選定理由 |
現在まで日本では2ヶ所の産地しか知られていず、しかも1ヶ所は絶滅したと考えられるので、事実上京都市深泥池が唯一の産地となる。平地の湿地に適応した種でかつ生息環境が限定されていると推測されので、開発の影響を受けやすく、生息が脅かされる危険度が高い。 |
形態 |
体長約5mm。全体黒色の小形種。オスは合眼的。顔面は銀白色の微粉に覆われ、中隆起を欠く。触角は短く、第3節はほぼ円形。胸部は黒色で光沢があり、わずかに青色と一部銅色を帯びる。翅はほぼ透明、M1脈は強く前方へ折れ曲がり、R4+5脈と鈍角で接する。脚は黒色。腹部は黒色で背面は艶消し状で、側縁のみ強い光沢がある。メスでは複眼は離眼的で、額は広く、5条程の不規則な横溝があり、腹部背板第5節末端には切れ込みがある。
◎近似種との区別
日本産の本属の種には、他にカルマイタマヒラタアブがあるが、これとは触角の形状で容易に区別される。むしろ別属のタマヒラタアブ(Chrysogaster)の種に似るが、これとは翅脈のM1の走り方の相違で区別される。 |
分布 |
ヨーロッパからシベリアを経て日本までの広い地域に分布する。日本の分布は東京都(石神井)。
◎府内の分布区域
京都市深泥池。 |
生態的特性 |
年1化。幼虫は池周辺の泥土中に生息し、おそらく腐殖を食べて育つが、日本での観察例はない。成虫は春季3月末から4月初めのごく短期間に現れ、池周辺の草本に静止する個体が観察されている。訪花性は不明。生息に必要な条件は不明であるが、他のタマヒラタアブ類が各地で発見されているのに対して、本種は極めて限定された地域でしか発見されていないことから、生息には特定の条件が必要である可能性がある。 |
生息地の現状 |
深泥池のちんこ山よりも北側の地域に限って、ごく少数の個体が観察されているのみ。しかも幼虫が生息可能と思われる泥土の広がる環境は、深泥池でも一部に限られている。現存する個体数もわずかと考えられる。東京都の石神井では1960年の1例のほか以後報告がなく、おそらく絶滅したものと推察されるので、現在ここが日本における唯一の産地となる。 |
必要な保全対策 |
周辺道路からの自動車の排気ガス等の影響によると思われる池全体の環境の悪化が進行している。特に新規の道路建設は大きな脅威になる。また幼虫の生息環境は特に人が立ち入りやすく、これを含めて影響の最も及びやすいところである。護岸や草刈りなどを含め現状のわずかな改変にも、十分な配慮が必要である。さらに池全体に豊栄養化が進行し、浮島が拡大して開水面が著しく減少しているが、これらの影響についても注意を払う必要がある。 |