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前章で述べたように、行財政能力を充実させ、日常生活圏の広域化に対応した行政主体を構築していくためには、合併や事務の共同化について検討することが必要と考えますが、その際には、「市町村行財政研究調査会報告書」においても述べられているように、合併や事務の共同化にはそれぞれメリットやデメリットがあることを十分踏まえる必要があります。
また、地域の特性に応じて、メリットやデメリットの現れ方に違いがあることを踏まえ、それぞれの地域の地理的条件や日常生活圏域等の結びつきの状況等について十分な把握と分析を行い、その上で、具体的にどのようなメリットやデメリットが生ずるかを認識し、合併等の目的やめざすべきビジョンを明確にして議論を深めることが重要であると考えます。
広域化に対応したまちづくり等の行政課題に的確に対応できるよう、市町村の行財政能力を充実させ、日常生活圏に合致した行政主体を構築していくためには、市町村合併や事務の共同化が有効な手段として挙げられます。しかしながら、合併や事務の共同化には、メリットとデメリットがあり、これらの手段について検討するためには、それらを十分踏まえて議論することが重要です。
このような観点から、「市町村行財政研究調査会報告書」では、市町村合併の一般的なメリットとデメリット、デメリットへの対処方策等について次のように述べています。
広域的な調整や実施を必要とする課題に対し、迅速かつ総合的に施策を展開することや、より広域的観点から総合的な計画を策定し、まちづくりをより効果的に展開することが期待されます。
公共施設が効果的に配置され、狭い地域で類似施設が新たに建設される等の重複がなくなるとともに、施設間の機能連携等による既存施設の有効な活用が図られることが期待されます。
また、今後の高度情報化に対応した情報通信基盤や地域間を結ぶ道路網の整備など地域全体の発展に資するような基盤整備の促進が望めます。
管理部門等の組織・人員の効果的・効率的な配置が図られるなど、行政サービス部門や新たな政策課題に対応するための組織・人員の充実を図ることが期待されます。
情報化、政策法務、男女共同参画、介護など、小規模市町村では設置が難しい専任の組織・職員を配置することや、専門職(社会福祉士、保健婦、土木技師、建築技師など)を採用・増員することができ、専門的かつ高度なサービスの提供が期待されます。
さらに、職員総数の拡大により、組織余力が生まれ、突発的な大事故・災害等への危機管理能力が向上することが期待されるとともに、各分野における職員間の経験、知識、情報の共有促進や、専門的かつ実践的な研修の実施により、企画力・政策形成能力の向上等、分権時代にふさわしい職員の養成と組織の活性化が期待されます。
地域の存在感や情報発信力の向上、地域のイメージアップにつながり、行政、民間団体、地域住民等の各層における新しいまちづくりに向けての気運醸成と相まって、企業の誘致や新たな産業の展開、若者の定着など地域の活性化が期待されます。
市制移行や特例市・中核市の指定により市町村権能が拡大する場合、より総合的な対応が可能となり、自主的・主体的な行政運営の充実が期待されます。
人口減少や高齢化の進行により、将来的に行財政運営が困難となることが懸念される地域において、一定の行政水準が維持できる体制整備を図ることが期待されます。
市役所又は町村役場が遠くなるなど利便性の低下や、地域の意見を新市町村の行政に反映しにくくなること、特に旧小規模町村区域では地元議員が選出できなくなるおそれがあるなど、地域の意見を新市町村の行政に反映しにくくなることが懸念されます。
このため、窓口サービスの広域的な提供や住民の交通手段の確保、新しいまちづくりの観点から、地域住民が身近な公共施設を運営管理できるような制度・しくみづくり、地域審議会制度等を活用した住民参加型の行政運営の一層の推進などが課題となると考えられます。
地域のまとまりが失われ、旧市町村毎に行われていた特徴ある施策等を引き続き行うことが難しくなり、地域アイデンティティが希薄化することが懸念されます。
このため、旧市町村やコミュニティ単位の行事や活動等が存続できるような制度・しくみづくり、字や小学校等の施設の名称などへの地域の名称の存続、旧市町村の総合計画の市町村建設計画への反映などが課題となると考えられます。
新市町村の中心部から遠く、過疎高
このため、地域の均衡ある発展を十分勘案した合併特例債や地域審議会の活用などが課題となると考えられます。
