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とある書籍会社の小学校5年生の社会科の教科書の環境の章に、鴨川の環境を守る活動が紹介されています。鴨川条例の制定や美化活動と共に昭和40年代前半の汚れた鴨川と現在の綺麗になった鴨川の写真が比較してあります。
この教科書を使用されている東京のとある小学校の児童の間で、ある疑問が持ち上がりました。前出の昔と今の比較写真を見ての疑問です。昔の写真(モノクロ)には水の色は解らないものの、トタンが捨てられている様子が写っています。
そして現在の鴨川(カラー)には、川面に映る景色や様々な植栽、野鳥や植物、昆虫、水生植物、魚など豊富な自然環境が写し出されています。その比較写真の中で、河川構造物として明らかに違う点があります。
それは、写真中央に真っ直ぐに引かれた様に、落差工から落ちる水の帯状の白い水の流れがあります。児童たちは先生に質問しました。「この落差はいつ頃何の為に造られたのですか?」
<落差工が生み出す白い帯 山紫水明>
先生は、「生き物がすみやすい様にしているのではないか」と説明しましたが、「段差があって本当にすみやすいの?」と疑問が続出しました。
・深みがあって小魚がすみやすいのでは?
・水をゆっくり流すためでは?
・砂防ダムの役割をしているのでは?
と校長先生も巻き込んで大きな議論となりました。
そこで、鴨川を管理している京都土木事務所に問い合わせてみようとなりました。ある日の夕方、担当の先生からお電話を頂き、「この段差は何の為にあるのですか」と質問を受けました。
昭和10年の大水害を契機に実施した鴨川改修事業の治水施設として段差をつける工事をした事。そしてその効果と2次的に生じる様々な自然現象など沢山の影響についてお話ししました。
<寄州に草が茂ります>
先生からは、「へ~、そうだったのですか!」是非、後日児童達に電話口で直接説明してもらえないかとの依頼を受けました。2日後の放課後再び担任の先生から電話を頂きました。「今から児童が質問させていただきますので、答えてもらえますか?有志が10数名スピーカーからの声を聞いています。録音してもよろしいでしょうか」との事で快諾して質問の始まりです。
児童の代表の女の子から「わたし達は鴨川の段差について話し合いました。小魚にやさしくするため。水の流れをゆっくりにするため。砂防ダムの役割をしている。などなど様々な意見が出ました。段差を造る一番の目的はなんですか?」と質問を受けました。
<落差工の一番の目的とは?>
「今話してくれた意見の中に正解があります。それは水をゆっくり流すためです」と答えると「へ~!」と担任の先生と同じく大きなリアクションが帰ってきました。
昭和10年に大水害があった事、それを契機に改修がすすめられ、その一つとして落差が設置された事、その構造の事、鴨川が平均して200m進むと1m下がる比較的急な傾きの川であること、急な流れのままでは川底の土砂が流されてしまって護岸の下が洗い流されてしまうこと、などを説明しました。
質問:今の鴨川のゴミの様子はどうですか?
鴨川では1年365日のうち335日清掃業者の方に委託してゴミを拾い、ゴミ箱のゴミを回収しています。だからみんなが歩く所はゴミがほとんどありません。でも、川の中に入ってまでは清掃していません。川の中は沢山のボランティア団体の方に清掃して頂いています。
<鴨川の中のごみ拾い 市民ボランティア・鴨川を利用している学生>
<トヨタ自動車主催清掃活動>
<各種団体の清掃活動>
<胴長を履いて川の中へ 個人>
<美津濃販売店スタッフの皆さん>
<朝の散歩の途中でごみ拾い 個人>
質問:川の水が汚れていた頃は悪臭がしていたそうですが、どんな臭いだったのですか。
川の水が汚れていた昭和40年代前半は、染色工場の染色液交じりの排水、他の工場からの排水や家庭の洗濯やお風呂の水などが流れ込んでいて、染料の科学的な臭いとその他の排水の水が混じり合った臭いで、川に近づく人も少なかったようです。
今は全く悪臭がしないかというと、完全にそうなっている訳ではありません。下水道が整備されて家庭や工場の排水が直接川に流れ込まなくなりましたが、京都市の下水道は雨水と排水が一緒の管に流れています。雨が多く降るとどうなるでしょう。
児童から「管が溢れる!」の答え。そのとおり!鴨川沿いに巡らされた下水の吐け口から汚水と混ざった雨水が流れ出てきます。流れ出て来ていないお天気の良い日にこの近くを通ると、吐け口の中に残った汚水から下水の臭いが「ぷ~ん」としてきます。
<旧農業用水路が都市下水に転用された下水の吐け口 中央>
さらに質問は続きます。
質問:鴨川に何種類の魚がいますか?
