3 アカアマダイの生活
アカアマダイの栽培漁業や資源管理型漁業に取り組むためには、本種がどのような生活を送っているのかを把握しておく必要があります。しかし、本種の生活実態については不明な点が多く、これから紹介する内容も、過去に京都府において実施された数例のアカアマダイ調査の結果を整理したもので、今後調査が進むつれて追加や修正される点もあると考えられます。
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(1)成長と成熟
アカアマダイの年齢と成長を知るために、鱗に出現する年輪の数と体の大きさとの関係について調査します。
丹後海で漁獲されたアカアマダイを対象に、年齢と全長との関係について調べられた結果を表1に示しました。
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表1のとおり、アカアマダイでは、雄と雌とで成長差がみられ、1〜8歳までの全体をとおして雄の方が雌よりも大型です。特に満3歳以降では、雄は全長で3cm以上も雌よりも大きくなり、年齢が進むにつれてその成長差は大きくなっています。このため、市場に出ている全長35cmを越えるアカアマダイの大半は雄である可能性が高いといえます。
アカアマダイの成熟に関しては、本種の生殖腺の大きさには、雌雄によって極端に差がみられるのが特徴の一つです。雌の卵巣は成熟してくると大きく発達して肉眼的にも判別が容易ですが、雄の精巣は極めて小さく、成熟が進んでもあまり大きく発達しません。そのため、雄の成熟過程を追跡するのが困難な魚ですが、雌雄における生殖腺の重さの変化や、生殖腺の熟度の進み具合を肉眼的に観察した結果から、アカアマダイの年齢と産卵期との関係を整理しました。それによると、3歳魚で9〜10月、4歳魚で8〜10月、5歳魚以上で7〜10月で、高齢(大型)魚ほど早く産卵を開始し、産卵盛期は9〜10月頃ではないかと考えられています。
また、雌雄による成熟年齢の違いについても調査されています。それによると雌の方が早熟で、だいたい2歳の終わり頃から生殖活動に参加可能となります。一方、雄では4歳になってはじめて性的に成熟し、産卵活動に参加するようです。先に述べたような、アカアマダイにおける雌雄の成長差には、雌の方が早熟であることが関係しているのかもしれません。
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(2)分布と移動
アカアマダイの漁場については前述しましたが、本種の分布と移動については、もう少し詳しく調査されています。まず、栽培漁業の技術開発課題の中で、放流場所を選定する上で特に重要と考えられるアカアマダイ幼魚(当歳及び1歳魚)の分布について説明します。
図4には、過去に海洋センターの平安丸を使用して実施された桁網(図5)調査で、アカアマダイの幼魚がどの位置で採集されたかを示しています。また、桁網調査で採集されたアカマダイ幼魚の数量と、その場所の底質(どれだけ泥を含んでいたか)を図6に示しました。図4から、アカアマダイの幼魚は、丹後海では水深60〜100mの海域で採集されており、特に水深60〜80mで多く採集されているのが分かります。また、図6の結果では、1回の試験操業で比較的多く採集された海域は水深80m前後であり、その海域の底質は泥質分が25〜30%です。つまり、あまり泥質が多くない、むしろ砂質の割合の方が多い海域で幼魚がより多く採集されたことを示しています。
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図4 アカアマダイ幼魚の分布水域 ●:桁網で幼魚が採集された地点 ○:桁網で幼魚が採集されなかった地点 |
図5 アカアマダイ幼魚の採集漁具(桁網:けたあみ) | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
図6アカアマダイ幼魚の採集地点の水深と泥分量 ●:桁網1曳網当たり幼魚が5尾異常採集された地点 ▲:桁網1曳網当たり幼魚が1〜4尾異常採集された地点 ○:桁網で幼魚が採集されなかった地点 |
