つぎに、蒲入地先での事例ですが、平成4年5月に陸上の円型水槽で中間育成した平均殻高約23mmの放流用種苗、約7,000個を蒲入漁業況道組合管内向の浜地先(水深1m以浅の海域)に放流しました。これらの種苗には全てその殻の先端に標識として紫色の手芸用リングを瞬間接着剤で付けて放流しました。また、平成5年11月には平均殻高55mmの人工種苗、約550個に黄色のリングを標識として付けて放流しました。これらの種苗放流後にはこの海域は平成6年11月まで禁漁とされ、平成6年12月から解禁とされました。平均殻高23mmで放流した種苗は、放流約1年4ヶ月後の平成5年9月には漁獲可能サイズである殻高50mmに達しました。漁獲が解禁された平成6年12月時点では放流種苗の大きさは殻高65〜70mmに達していました。また、放流種苗が漁場のどこに多く分布しているか、どれくらい漁場に残っているかを調査した結果、放流種苗は漁獲可能サイズ(殻高50mm)に達するとそれまでにも増して大きく移動し始めることも判り、漁獲が解禁されるまでに相当な数の放流種苗が漁場から姿を消してしまうことも判りました。さらに、放流種苗の回収は水視漁業のみで行われ、解禁後約1年間で紫リングを付けた放流種苗は849個回収されまして、回収率約12%となりました。黄色リングを付けた放流種苗の場合は198個回収されまして、回収率は約36%となりました。
このように、放流種苗が逃げ出していけないようなところでは、かなり高い率で種苗は漁場に留まっていますが自由に逃げ出せるようなところでは漁獲されるまでに相当数が漁場から出ていってしまい、高い回収率に結びつかないことが判りました。
一方、養老地区の場合、回収された種苗の平均単価は1個当たり約90円でしたので放流用種苗を仮に1個20円とすると回収率22%以上あげると採算がとれることになり、事業的には十分達成できる可能性のあることが判りました。また、漁場から散らばってしまった放流種苗については、満2歳、つまり放流されてから約1年経過すると成熟して産卵します。その後も満5歳までは確実に産卵することが確認されました。したがって、漁場から散らばってしまった放流種苗については漁獲には結びつかないものの、放流された種苗が親となって子孫を残すことにより、天然資源の維持、増加に寄与させるという、栽培漁業のもう一つの目的を十分果たしていると考えられます。このような現状からすると、当初に設定した放流効果の評価の仕方を修正する時期に来ているのかもしれません。
期待通りの回収率があがらない原因として、実際の漁場では回収率を正しく把握することが難しい、あるいは放流効果が眼に見え難いという点があげられます。一つには先に述べましたように放流種苗が漁場から散らばり、出ていってしまうことがあげられます。また、瞬間接着剤の標識は放流1年以上経過すると付着物のためにほとんど見えなくなり、発見が難しくなります。魚刺網等に漁獲された場合にはまったく再捕報告としては上がってきません。密漁については論外ですが、論外といって済ませられない実態もあるようです。したがって技術的な側面に限っていえば、放流種苗が散らばってしまうことをどのように抑制するか、どのようにして放流種苗を効率よく漁獲するかといった技術の開発、放流後何年経っても標識の機能が低下しない標識の開発、各地先に適した放流資源の管理手法の開発などが必要となってきました。
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