丁度5年に一度の「河川水辺の国勢調査」の一環として今年度に実施した魚類の生態系把握調査の報告書(案)が手元にありましたので、ざっと40種類位の魚が生息している事を答えると「そんなに沢山の種類がいるのですね」とまた驚きの声です。東京の川にはどれだけの種類の魚類がいるのか逆に聞きたいところです。
<オイカワ>
<カワムツ>
<カワヨシノボリ>
<ズナガニゴイ>
<スナヤツメ>
<アカザ>
そして、魚類と段差の関係を説明しました。確かに流れが緩くなって小魚が育つ深みや澱みが出来る一方で、段差を越える事が出来ない魚は、他の区間との行き来が出来ません。大水で流された魚類は元の場所に帰る事ができませんし、海から遡上してくる魚は段差に阻まれてそれより上流に行くことができません。
そんな中、アユが川を遡る時期だけ仮設の魚道(魚が通る道)を造って魚が段差を越えやすくする取組もされている事を伝えました。
質問:鴨川には鴨はいますか?
鴨川には秋から春にかけて大陸から様々な種類の鴨が渡ってきます。一年中鴨川にいる鴨もいますが、多くの種類の鴨の仲間がやってきます。
質問:鴨川には何種類の鴨がいますか。全部教えてください。
一年中見る事ができるのは、マガモ、カルガモ。渡り鳥としてやってくる鴨は、コガモ、オナガガモ、ヒドリガモ、ハシビロガモ、ヨシガモ、アメリカヒドリガモ、カワアイサ、キンクロハジロ、ホシハジロ、オオバン、など私が見た事のあるカモの仲間を並べると「そんなに種類があるのですか!」と次の質問がありました。
<マガモ>
<カルガモ>
<コガモ>
<ヒドリガモ>
<ハシビロガモ>
<ヨシガモ>
<オナガガモ>
<アメリカヒドリガモ>
(↑アメリカヒドリガモ写真提供:日本野鳥の会京都支部)
質問:カモと付かない名前のもいるのですか?
カモと付かないのは大抵水に潜って川底のエサを採って食べています。と説明すると「カモが潜るんですか!」と私が3年前にその事実を知って驚いたのと同様の反応が返ってきました。
<カワアイサ>
<キンクロハジロ>
<ホシハジロ>
<オオバン>
カモと段差に関連して、補足説明しました。段差があることで川の流れがゆっくりとなり、中州や寄州が出来ます。そこにはカモが好きな草が生えたりしてカモのエサになりますし、夜カモが寝るときの休み場所となります。
ここで児童が先生と電話を替わって、御礼の言葉を頂きました。「みんな他に質問はありませんか」と呼びかけると先程の女の子が「京都弁お上手ですね。もっと何か話してみてください」と意外なリクエストを頂きました。
京都弁を直接聞く機会は少ない様で、私のつたない京都弁に興味を示してくれた様です。適当に少し喋って差し上げました。大変喜んでくれました。
最後に先生と挨拶して電話を終えました。約30分にわたる電話相談室が終了です。後で教科書の確認の為に先生に電話を入れると、代表質問してくれた児童は環境などに大変興味を持っていいて、汗だくになりながら一生懸命質問してくれたそうです。
後日、京都市総合教育センターを訪ねて、該当の教科書を閲覧・コピーさせて頂きました。見開き6ページにわたって鴨川の環境に対する取組について紹介されていました。
京都市内の小学生は鴨川を見る機会も多く、落差工が数多く設置されている事も良く知っていますが、日頃ゆったり流れる荒川などの大河川を見ている東京の小学生の目には珍しいものとして写ったようです。
遠く東京から教科書の内容を教えてくれた児童たちの学習の参考になればと、京都府発行の小学生用冊子「わたしたちの鴨川」をクラスの人数分お送りさせて頂きました。
平成27年3月25日 (京都土木事務所Y)
北山橋から左岸下流へ約800mに74本のベニシダレザクラがズラリと並ぶ桜並木は、「半木の道」と命名されてから長い年月が経過し、桜の名所を挙げるときりがない程の京都の中でも「桜の名所」として有名になりました。
京都土木事務所が所管する鴨川の中でも、ベニシダレザクラのトンネルをくぐる事が出来るのはこのスポットだけです。観光雑誌からの掲載依頼も毎年多く受け、京都・鴨川・桜のキーワードで広く紹介されています。
このベニシダレザクラを植樹して、管理して頂いているのが“京都鴨川ライオンズクラブ”です。約50年にわたるその環境保全活動が評価され、第十二回京都環境賞が京都市長から贈呈されました。