合併算定替により、合併後10年間は合併しなかった場合と同額の交付税額が保障されますが、その後5年間は段階的に減額され15年目に本来の算定額となるため、新市町村の財政運営に支障をきたすことが懸念されます。
このため、本来の行政需要に応じた地方交付税措置によって必要な行政サービスが提供できるような合併市町村の行財政基盤の強化と計画的な行財政運営が課題となると考えられます。
合併により面積が広大になる場合は、支所の設置等が必要となるため、行財政運営の効率化につながりにくいことが懸念されます。
このため、支所等の適正な配置と本庁との適切な役割分担や新たな行政サービスの提供手法の検討が課題となると考えられます。
旧市町村間の行政水準や職員給与水準、住民負担、財政状況等の格差が大きい場合は、地域間の均衡を図るため一定水準への格差是正施策が必要となることから、行財政への負担が生じたり、進め方によっては一部住民に不満が生じる場合があることや、財政力が弱い旧市町村や起債制限比率が高い旧市町村を含む合併のケース等では、合併後の市町村の財政状況が不安定になることが懸念されます。
このため、中長期的な視点に立った関係市町村を通じた新しい地域全体の将来像の策定や、行政サービスや住民負担の格差に関する的確な評価・分析、特別交付税措置や不均一課税特例の活用などによる格差の段階的な調整が課題となると考えられます。
同規模の市町村同士が合併する場合は、中心地域が不明確となる等により、地域全体のまとまりや一体感の醸成が図られにくくなることが懸念されます。
このため、住民の方々による地域のビジョンなどに関する幅広い議論と、地域振興基金を活用した事業の展開が課題となると考えられます。
合併特例債等を活用した新市建設計画に基づく事業実施によって、道路、公共上下水、土地区画整理等の計画的な基盤整備が進展した団体等が見られます。
人口の流入や企業誘致が進み、税収増など財政基盤の充実により、財政力指数が持続的に上昇している団体や、人件費比率の低下により、経常収支比率の上昇に一定の歯止めをかけている団体等が見られます。また、新市建設計画に基づき積極的に事業実施が行われた場合でも、新市建設事業に係る合併特例債の財政効果によって、合併後の起債制限比率は総じて横這いで推移しています。
職員数は直ちに減少しないものの管理部門の効率化が図られ、年々人口当たり職員数の減少が見られる団体、あるいは職員数が増加するケースでも、事業部門への重点配置が図られるなど、組織・機構改革による効率化が図られている団体が見られます。また、規模の大きな市が周辺市町村と合併した場合、従前の職員数の影響を強く受け、合併後数年は人口当たり職員数の減少が見られないケースもありますが、総職員数の減少は見られなくても、例えば、総務部門から土木部門に振り替える等、事業部門への重点配置が図られる形で合併の効果が現れるケースもあります。
しかしながら、実際の合併事例では、ケースによって合併の効果の現れ方に違いが見られ、その背景には、合併の構成団体の地域事情、合併により実現しようとするビジョン、関係する市町村数、人口規模といった要素があるものと考えられます。
したがって、全国の合併事例等を踏まえて、構成団体及びその規模、合併による地域の将来像などにより合併を類型化し、これらの類型毎に合併のメリット・デメリットがどのように現れるかに着目することが必要と考えますが、この点について「市町村行財政研究調査会報告書」では、次のように述べています。
全国の合併事例に照らしてみると、行政水準、財政力、職員数などの面において、実際に合併の効果が現れていますが、その現れ方は各事例毎に違いがあり、その背景には、合併構成団体の人口規模や地域性、ビジョン、関係する市町村数の違いなどがあるものと考えられます。
合併の効果を検討する場合には、このような違いに着目し、一定の類型ごとに合併のメリット・デメリットを考えることが必要ですが、具体的合併例を踏まえた場合、その類型としては次のようなものが考えられます。
なお、「市町村行財政研究調査報告書」では、社会基盤整備に関するメリット(合併による追加財政需要額=合併特例債の額で推定)と行政効率に関するメリット(現状の行政水準の維持に必要な職員数の割合)に関して、次のような簡単な試算を行い、それに基づいて各類型毎の効果について述べており、合併を検討する場合には、このような数値も参考になるものと考えます。
類型 | 想定モデル | 普通建設事業費 増加割合(%) |