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以上のようなアカアマダイ幼魚の分布の偏りについては、底質、潮流及び水温などの物理的要因や、餌生物の分布量の違いといった生物的要因など、何が大きく影響しているのかは、まだ十分には分かっていません。幼魚が好んで生息する場所を知ることは、アカアマダイの放流場所を決定する上でも重要なことですので、今後より詳細な調査が必要であると考えています。また、この調査では、当歳魚(満1歳までの幼稚魚)のデータが十分に取れていませんので、特にこの点については、今後精力的にデータを集積する必要があると考えられます。 なお、2歳魚以降のアカアマダイは、2歳魚では幼魚とあまり変わらない水深70〜80mに分布していますが、3歳魚では2歳魚と比較してより浅い方と深い方とに分布範囲が広がる傾向があり、4歳魚以上ではこの傾向がさらに顕著となります。2歳魚以上のアカアマダイにおいて、年齢によって分布場所が違う原因についても幼魚と同様不明であり、今後の解明が待たれます。
ヒラメやマダイでは、複数の府県にわたる大きな移動を行うことが、これまでの調査研究から明らかになっています。アカアマダイの場合はどうでしょう。表2は、2歳魚以上のアカアマダイを対象に標識放流したもののうち、再捕報告のあった事例をまとめたものです。標識放流したアカアマダイの最大移動距離は6.4kmで、5尾中4尾については3km前後しか移動していませんでした。つまり、この結果を見る限りでは、アカアマダイは短期間に大きな移動はしないようです。しかし、再捕事例数が少ないこともあり、結論を出すためには、さらにデータを積み重ねていく必要があります。
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なお、アカアマダイは海底に穴を掘って生活していると言われていますが、2000年春に実施した平安丸による水中ビデオ調査によって、放流直後の全長11cmの稚魚が、海底にある穴にすばやく隠れる様子が撮影されています。つまり、放流直後の稚魚も成魚と同様に、海底において穴の中で生活している可能性があります。
さらに、最近同じ丹後海で、京都大学によってアカアマダイ仔魚の分布調査が実施されています。その調査からは、体長2〜7mmのふ化して間もない本種の仔魚が、水深30〜40mの海域で最も多く採集されていることや、垂直的にみてみると、海の中で水温や塩分が急激に変化する水深40m層で仔魚が最も多く採集されているなどの興味深い結果も得られています。
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(3)食性
若狭湾において、底曳網や刺網などの網漁具によって漁獲されたアカアマダイの胃内容物組成を、図7に示します。この図から、アカアマダイは多毛類(ゴカイの仲間)や十脚類(小型のエビ、カニ類)を主に食べていることが分かります。さらに、細かくアカアマダイの大きさ別に胃内容物の組成を整理したものが図8です。
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この図をみると、比較的小型のアカアマダイでは、多毛類を食べている個体の割合が多く、次いで小型甲殻類(ヨコエビ類、アミ類、ワレカラ類等)や十脚類を多く食べています。そして、成長するにつれて十脚類を食べている個体の割合が多くなります。
これらの調査結果から、放流場所を選定する上で重要となるアカアマダイ幼魚の食性と餌生物の分布状況との関係についてみてみましょう。アカアマダイ幼魚の主要な分布域は、桁網による採集調査の結果から、水深80m前後の水域と考えられます。アカアマダイ幼魚が主に食べている生物は、前述のようにゴカイの仲間やヨコエビ類です。一方、丹後海の海底にはどのような生物が生息しているのかをみたのが図9です。
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図9 餌生物の水深別分布状況 ●:ゴカイの仲間、▲:ヨコエビ類 |
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幼魚が主に採集された水深80m域では、幼魚の餌として重要なゴカイの仲間やヨコエビ類が他の水深帯と比較して多いことがわかります。つまり、アカアマダイ幼魚が水深80m前後で主に採集される理由の一つに、幼魚の餌となる生物が他の水深帯と比較して豊富であることが考えられます。ただし、アカアマダイ幼魚がゴカイの仲間やヨコエビ類を、特に選んで食べているのかどうかについては、今後調査が必要です。 |
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