1 年齢と成長
私達人間の場合は、通常いつ生まれて、いつ死んだかというのは、何らかの形で記録(例えば戸籍台帳)に残されていて、今何歳であるのかはすぐに分かります。しかし、天然海域に生息するヒラメをはじめとする魚類はどうでしょう。釣り上げたり、網でとった魚が生まれてから何年たっているのかを一目で知るのは、専門的に研究している人でもなかなか難しいものです。
栽培漁業や資源管理型漁業で、対象魚類を計画的に管理し、漁獲するためには、生まれてから何年たったら漁獲サイズになり、また産卵するのかなど、基本的な情報を集積することは重要で、特に、対象魚類の年齢と成長を正確に把握しておくことは大切です。
ここでは、これまでの調査結果から、京都府沿岸海域で漁獲されるヒラメの年齢と成長との関係について、他県の事例と比較検討した結果も併せて説明します。
(1) 年齢形質
魚類の年齢は一見しただけでは分かりませんが、実は、体のいろいろな部分に記録されています。記録された体の一部をみれば年齢が分かることから、その部分は「年齢形質」と呼ばれています。
年齢形質には、魚類では鱗、耳石、脊椎骨、鰭条など、貝類では貝殻、ヒゲクジラ類では耳垢栓などがあります。これらの組織には、ちょうど木の年輪のように成長とともに縞模様が形成され、これらを数えることにより年齢を知ることができます。
魚類の代表的な年齢形質には、鱗と耳石があります。鱗の採取は簡単なことから、ニシン、マイワシ、サケ、マダイなど多くの魚種で年齢形質として使用されています。しかし、ヒラメの鱗は、サケやマダイなどのそれと比較して小さいことなどから、年齢形質として適していません。一方、ヒラメの耳石は大型で輪の読み取りも比較的簡単なことから、一般的には年齢形質として耳石が使用されています。
耳石は魚の頭部、脳に近い骨の中にあり、体のバランスをとるのに関係しているといわれています。耳石は主として炭酸石灰からできており、通常体の左右に各々3個あり、年齢形質としては、その内最も大きなものが一般的には使用されます。ちなみに、ヒラメの場合、耳石は有眼側(眼の付いている側)と無眼側(体の裏側)にそれぞれありますが、輪紋を計測しやすい無眼側の一番大きな耳石を年齢形質として用いています。
耳石はどの魚種でも同じというわけではなく、比較的沿岸性のものの耳石は大きく年齢形質として使用されますが、外洋性の回遊魚では小さく、場合によっては石がなく液状のものもあります。そのため、年齢形質として何が使えるかを魚種によって検討し、最も適したものを使用する必要があります。
耳石を年齢形質として使用する場合、さらに注意することがあります。それは、耳石上の透明帯と不透明帯、つまり縞模様がどのような周期で形成されるのかが重要で、例えば透明帯または不透明帯が年一回決まった時期に周期的に形成されるということが証明されないと、年齢形質としては使用できないことになります。そこで、まず京都府沿岸海域で漁獲されるヒラメの、耳石上に形成される透明帯と不透明帯の形成周期について調査しました。
耳石縁辺部における不透明帯の出現状況を、雌雄別、月別に整理したのが図1です。この図から、不透明帯は雌雄とも12月から6月にかけて出現し、しかも、出現のピークが年1回であることがわかりました。なお、不透明帯は成長が停滞する際に形成されますので、ヒラメの成長は、水温の低い冬から春にかけて停滞していることがわかります。
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