両生類の概要
京都府の両生類相
2002年版レッドデータブック作製時に京都府での定着が確認されていた両生類は、在来種のサンショウウオ目3科6種、カエル目4科14種1亜種(15種類)に外来種のウシガエルを加えた合計7科21種1亜種(22種類)であったが、その後、外来種チュウゴクオオサンショウウオも確認された。また分類の変更があり、新たに1科が加わった。
2002年版レッドデータブックには、在来種のうちニホンアマガエルとタゴガエルを除くすべてが、その分布域、個体数を激減させているか、生息情報の詳細が把握できていないと結論され、掲載された。その後の調査で、外来種ウシガエルの生息数と分布域は、安定ないし増大していると判定されたが、ニホンアマガエルとタゴガエルは、危機的状況に至っていないものの、減少傾向にあることがわかってきた。
そして、2002年時点で府下での定着が確認された22種類のうち、ハコネサンショウウオとナガレタゴガエルは、重点的な調査を行ったにもかかわらず、生息地点数は増加しなかった。残り17種についても、2002年当時よりも生息状況が悪化しているか、よくてもほぼ同様と見られる状況に留まっている状態である。
限定された環境を生息場所とし、環境変化に対してきわめて弱いサンショウウオ類は、その後も減少傾向が著しい。かつては都市内で普通に見られたというが、2002年にはすでにほとんどの場所で絶滅してしまっていたカスミサンショウウオや、近年北陸地方で発見が続いたアベサンショウウオは、精力的な調査によっても府内における新産地は発見できていないし、その生息地となる低地二次林環境の悪化が続いている。
山地性のハコネサンショウウオについても事情は同じで、新産地は発見されていない。なお、この種は、詳細な研究の結果、府内に遺伝的に異なる2系統が生息しており、いくつかの産地では混生していることもわかってきた。一方、ヒダサンショウウオについては、異常気象の影響を受けて地形や水脈の大きな変化があり、生息数が激減している地域もある。
最も大きな問題を抱えているのはオオサンショウウオである。生息地の河川における人為的環境改変は続いているが、それ以上に大きな問題となっているのは、外来種チュウゴクオオサンショウウオが京都市内を中心にかなり前から定着し、しかも自然交雑による雑種が個体群のほとんどを占めていることである。これに対して、外来種と雑種の駆除がはじまったが、その効果が出る前に在来の純粋種が絶滅するおそれが高いのである。
アカハライモリにおいても、都市近郊での減少はとまっておらず、完全に絶滅したと見られる地域が増えている。
種の選定基準
今回も、選定に当たって以下の12項目を設け、それぞれの種の希少度を評価することとした。
(1)国、京都府、市町村指定の天然記念物および環境省レッドリスト2012年版に掲載されている。
(2)全国的に発見例が少ない。
(3)府内では発見例が少ない。
(4)京都府が全国的な分布の限界になっている。
(5)京都府にタイプ産地がある。
(6)府内における分布が局限されている。
(7)限定された環境を生息場所としているため、環境変化に弱く減少傾向にある。
(8)かつては府内外に普通に見られたが、環境変化により近年著しく減少している。
(9)府内の特定の地域において著しく減少している個体群を含む。
(10)環境指標性が高い。
(11)変異の分析ができておらず、今後の解明を必要とする。
(12)選定評価するだけの資料がない。
原則的にこれらのうち、3項目以上に該当するか、 2項目以下でも項目(8)または(12)を含む種、項目(5)と(9)の両方に該当する種を、レッドリスト掲載候補種とした。
選定種の概要
以上の基準に基づいて検討した結果、京都府産の両生類のうち、ニホンアマガエル、タゴガエルと外来種ウシガエル、チュウゴクオオサンショウウオを除くすべての種と亜種を、今回も京都府レッドデータブックに掲載することになった。すなわち、掲載種、亜種は2002年版レッドデータブックと変わらないことになる。府内に生息する両生類のほとんどの種が抱える多くの問題は、解決していないのである。
サンショウウオ目では、サンショウウオ科のカスミサンショウウオ、アベサンショウウオが絶滅寸前種に留まったのに加え、2002年時点で絶滅危惧種とされていたハコネサンショウウオも絶滅寸前種に変更された。オオサンショウウオ科のオオサンショウウオは絶滅危惧種、サンショウウオ科のヒダサンショウウオは準絶滅危惧種、イモリ科のアカハライモリは要注目種に留まったのは前回同様である。
カエル目では、アカガエル科のナゴヤダルマガエルが絶滅寸前種に留まったが、ニホンヒキガエルに加え、前回は要注目種とされていたナガレタゴガエルが準絶滅危惧種となった。要注目種は、ナガレタゴガエルを除く、前回同様の種と亜種(ナガレヒキガエル、アズマヒキガエル、ニホンアカガエル、ヤマアカガエル、トノサマガエル、ツチガエル、ヌマガエル、シュレーゲルアオガエル、カジカガエル、モリアオガエル衣笠山個体群)から成る。
このように、京都府に現在定着している在来種のほとんどにおいて生息環境の改善は見られず、依然としてそれらを保護する必要がある状況にある。今回も取り上げられなかったニホンアマガエル、タゴガエルさえも分布域、個体数が減少傾向にあるのは間違いない。
2002年版では、これらの種と亜種の保護・保全策が提唱されたが、その後目に見えるような対策はとられていない。相変わらず、両生類の保護や保全は問題にさえされていないようだ。このままでは、今回レッドデータブックに掲載された種もされなかった種も、近い将来、より高位のランクに選定し直さざるを得なくなるであろう。これらすべての両生類について、早急な保護対策が必要である。とりわけ特別天然記念物オオサンショウウオの存続を危うくしている外来種への対応は、喫緊の課題である。
凡例
分類群の名称については原則として日本爬虫両棲類学会の日本産爬虫両生類標準和名リスト(日本産爬虫両棲類学会ホームページ)に準拠したが、目名については仮名書き一般名を採用した。また、同一カテゴリー内での配列順序については系統分類学的関係を考慮した。
執筆者 松井正文