現状の行政水準を 維持するために 必要な職員数の割合(%) |
---|---|---|---|
中核市・特例市創造型 | 2市 | 43% | 88% |
都市圏域発展型 | 2市 | 42% | 92% |
1市1町村 | 28% | 88% | |
1市4町村 | 71% | 75% | |
都市・農山村融合型 | 1市1過疎町村 | 25% | 87% |
1市3過疎町村 | 45% | 80% | |
市制移行型 | 6町村 | 105% | 62% |
行財政基盤強化型 | 2町村 | 42% | 69% |
1町村1過疎町村 | 40% | 71% | |
過疎地域連合型 | 2過疎町村 | 38% | 75% |
市町村合併によって、広域的観点に立ったまちづくりやサービスの提供が可能となるとともに行財政基盤の充実が期待できると考えますが、それと同時に、地域の一体感の醸成や格差是正のための財政措置など合併のデメリット・懸念を解消するための環境整備についても十分な議論をすることが必要と考えます。
さらに、合併のメリットやデメリットの現れ方は、個々の地域の実情や合併の類型(目的・規模等)によって違いがあることから、具体的な合併の議論に際しては、メリットを最大限に発揮できるよう、その地域における地理的条件、行政活動・産業経済・日常生活圏域の結びつきの状況等について把握及び分析を行うとともに、合併によってめざすビジョンが何であるのかを十分に議論することが必要と考えます。
京都府内における事務の共同化については、一部事務組合を中心として展開され、大きな実績を残してきたところですが、今後、市町村の行財政基盤の充実や複雑多様化する行政需要への対応等のために事務の共同化を検討するに当たっては、そのメリットとデメリットについて十分に踏まえる必要があると考えます。この点について「市町村行財政研究調査報告書」では、次のように述べています。
府内市町村の広域行政の現状を見ると、現在38の一部事務組合が設置されており、市町村単独では処理することが困難な事務や、共同で実施することにより効果的・効率的に実施することができる事務など、様々な行政分野に渡って一部事務組合等による事務の共同化が展開されています。なお、広域連合については、府内では事例はありません。
行財政能力の補完や効果的・能率的な事務処理が可能となること等が期待されます。
行政責任の所在が不明確となること等が懸念されます。
このように、市町村の行財政能力の充実や広域化する行政需要等に対応する方策としては、合併と事務の共同化が挙げられますが、それぞれの地域に最も適切な方策を選択するためには、両者の位置づけについて考えていく必要があります。この点について「市町村行財政研究調査報告書」では、次のように述べています。
事務の共同化については、行財政の効率化等に効果を有し、定型的な事務の処理には適するものの、一部事務組合や広域連合が内包する上記に掲げられるような制度的限界を踏まえると、高齢化問題や環境問題など複雑多様化する行政需要に総合的かつ機動的に対応していくためには、必ずしも十分な成果が得られないことも 考えられます。
なお、事務の共同化には、合併の諸条件が整わない地域・段階における行財政効率化の手段といった側面や、合併のための諸条件を整備する準備段階の手段といった側面もあると考えられます。
したがって、地域の課題を包括的に解決するという観点から、主として合併に関する議論を進めつつ、併せて事務の共同化についても検討していくことが必要と考えられます。
合併によって、すべての広域行政需要に対応できるものではありませんが、一部事務組合や広域連合で対応できるものは、定型的な事務の処理など、より限定的であると考えます。また、合併は市町村の枠組み自体を変える「市町村のあり方」の問題ですが、事務の共同化は市町村の事務処理の体制をどうするかという問題に止まるものと考えられます。
したがって、地域における課題を包括的に解決するための議論を行っていくに際しては、主として合併に関する議論を進めつつ、併せて事務の共同化についても検討していくべきであると考えます。
以上のとおり、合併や事務の共同化の効果についての考え方を示してきましたが、これを踏まえて議論を深めていくためには、具体的な市町村の組合せを想定して検討する必要があると考えます。
そのために次章で、市町村の結びつきを基にした京都府内市町村の組合せ試案を提示することとします。
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