第2回京都府まちづくりワークショップ
地域特性(自然・文化・歴史)を活かした住民主体のまちづくり
第1部
基調講演 伊坂善明
(株式会社UFJ総合研究所大阪本社 研究開発本部 都市・地域再生マネジメント室室長)
紹介
伊坂さんは、一級建築士、技術士(建設部門、都市及び地方計画)の資格を持ち、まちづくり計画、地域計画・都市計画、都市・地域開発事業プランニングを専門領域として活動しておられる方で、2000年~2001年にかけて、井手町で「動植物計画と自然ガイドブック作成」や「多様な主体の参加と連携による活力ある地域づくりモデル事業」に関わられた経験を活かして、地域の取組の紹介や問題提起をいただきました。
(1)井手町「多様な主体の参加と連携による活力ある地域づくりモデル事業」の概要
- 平成12年度から開始された旧国土庁のモデル事業で、行政主体から産学公、NPOなどの多様な主体との連携の中で個性的で魅力的なまちづくりを行おうとする新しい考えを国の方針として明確にしたものである。全国でも数例しかない事業である。
- 井手町が選定されたのは、自然保護や歴史・文化を活用・保全しようとする住民団体の活動が活発に行われていたところに特徴があると考えている。
- 事業での取組の特徴は、各種団体がまとまり1つの「まちづくり協議会」を発足したこと、京都の大学の先生が全面的にバックアップしてくれたことがある。
- この事業を通して「井手町を再発見」「まちづくり手法を新発見」「地域団体を再発見」「パートナーシップ(受身から積極的・能動的への転換)を再発見」など4つの発見をしたが、各団体が情報共有できたことがモデル事業の一番の成果であることを感じた。
(2)井手町自然ガイドブックについて
井手町の普段の自然などをまとめた図鑑を作成したが、町が独自に取り組んだところが非常にユニークである。また、これを学校教育の中で活用するなど、非常に良い活用方法だと感じた。
(3)井手町のまちづくりの特徴
- まちづくりの特徴が4つある。それは、「参加する方々に子供達への熱い思いがある」「義務的ではなく参加する人が楽しんで取り組んでいる」「基本的に住民に取り組んでもらう発想が根本にある」「住民と行政間に信頼があり、行政の判断が非常に早い」ことである。
- 井手町から学ぶ個性を活かしたまちづくりとは、「地域の自然・文化・歴史の発見に一生懸命であること」「住民からの発想で取り組んでいること」「行政と住民が連携を図って取り組んでいること」「ソフトが先行しハードが後からついてくる取組であること」である。
(4)個性を活かしたまちづくりと都市計画の課題
- 都市計画は、物質的なもの、形あるものをあらかじめ計画していくという狭い領域から、地域の問題をもっと総合的にとらえてその解決方策を探る、地域政策という方向に近づきつつあるのではないかと感じている。その中では、自立的に問題を発見し解決する能力「地域政策形成能力」が必要になってきていると考えている。
- さらに、この地域政策の中では行政が先導に立つのではなく、まさにパートナーシップのもとに住民と行政や各種団体が連携・協調・信頼しながら取り組んでいく必要性を感じている。
(5)みんなで考えよう(問題提起)
- 住民ニーズの高まりに、行政のサービスがついていけない時が来ると予想される。住民ニーズと行政サービスの隙間(格差)をパートナーシップ型の取組で埋めていくのではないか。
- また、少子化の進展がまちづくりに影響を与えると予想される。一人あたりにかけられるコスト等、経済的な問題につながっている。
事例報告1 小川俊雄
(井手町まちづくり協議会会長)
紹介
小川さんは、現在、井手町まちづくり協議会会長のほか、「井手町カジカガエル保護友の会」の代表もつとめておられる方で、今回は「カジカガエル復元事業」「井手町まちづくり協議会」「井手町地域まるごと体験交流お助けシステム」について報告をいただきました。
(1)カジカガエル復元事業について
- 井手町は古くからいろいろな古歌にうわれてきた。さらに、日本6玉川の一つである町内の玉川やヤマブキとともにいろいろな歌に詠まれてきたカワズ、これはカジガガエルではないかと思っている。
