りにはたくさんの雄花序がつきます。前年の枝の部分から出ている昨年の雌花序には成長中のドングリと成長しないままのドングリがついています。受粉からまるまる1年がかりでドングリが成熟します。

シリブカガシの開花の写真

上の写真のように今年は花をいっぱい付けていますから、来年の秋にはドングリの豊作の年になるかも知れません。また、ブナ科の花は風媒花が多いですが、シリブカガシは虫媒花でミツバチがいっぱい集まっていて、秋の蜜源樹木になっているようです。
他の樹木で受粉からひと冬を越したのちドングリを成熟させるもの(2年成)に、アカガシ、アベマキ、クヌギ、ウバメガシ、マテバシイ、スダジイなどがあります。また1年成のものには、ブナ、ミズナラ、コナラ、クリ、アラカシなどがあります。
ドングリの成熟に2年を費やすことは、虫害や風害などいろいろなリスクが大きくなると思いますが、南方起源のものが温帯地域で育んだ戦略のひとつだと思います。

参考 「雑木林に出かけよう ドングリのなる木のツリーウォッチイング」(八田洋章 朝日新聞社) 

はかってみよう緑の温度(平成23年7月9日)

梅雨があけて、連日最高気温35度以上の真夏日がつづく中、一本の木から学ぶ活動「私の好きな木」のメンバーが植物園内の気温測定を行いました。

なからぎの森で温度測定をするメンバーの写真 温度センサーをもつメンバーの写真

温度センサーもって調査するメンバー(写真上)

「一本の木」のスケッチをした後、午前11時から、くすのき並木、大芝生地、なからぎの森などの植物園の樹木がどれほど気温を下げる力があるのか、メンバーが手分けして調査にかかりました。

次に、各自が記録したデータを、地図に温度別に色分けしたシールにして張っていく作業を行いました。

気温別シールをはる作業の写真 緑の温度マップの写真

測定した温度シールをマップに貼ります(写真左)。できあがった緑の温度マップ(写真右)

その結果、北大路通や北山通では摂氏36~38度を計測しましたが、植物園内の樹林下ではおおむね30~34度という記録が出て、緑のもつ温度を下げる力を実感することができました。

うろの中の温度測定するメンバーの写真 うろ内の温度を測定するメンバー(写真左)

調査では、ほかに園内の小川の水温や木の「うろ(木にできた空洞の部分)」内の温度を測定も行いました。うろ内の温度は30度前後で、樹木が「冷たい地下水を吸い上げているからでは」と推測できます。井戸水のように逆に冬期にはどのような温度になるのか測定したいものです。 

ナラ枯れ対策(平成23年5月26日)

昨年の夏、京都市街地周辺の山は「ナラ枯れ」と呼ばれる被害によって多くの木が枯れ、まるで夏に紅葉したかのような光景が広がりました。ナラ枯れは「カシノナガキクイムシ(以下カシナガ)」という小さな虫による攻撃が直接の原因であります。

カシナガは、ブナ科の樹木に穿孔(せんこう)して菌類を樹体内に持ち込むため、攻撃を受けた木は通導組織が阻害され、根から吸い上げた水を葉に届けることができずに枯れてしまいます。また、カシナガの穿孔を受けた木は株もとに木のくず(フラス)がたまり2週間程度で葉が真っ赤になり、落葉することなく枯れるのが特徴です。
当園では、昨年度アラカシを中心として150本の木にカシナガの穿孔を受け、ナラガシワなど5本の木が枯れてしまいました。

カシナガは地上高2メートルまでの幹に集中的に加害するため、植物園ボランティアが中心となってビニールを幹に巻き付ける作業を行ない、カシナガからの攻撃を防いでいます。
カシナガの成虫は被害を受けた木から、翌年の6月頃から脱出するため、 この時期にビニールで幹を被覆することによって、被害を最小限にくい止めることができます。 

 カシナガ対策の写真

上の写真は当園樹木医の指導によりビニール被覆作業を行っているところです。

宇宙桜開花(平成23年5月20日)

2008年5月から6月にかけて採取された全国のサクラの種子は、2008年11月15日から2009年7月31日までの259日間、宇宙ステーションに滞在、2009年9月に日本帰着し、全国の採種地などに渡され、播種されました。

当園には北海道のミヤマザクラから沖縄のカンヒザクラまで133粒の種子が配布され、2010年に春には9種11個体のサクラが発芽しました (平成22年5月23日よもやま話「花伝説・宇宙桜」参照)。

 そして、2010年に発芽した個体のうち、「稚木(わかき)の桜(高知県)」の2個体が5月15日と5月20日に開花しました。

5月13日の蕾の状態の写真 5月15日の開花の写真 

上の写真は5月15日開花の個体(写真左は5月13日の蕾の状態)

本来、稚木の桜 は発芽して3年ほどで開花し、高さも3メートルほどしか成長しない性質があります。

当園では、播種2年目の発芽の可能性も考え、植え替えをしなかったものは、樹高10センチほどしか成長していませんが、植え替えを行ったとたん、ピンク色の蕾がついて5月に開花しました(開花による個体の負担を考えるとあまり好ましくはないかもしれません。)。

5月20日の開花の写真 今年発芽したサクラの写真

5月20日開花の個体(写真左)と2年目(採種して3年目)にして発芽したミヤマザクラ(写真右)。

開花した2個体は、とも4弁の花でした。サクラは5弁が基本枚数ですが、まだ双葉(対生)の影響があるのかもしれません。

また、今年は播種2年目(採種から3年目)になりますが、3個体が新たに発芽しました(うち1個体は枯死)。上の写真のように非常に弱々しい状態なので何とか元気に育ってくれるようにと思っています。

