4.投棄された後のカニの生き残り率
底曳網に混獲され、投棄されたズワイガニの全てが、海底に到達してからも生き残っていれば大きな問題は生じません。しかし、その大部分が死んでいるとすれば、これは重大な問題となります。投棄による資源の減耗状況や今後の資源管理を検討するには、投棄されて海底に到達してからのカニの生き残り率を調べる必要があります。
海洋センターでは、次のような調査を行い生き残り率を推定しています。底曳網では混獲されたズワイガニを、カニかごに収容して海底に戻します。このカニかごを海底に約6時間置いた後、再び船上に回収し、カニの生死を判断します。生死の判断は、カニの脚や口、触覚などの動きの有無により行っています。
春漁期と冬漁期の生き残り率は、90%以上と高いようですが、秋漁期では0〜10%と極端に低いようです。(表2)。冬漁期に死亡していたのは、脱皮直後で甲羅の柔らかいカニだけです。 ズワイガニが生息する水深200m以深の海底の水温は、1年を通して0〜5℃と低いです。このように、たいへん冷たい世界に住むカニは、高い水温や気温は非常に過酷な条件となります。秋漁期のように、海面の水温や気温が20℃以上になると、カニの生き残り率は極端に低くなるようです。このことに加え、甲羅の硬さも関係しています。つまり、秋漁期はカニの脱皮の盛期に当たるため、この時期のカニはとくに甲羅が柔らかい状態にあります。甲羅の柔らかいカニは、他の漁獲物の圧力などにより、船上に揚げられた時点で、甲羅が割れていたり、脚が欠損したりして死亡していることが多いようです。また、このようなカニは、たとえ生きていたとしても、投棄されたのち海中には沈ます、海面を漂っており、最終的には死んでしまいます。
実際の底曳網の操業では、カニが船上に揚げられてから投棄されるまでには、次の操業の準備、ロープや網の投入、そして漁獲物の選別などの一連の作業が行われます。その間は、約20〜30分にも及びます。また、投棄されたカニが海底に到達するまでにも、かなりの時間がかかることが予想されます。それに対し海洋センターの調査では、漁船に揚げられたカニを素早く調査船に移し、かごを海底に沈めるときもアンカーを使っています。船上に揚げられたカニが再び海底に到達するまでの時間は、海洋センターの調査時の方が実際の底曳網の操業時よりも相対的に短いといえます。したがって、実際の操業時の生き残り率は、表2の値より低いと考えられます。コンピュータを使った模擬計算では、実際の生き残り率は約50%といわれています。表2の生き残り率は、混獲されたカニを素早く、且つ丁寧に放流した場合の値といえます。
ところで、水圧の違いによる死亡はどうでしょうか?水深200mの海底と船上とでは、20気圧の差があります。多くの魚類では、著しい気圧の差が生じると、口から浮袋がでたり、目玉が飛び出たりして死んでしまいます。ところが、ズワイガニにはそれほど関係がないようです。そのため、ズワイガニは深い海底に住んでいるにもかかわらず、小さい水槽でも飼うことができるわけです。
以上述べたことを整理すると、投棄された後の生き残り率は、海面や気温の低い時期では高く、高い時期では低いということ、また、脱皮直後の甲羅の柔らかいカニでは、極めて低いことが明らかとなりました。
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