- そのカジカガエルは、昭和28年の南山城大水害で全滅し、以後かわいらしい鳴き声を聞くことができなくなった。私達が戦前に聞いたこの声を今の子供達にも聞いてもらいたいと思い、素人ばかりであるが町職員と老人クラブの有志で一生懸命復元事業に取り組んでいる。
(2)まちづくり協議会について
- 平成12年度に町が実施した「多様な主体の参加と連携による活力ある地域づくりモデル事業」をきっかけに当時8つあった地域の団体が加盟し設立された。現在は11団体が加盟している。
- 若者の人口流出が続き、町内の各種活動にも影響が出ているのではないかと住民も危機感を持っている中で、各団体独自の取組を尊重し合いながら穏やかに連携し、井手町の活力あるまちづくりを目指している。
- さらに、協議会の取組を町に対して提言することで、協議会の拠点施設(まちづくりセンター)の建設が実現することとなり、ワークショップ形式で基本設計を作成し、また、団体で管理・運営を行う方針や基本ルールの検討を行ってきた。
- 4月のオープン以降は散策に訪れる人の憩い、交流の場としてだけでなく、井手町の情報発信拠点としても運営していきたい。
(3)井手町地域まるごと体験お助けシステムについて
- 活動記録、活動紹介、楽しく役立つ情報の発信、対話への欲求、他団体の情報収集、連絡手段の確保などに活用するため、ニューメディア開発協会の支援を受けて、まちづくり協議会が取り組んだ事業である。
- 住民が一体となったまちづくり活動をより活発にし、その連携を町内はもとより町外にも広げるために、住民が主体となって運営する地域情報化のシステムであり、情報機器に不慣れな人でも簡単に使えるものである。将来は、子供達の目線での情報発信も考えていきたい。
事例報告2 岡野和樹
(緑と伝説の大江塾企画部長)
紹介
岡野さんは、現在、緑と伝説の大江塾企画部長のほか、地域の村づくり委員会「新しく波美を作る会」の代表もつとめておられる方で、今回は「大江塾の生い立ち」「地域のまちづくり(新しく波美をつくる会の取り組み)」について報告いただきました。
(1)大江塾の生い立ち
- 大江塾は、平成3年7月に立ち上がった。12年続く取組である。
- その前進は平成元年に発足した京都塾と言う組織である。新しい補助金制度を活用して、農業を基本としたまちづくりをしようという大江町からの提案がきっかけである。
- 当時、36名の塾部員でスタートを切った。塾には、特産生産部会、農産加工部会、ふるさと部会を作った。
- 塾長には農業委員会の会長、マネージャーには大江町へ帰ってこられた画家の方がなられた。全く違う分野の方二人が大江塾の舵を取られたが、後になって考えてみると教科書的な考え方といろんなことをやろういう考え方が非常にマッチしたと思っている。
- ふるさと部会はよろずやの役目をする部会で、2年間程度の時間を費やして何をするのかを議論した。
その結果、自分たちのまち大江町、「昔丹波の大江山」と教科書にもうたわれる大江町、府内で2番目の過疎・高齢人口率の町を意識的に再度見直すことになって、歩いた。
- 二瀬川渓流というところがあり、吊り橋があればいいなという意見がでて、木製の吊り橋ができた。和紙づくりや養蚕が盛んであったが、今は件数も減り、何とか残そうという意見がでて、和紙伝承館ができた。また、泊まりがけで気軽に集まれる場所が欲しいという意見がでて、交流センターができた。
- このような再発見の取組が、今あるものを点検し改善・推進する取組に展開した。さらに、全国的な交流を行っていこうという取組に進展し、その一つとして、全国百選に選ばれた棚田を守る取組を都市・農村交流事業の一環として進め、棚田ツアーを始めた。このことがきかっけで、京都府のバックアップもあり、地域に定住する方もできました。
- 「鬼退治」伝説の関連での交流では、イベントなどへの参加を通して、12年間の交流が続いています。本音が出せる、考えもわかる、お互いの応援団となっている。
(2)地域のまちづくり