表彰状の内容は次のとおりです。
京都鴨川ライオンズクラブ 様
貴団体は多くの市民や観光客に親しまれている散策路として名高い「半木の道」において長年にわたりシダレザクラの植樹や啓発イベントに取り組まれ環境保全活動に貢献されました よって第十二回京都景観賞を贈りここに表彰します
平成27年2月6日 京都市長 門川大作
その受賞を記念して、「半木の道」ベニシダレザクラのうち、老朽化が著しかった31番のサクラに替わって、新たなベニシダレザクラが植樹されました。
平成24年春の31番桜の様子を見てみると、確かに周りのサクラに比べて勢いが感じられません。その様子は鴨川真発見記第11号で全74本の艶姿をご紹介しました際のPDF●「半木74」メンバー紹介 24から47(PDF:1,890KB)をご覧ください。
平成27年2月23日はそのサクラの植樹式が京都市長「門川大作」氏を招いて挙行されました。
<植樹式会場>
<植樹準備完了>
植樹式の開会に当たって京都鴨川ライオンズクラブ会長の田端俊三氏から挨拶がありました。長きにわたる先人の労苦に感謝すると共に、立派なベニシダレザクラが新たに74本の一員に加わる事をお喜びになりました。番号札は先代の31番を受け継ぎましたが、会長の心中では密かに「大ちゃんザクラ」と命名している事が明かされました。
<式典開始>
<引き継がれた31番札>
そして、懐から取り出した手帳に書いたメモを披露されました。そこには、サザンオールスターズのニューアルバム「葡萄」(平成27年3月31日発売)に収録されている、テレビドラマの主題歌「イヤなことだらけの世の中で」の歌詞です。
<田端会長の挨拶>
その歌い出しの部分です。
月はおぼろ 花麗し
春は霞か 桜は紅枝垂(べにしだれ)
暖簾越しに鴨川(かわ)は流れ
祇園囃子に浮かれて 蝉時雨
2行目の桜が「紅枝垂」とあります。まさしく今回植樹された桜がこの紅枝垂なのです。
更に3行目の「暖簾越しに鴨川(かわ)は流れ」とあります。聞くだけではわかりませんが、「かわ」という音に「鴨川」があてはめてあります。
しかも「暖簾」の文字が、「半木の道」のベニジダレザクラが作る暖簾の様に垂れ下がる花越しに眺める鴨川を連想します。
サザンの桑田さんも京都へお越しになって、「半木の道」に足を運んで、紅枝垂れザクラのトンネル越しに鴨川をお眺めになったのだろうか?と挨拶を締めくくられました。
<月はおぼろ>
<花麗し>
<春は霞か>
<桜は紅枝垂(ベニシダレ)>
<暖簾越しに鴨川(かわ)は流れ>
来賓を代表して、門川市長からお祝いの言葉が述べられました。咲いた桜を見上げて感動するのは、桜が寒い冬を耐え抜いて、春一斉に花を咲かせるその営みに感動するものだ。
この様な立派なベニシダレザクラを京都環境賞受賞記念として植樹された事は誠に嬉しいと心境を語られました。
<門川市長の来賓あいさつ>
来賓の皆さんと田端会長がスコップを手に取り、新たな桜に土を掛けて植樹式は無事終了しました。
<サクラの根本に土を被せて>
今回のベニシダレザクラは、ベニヤエシダレザクラです。関係者にお聞きしましたところ、樹齢は約20年経過しているそうで、今年の春はどの位の花を咲かせてくれるかたのしみです。
ベニヤエシダレザクラとベニシダレザクラの違いは、鴨川真発見記第141号「半木の道 ベニシダレザクラ 早咲きの数本その原因は?」をご参照ください。
<立派なベニヤエシダレザクラの前で記念撮影>
この春は、「半木の道」ベニシダレザクラのトンネルのピンクの暖簾越しに鴨川(かわ)を眺めながら「嫌なことだらけの世の中で」を聴きながら、曲のイメージに浸ってみるのも良いのではないでしょうか。「嫌なことだらけの世の中」ですが・・・。
<ズラリと74本並ぶベニシダレザクラの並木道>
今回は、平成27年度に入って初回の更新です。これまで3年間鴨川真発見記をご覧頂きまして有難うございました。「この辺で・・・」とは言わず、もうしばらくお付き合いをお願いいたします。
※開花したサクラの写真は過去の写真を採用しました。半木の道のベニシダレザクラが咲きそろうのは、4月第二週頃です。
平成26年4月3日ホームページアップ。
平成27年3月26日 (京都土木事務所Y)
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