豊作年か(平成23年4月29日)

春に咲く樹木の花には、葉の展開と同時に開花するものがたくさんありますが、今年は例年になく開花量が多いようです。一般に大きな種子をつける樹木ほど、結実に多くのエネルギーを必要とするため、年によって豊凶があるようにいわれますが、花の量は前年の夏の気候に左右されることが多いようです。
多くの花木の花芽のもとは、前年の夏前後に形成され、花芽の多さはその時期の温度や降雨量など気候条件によって影響を受けます。また、昨年の猛暑により、全体的に果実が非常に少なかったことから、樹木の栄養状態のバランスも影響していると思われます。

ケヤキ並木の新緑の写真 ケヤキの花がらと結果枝の写真 

上の写真は新緑のケヤキの並木に大量に落ちている雄花の花がら(写真左)と結果枝(写真右)

エノキの写真 イチョウの雄花の写真

上の写真はエノキ(大芝生地南側)の花(写真左)とイチョウ(観覧温室向かい側)の雄花(写真右)。どちらも目線の高さで観察することができます。

ハンカチノキの花の写真

上の写真は、ハンカチノキの花で今年は目線近くにも多くの花芽をつけていて、まもなく見頃になります。白く見えるのは苞(ほう)と呼ばれるもので、10から20センチぐらいに成長していきます。

新しい分類について(平成23年3月30日)

日本における植物の分類は、維管束植物については、花の構造など形態 を基に一定の基準にもとづいて系統的に分類したエングラー体系を従来から採用してきていましたが、近年の分子生物学の発展によってDNA解析による分類体系が世界的に採用されるようになりました。
研究分野や海外の植物園などでは、既に新しい分類体系を採用していることも少なくなく、今後は世界的な標準になっていくことと思われます。
当園の植物の表記につきましても、当園ホームページの「見頃の植物」や展示ラベル等で使う科名を4月以降は新しい分類方法で行う予定であります。なお、ラベルにつきましては、今すぐ変えることはせず、漸次、新しい分類によるラベルを作成する予定でおります。また、当面は、混乱を避けるため、新しい科名につづき従来の科名を括弧書きで表示することにしますので、ご理解いただきますようお願いいたします。

ハナノキの写真 

上の写真は、いま満開のハナノキの花(竹笹園東側)です。ハナノキは従来の分類ではカエデ科でしたが、新しい分類でムクロジ科になります。

科が変更された主な属の一例を挙げますと、スギ科スギ属(Cryptomeria)がヒノキ科スギ属に、ニレ科エノキ属(Celtis)がアサ科エノキ属に、ユキノシタ科アジサイ属(Hydrangea)がアジサイ科アジサイ属に変更されるなど多くの属で変更がされています。

参考図書
植物分類表 大場秀章 編著 アボック社
高等植物分類表 邑田仁 監修 米倉浩司 著 北隆館

春はもうすぐ(平成23年2月17日) 

今年は数年ぶりの厳しい冬で、暖冬に慣れた植物管理をしていると、寒さに弱い植物を傷めたりすることがあるので、気をつけないといけません。
まだ寒い日がつづきますが、春はすぐそこに来ています。

芽を出したチューリップの写真 芽隣がずれ始めたカラミザクラの冬芽の写真

地中から芽を出したチューリップ(写真左)と芽鱗(がりん)がズレ始めたカラミザクラの冬芽(写真右)

だんだん暖かくなってくると、遠くから植物を観察しているとわかりにくいことでも、近づいて観察することにより、植物がいわば胎動していることが見えてきます。
国立科学博物館、筑波実験植物園名誉研究員の八田洋章氏が中心となって行っている樹木のフェノロジー調査は、枝葉の成長、開花、紅葉、落葉などを観察、記録して1年の動きをデータとしてまとめてます。そして、調査は冬芽を覆う芽鱗と芽鱗がズレ始める日の確認から始まります。

イチョウの冬芽の写真 ソメイヨシノの写真

冬芽が膨らんできたが、まだ芽鱗はずれていないイチョウ(写真左)とソメイヨシノ(写真右)の冬芽

また、調査に参加している全国の植物園などが主体となって、ソメイヨシノ、イチョウ、イロハモミジ、コブシなどの共通樹木のフェノロジー一斉調査を行っており、当園では樹木担当のボランティアの方に協力してもらって実施しています。

播き始め(平成23年1月27日)

種子から植物を育てることは、植物園としての基本になります。種子の入手には、野生の植物のものや植物園間の種子交換などによるものが一般的です。
この時期、海外の植物園から送られてきた2010年種子交換リストにより当園がリクエストしていた種子が、つぎつぎと手元に届けられます。
送られてきた種子を播くのは、戸外では時期的にまだ早いですが、加温されたハウス内では土が凍結する恐れもないので、種播きが可能です。

種まきの写真 播種したポットの写真

海外から届いた種子は、ほとんどが初めての種類です。日本の、とりわけ京都の高温多湿の気候条件をクリアできる種は意外と少ないものですが、栽培環境などを工夫して何とか育てていきたいものです。

発芽したポットの写真 発芽したベニバナの写真 

最低温度7~8度で設定したハウス内では10日ほどで芽を出す種類も結構あります。(写真左は12月に播種したもの。写真右は11月に播種したベニバナ。)   

お問い合わせ

文化生活部文化生活総務課 植物園

京都市左京区下鴨半木町

ファックス:075-701-0142