「新しく波美を作る会」を10年前に立ち上げた。小さな村で高齢者が多い。昔の祭りを再開する取組など沢山のことをやって来た。これらはどこの地域でもできることである。良い人材やリーダーシップがなくともできることである。自分が楽しくなることをやっていけばみんなが楽しくなるのではないかというのが、一つの結論ではないかと思っている。
第2部
ワークショップ コーディネーター 宗田好史
(京都府立大学人間環境学部助教授)
紹介
宗田先生は、イタリア留学からの帰国後、京都大学で博士号を取得され、現在、京都府立大学助教授として活躍されています。また、京都府総合開発審議会の委員や京都府の「緑の公共事業」政策検討会議政策立案メンバーであり、今回のワークショップに取り上げた井手町のモデル事業のアドバイザーをつとめておられたことから、コーディネーターをお願いしました。
- 今回のワークショップでは、参加者がロの字に座り、議論を行いました。
- 冒頭、コーディネーターから「住民参加のまちづくりとは何か?、自然・文化・歴史を活かしたまちづくりをどう進めていけばよいのか?について話し合いたい。」と趣旨が述べられた後、「今まで、まちづくりに関する住民参加は反対運動が多かったが、地方分権が進み住民参加が必要となると、住民と行政がじっくり話をしながら、上手に地域の中で受け止める対話型の仕組みが必要である。」と都市計画制度の活用についての課題が述べられました。
- 井手町の2部局から、「地域の保全・活用に都市計画の手法を活用したい箇所がある。」という課題と地域住民団体の取組であるまちづくりセンター建設等の紹介がありました。
それに対して、コーディネーターから「一つの組織の中でさえまちづくりに対する多様な考え方がある。住民参加のまちづくりの中でも都市計画制度の活用が有効な場合がある。」と意見がありました。
- 主催者から、土地利用、都市施設、都市計画事業、地区計画等を組み合わせて都市計画が成り立っていること、平成12年の地方分権により全ての法律が転機を迎え、都市計画法においても決定権限のほとんどが市町村に移ったこと、さらに、平成15年1月に都市計画法が改正され、一定の条件の下で住民の方から都市計画の提案が行える提案制度ができたことについて説明がありました。また、「日頃から行政と住民が一緒になったまちづくりの議論が非常に重要であり、今後の議論の視点としては、自分達のまちに欠けているものを補っていく検討よりも、そこにしかないものは何かを議論することがまちづくりの一番の近道、成功の秘訣と考えている。」と提案がありました。
- 参加者から、「ハードからソフトへ」という基調講演での内容について質問があり、講師から、「都市施設等のハードは非常に大切だが、今までは使い方などを充分に検討されないまま作られてきた例がないとは言えないことから、井手町の住民団体の取組の中で生まれてきたまちづくりセンターの例のように、必要性を先に検討、議論することが重要と考えており、ソフトからハードへという言葉を使った。」と説明がありました。さらに、「ソフトとハードの間に住民参加で考えるべき都市計画があるのではないか。」という意見がありました。
また、他の講師から、「都市計画ではないが、自分の町は自分達で守っていこうということで、道路の植裁を行ったりする取組もある。」と紹介がありました。
- 参加者から、事業説明の中で一軒一軒、膝と膝、顔と顔をつき合わせて話をする中で徐々に理解をいただいた経験をもとに、「互いが十分に議論することが住民主体のまちづくりの基本となることを再確認した。」と紹介がありました。また、「日頃から地域資源や各種取組を把握する機会を持つことが必要である。」と意見がありました。
さらに、情報機器(ホームページ)を活用して施策に対する意見を住民に求めた経験から、「なかなか反応が鈍い。」という課題が出されました。
これに対して、主催者から「投げかけと答えの往復関係をどこまで真剣にやるかというのは非常に難しいが行政と住民との意思疎通は重要である。」と意見がありました。
これら説明責任に関する対応策として、大枠だけを決めておいて、走りながら住民と協議を行い修正を加えてまちづくりを行った例の紹介があったほか、「待っているのではなく課題を掘り起こし議論を投げかける必要がある。」という行政側への意見がありました。また、「住民参加によるまちづくりが重要となると、今後は住民側にも責任が生じてくる。」と説明がありました。
