調査者
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近藤高貴、中井克樹、紀平肇
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概 要
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1999年6月17日の一斉調査の際には、浅い岸辺で見つかったのはヒメタニシなどの巻貝類
だけで、二枚貝は全く見つからなかった。しかし、午後になって波が治まった後に池の南西
端、水深1m前後の場所からカラスガイ45個体(死殻16個体含む)、ドブガイ1個体、イシ
ガイ13個体(死殻1個体を含む)が採集された。この池はかつての巨椋池の一部を取り込ん
で造られており、この巨椋池に因んで命名されたオグラヌマガイも深みには生息している可
能性が示唆された。そこで同年8月12日、潜水による貝類相の調査を行った。
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調査方法
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池を横断するように3本のラインを設定し(図1)、そのライン幅2m以内にいる貝類を
潜水して手で採取した。その際に底質と貝の生息状況を定性的に記録した。また、カラスガ
イ30個体については殻表面に顕著に認められる成長阻害線の数を数え、年齢調査を行った。
なお、採取した貝は計測した後に放流したが、カラスガイ5個体(滋賀県立琵琶湖博物館に
1個体、大阪市立自然史博物館と水道記念館にそれぞれ2個体)とヒメタニシ2個体(琵琶湖
博物館)を標本として持ち帰った。
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(京都競馬場馬場中央池全景)
図1 京都競馬場における調査ラインの位置 |
(京都競馬場貝類調査) |
(貝類の測定) |
(貝類の測定) |
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調査結果: 淡水貝類相の特徴
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二枚貝ではカラスガイが総計225個体と最も多く採集されたが、イシガイはわずか12個体
が採集されただけで、前回に1個体見つかったドブガイは今回全く採集されなかった(表
1)。一方、巻貝ではヒメタニシ45個体が採集された。種類組成にライン間で大きな違いは
なかったが、東側のラインCではカラスガイの死殻とヒメタニシが多かった。
底質との関係で見ると、各ラインとも南側は転石帯となっており(図2)、イシガイとヒ
メタニシはこの転石帯でのみ採集された。その先は堅い粘土層の土に浮泥が堆積していた。
カラスガイは水深が2.5mよりも浅く、浮泥の堆積が10 cm前後の地域に多く生息し、浮泥が
20cm以上堆積した軟泥層にはほとんど生息していなかった。
カラスガイの殻長は12.5~28.5 cmで、どのラインでも20~25 cmの大きさの個体が多かっ
た(図3)。最小個体の推定年齢は5歳で、最大個体の推定年齢は26歳であったが、最大年
齢は27歳(殻長26 cm)であった(図4)。成長曲線を推定してみると、5歳で殻長約15 cm、
10歳で20 cm、15歳で23 cm、20歳で25 cm、25歳で27 cm前後になるものと考えられた。
イシガイは、殻長5~8cmの個体しか見つからず、小型個体は全く見つからなかった。ま
た、ヒメタニシも殻高2.5~4.5 cmの個体しか採集されなかったが、岸辺の礫やコンクリート
壁には小型個体が多数認められた。
種類 | ラインA | ラインB | ラインC | 総計 |
カラスガイ | 70(4) | 70(3) | 75(16) | 225(23) |
イシガイ | 4(1) | 3 | 5 | 12(1) |
ヒメタニシ | 6 | 7(5) | 32( 6) | 45(11) |
表1 採集された貝類の個体数 注)カッコ内は死殻数で内数。
 図2 調査ラインの水深と底質の状況
 図3 調査ラインごとのカラスガイの殻長分布 (灰色部は死殻を示す) |
 図4 カラスガイの成長曲線 |
 (カラスガイ) |
 (カラスガイ) |
 (ヒメタニシ) |
 (イシガイ) |
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必要な保全対策
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本池はカラスガイが優占し、イシガイは少なかった。これはイシガイが好む石礫~砂底が
少ないためと考えられる。実際、イシガイが採集されたのは転石帯のみであった。ドブガイ
は今回全く採集されず、密度は低いと考えられるが、これもドブガイの生息に適した砂泥底
がほとんどないためであろう。カラスガイは浮泥が多少堆積している場所に多かったが、ス
タンド側の深くて浮泥の堆積が多い地域には全くいなかった。オグラヌマガイは本来このよ
うに軟泥が厚く堆積した場所に生息するが、本池ではこの場所はおそらく夏期の一時期に無
酸素状態になることがあるため、オグラヌマガイもカラスガイも生息できないと思われる。
以上のことから、本池の貝類相、特に二枚貝の種多様性を維持するためには、南側の浅瀬
に砂を投入してイシガイやドブガイの生息場所を創成する一方で、噴水やエアレイションな
どによって深場に酸素を供給する必要がある。
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