1.京都府の両生類相
これまでに京都府から確認されている両生類は、サンショウウオ目3科6種、カエル目4科15種1亜種(16種
類)の合計7科21種1亜種(22種類)であるが、これらのほとんどは、近年その分布域、個体数を激減させてい
る。
イモリを除くサンショウウオ目のすべては、限定された環境を生息場所としているため、環境変化に対して極
めて弱い。その減少傾向は著しく、生息地の現状には憂うべきものがある。かつては分布域内で普通に見られた
カスミサンショウウオは、京都市内の生息地の数地点ではすでに絶滅してしまったし、アベサンショウウオの生
息域でも、人里近くの低地二次林で、生息環境は目に見えて悪化している。山地性の種でも事情は同じで、ヒダ
サンショウウオの生息地の一部は大規模に開発されている。一方、オオサンショウウオの生息する河川でも、人
工工作物の設置や道路工事が、繁殖のための移動を妨げたり、産卵場に影響を及ぼしている。最も注目すべきは
イモリで、都市近郊で減少が著しく、過去20〜30年の間に各地で激減し、地域によっては完全に絶滅している。
カエル目の中には、ダルマガエル、ニホンヒキガエル、ナガレタゴガエルのように、府内における分布が局限
されるものがあるが、この中でダルマガエルは、湿地という限定された環境を生息場所としているため、環境変
化に弱く京都市内では、かつての生息地のほとんどが壊滅してしまった。同様に生息環境が限定され、環境変化
に弱いカジカガエルでもその傾向は著しく、南部地域の一部では個体数が激減したり、絶滅した例さえある。そ
の他のほとんどすべてのカエル目の種は、かつては普通に見られたが、近年著しく減少しており、特にニホンア
カガエルで代表されるように、湿田の減少、圃場整備、水質の悪化により、都市近郊で減少の著しいのが現状で
ある。
2.種の選定基準
今回の選定に当たって以下の12項目を設け、それぞれの種の希少度を評価することとした。
(1)国、京都府、市町村指定の天然記念物及び環境庁(省)レッドリスト2000年版に掲載されている。
(2)全国的に発見例が少ない。
(3)府内では発見例が少ない。
(4)本府が全国的な分布の限界になっている。
(5)本府に基準産地がある。
(6)府内における分布が局限されている。
(7)限定された環境を生息場所としているため、環境変化に弱く減少傾向にある。
(8)かつては府内外に普通に見られたが、環境変化により近年著しく減少している。
(9)府内の特定の地域において著しく減少している個体群を含む。
(10)環境指標性が高い。
(11)変異の分析ができておらず、今後の解明を必要とする。
(12)選定評価するだけの資料がない。
原則的にこれらのうち、3項目以上に該当するか、2項目以下でも項目(8)か(12)を含む種・亜種、項目
(5)、(9)に該当する種・亜種の当該個体群を、レッドリスト掲載候補種とした。
3.選定種の概要
以上の基準に基づいて、今回京都府レッドデータブックに掲載することになったのは、サンショウウオ目のす
べてと、カエル目3科12種1亜種の合計6科18種1亜種(19種類)である。全種類数のじつに86%を超える両生
類が、府内で生息上の問題を抱えているのである。
サンショウウオ目の中では、環境省カテゴリーで絶滅危惧IA類に選定され、国際自然保護連合(IUCN)のレッ
ドデータブックにも掲載されているアベサンショウウオのみならず、環境省版では絶滅のおそれのある地域個体
群に選定されているカスミサンショウウオも、絶滅寸前種に選定した。また、環境省カテゴリーに挙げられてい
ないハコネサンショウウオを、同省カテゴリーで準絶滅危惧種とされているオオサンショウウオとともに、絶滅
危惧種に選定した。これらに加え、ヒダサンショウウオを準絶滅危惧種に、イモリさえも要注目種に選定せざる
を得なかった。
一方、カエル目では環境省カテゴリーで絶滅危惧 II類とされているダルマガエルを絶滅寸前種に、ニホンヒキ
ガエルを準絶滅危惧種に選定し、その亜種アズマヒキガエルをはじめとしてナガレヒキガエル、ナガレタゴガエ
ル、ニホンアカガエル、ヤマアカガエル、トノサマガエル、ヌマガエル、ツチガエル、シュレーゲルアオガエル、
カジカガエル、モリアオガエル衣笠山個体群が要注目種に相当するとした。
これらの中で、絶滅寸前種、絶滅危惧種、準絶滅危惧種は、それらの帰属するカテゴリー名が示すように、早
急に保護を必要とし、すでにその多くについて、各地で保護保全策が検討され、試行されている。一方、かつて
の普通種は、現状のままでは、近い将来に準絶滅危惧以上のランクに選定されてしまうであろう。ここに要注目
種に選定された、これらの種についての対策は急務を要する。なお、外来種ウシガエルはすでに府内に広く定着
しており、在来の両生類だけでなく、他の動物に対しても悪影響を及ぼしていると考えられるが、具体的にその
影響の評価はされていない。
4.凡例
分類群の名称については原則として日本産野生生物目録(環境庁1993)に準拠したが、学名については、たと
えばカスミサンショウウオに亜種を認めないなど、現時点で信頼できると思われる考えを採用した。また同一カ
テゴリー内での配列順序については系統分類学的関係を考慮した。
執筆者 松井 正文
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