- 参加者から、「今まで市が策定した施策や計画には住民の意向がどれだけくみ取られているのか不安なところがあり、職員の勉強を始めている。」と紹介がありました。
さらに、従前から行っている地域住民と協同のまちづくりの取組については、「住民参加が進まないことやどうすれば自分の町に関心をもってもらえるかが行政側の問題である。」と課題が出されました。
これには、他の参加者から「会場を設定して話をしにきてほしいというのではなく、行政の方も一軒一軒飛び込んで住民の意見を聞いてほしい、それを活かしてもらえば先に進むと思う。」と意見がありました。
これに対しては、他の参加者から、「なかなか進まない事業があったが、最近になって動き出したものがあり、地域住民側から市の認定制度を活用してまちづくり協議会を発足し、事業に関連した勉強会等を行われるまでになった。初期は、行政主導であったが、現在、立場が逆転してしまっているほどであり、住民の主体的な活動も必要である。」という意見もありました。
- 「今回のワークショップのように、行政が行おうとしているまちづくりの取組について意見がないか。」という問に対して、講師から、「行政の開催する会議のように、午後の半日で開催し、議論になり始めたところで終わるようなものでは、住民の本音はでてこない。時間をかけ本音がでるような場を設定することが非常に重要と思われる。また、都市計画の活用も重要だが、便利さが必ずしもいい生活、豊かな生活に結びつくとは思わない。豊かな生活とは一体何であるかもう一度行政の方も見直す必要があるのではないか。また、一人一人が生活を見直し、あせらず時間をかけてみんなが参加できる体制を作ればよい。地域で活動しているのは、おじさんや子供達であることをもっと行政も理解すれば違った方向のまちづくりが進むと考えられる。」と意見がありました。
また、他の参加者からも、「開催形態、日時テーマについて、検討の余地がある。」と意見がありました。
- 「地域住民と行政の考えるまちづくりの取組には、まだまだ大きな溝があるように思えるがいかがか。」という問いに対して、講師から、「この場は両局面が現れている過渡期にあるのだと思われる。ソフトのまちづくりの取組から都市計画的なルールや手続きに移る過程にあるのだと考えられ、地域の運動や必要性が高まれば、都市計画に触れざるを得なくなると思われる。ただ、こういった機会が頻繁に無く、今後も繰り返しこういった機会を設けることで、いろいろなことが見えてくると考えられる。そういう意味で、きっかけづくりになっていると考えている。」と意見がありました。
また、他の講師から、「もう少し小さなグループで議論すると意見も出やすいのではないか。また、地域内のいろんな活動団体が一つになって議論することが重要であり、取組を発展させる起爆剤となる。」という意見も出されました。
最後は、コーディネーターにより、「今回のワークショップは、多様なまちづくりに対する住民参加と都市計画制度の最前線とを両極に置いた大変難しい問題について議論したが、二つには大きな距離があることを課題として認識できた。今までは、住民・行政のどちらもが責任を預けてきたが、今後は一人一人が責任を持ってまちづくりに参加し、美しく、住みやすい環境を保持し次世代に受け継いでいく機運が高まっている。この種のワークショップを重ね住民と行政の連携を進め責任を果たせる仕組みをみんなでつくっていくべきである。」と締めくくられました。
第2回 開催模様
今回のワークショップについて
平成15年3月27日(木曜日)13時00分~17時00分、井手町自然休養村管理センターで、地域住民、各種住民団体、行政職員等約90名が参加して開催しました。
今回が第2回目となるワークショップのテーマは、「地域特性(自然・文化・歴史)を活かした住民主体のまちづくり」でした。
身近で何気ない地域の良さを活かして地域住民と行政が一緒になってまちづくりに取り組んでおられる井手町の取組をとりあげたものです。
(主催)京都府、井手町、京都府都市計画協会