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監修
公益財団法人 人権教育啓発推進センター理事長
神戸大学名誉教授 坂元 茂樹氏
企業が、自社の事業に関わる従業員(雇用形態にかかわらず)の人権に配慮することは今や当たり前となりました。しかし企業活動がグローバル化する中、利益や便利さの追求の陰で十分な権利を保障されず取り残される人々が出てくるという新たな課題が生じています。
納品期限直前に注文内容を変更したら、下請け業者が長時間労働で対応せざるを得なくなった
外国人を採用しているが、日本で働く上で日本語の理解は当然なので、日本語の業務マニュアルのみで対応している
栄養価の偏った飲食物を子どもをターゲットに販売し、子どもの健康被害を招いた
下請け業者に委託した業務が、知らないうちに再委託され、海外の孫請け業者において児童労働が発生した
自社工場を建設したところ、排水や排ガスによって周辺地域の環境に負の影響が出てしまった
[出典]『今企業に求められる「ビジネスと人権」への対応』(法務省人権擁護局)を基に作成
ここに挙げた5つの事例は、いずれも人権侵害に当たることがあります。自社の従業員への直接的人権侵害はもちろんのこと、「取引先従業員の過重労働を誘発」「消費者の健康を侵害」「サプライチェーンにおける人権侵害」「地域住民の水と衛生に関する権利を侵害」など、企業活動が直接的・間接的に及ぼしかねない人権への負の影響について、経営者のみならず従業員、消費者としても知っておくことが、人権侵害が発生するリスクをなくしていく上で必要です。
京都府人権啓発キャラクター「じんくん」
1990年代以降、経済活動のグローバル化に伴い、国境をまたいだサプライチェーンにおける人権侵害が国際的に問題視されるようになりました。この状況に対し、国連は2011年に「ビジネスと人権に関する指導原則」を制定。これにより人権を保護・尊重する国家の義務と企業の責任が明示されました。さらに2015年には人権尊重を前提としたSDGs(持続可能な開発目標)が採択され、国際的な投資判断の基準に人権尊重が組み入れられるなど、「企業が人権を積極的に守る」ことが世界の潮流となりつつあります。そして2020年には日本でも「ビジネスと人権に関する行動計画」が公表され、各企業で取り組みが始まっています。
「ビジネスと人権」の問題は、決して大企業だけに限った話ではありません。規模にかかわらず、企業は何らかの形で必ず社会に関わっている(図:こんなに広い!企業が尊重すべき人権の範囲)以上、関係するすべての人の人権に配慮する必要があります。
例えば、自社製品の材料の調達先の工場で、従業員が劣悪な環境での労働を強いられていても、昔は自社の責任まで問われませんでした。現在は、その調達先の実態を知りながら取り引きを継続していると「人権侵害を助長した」として訴えられる可能性も。企業が自社に関わる人権問題を放置していると、さまざまなマイナスの影響が生じますが、逆に人権を積極的に守る取り組みを行うことによってプラスの影響が生じるという側面もあります(図:人権に関する取り組みの充実/不足が事業活動に及ぼす影響)。
企業だけでなく、私たち一人ひとりが消費などの行動を通じて何らかのビジネスに関わりながら社会は成り立っています。その中で起こる人権侵害をなくすには、一人ひとりが人権を自分ごととして捉える視点を持つことが大切です。
人権を守ることがビジネスにもプラスになるんだよ
自社の正社員、契約社員、派遣社員、アルバイト、パートから取引先の従業員・流通過程、また顧客・消費者・地域住民まで及んでいます。
企業が尊重すべき人権の分野は次の25項目です。
※1 マタハラ・パタハラ:妊娠・出産・育児休業などを理由にしたハラスメント
※2 ケアハラ:介護ハラスメント
ひとつの会社がさまざまな人とつながっているんだね
プラスの影響
・新規顧客の開拓
・既存顧客との関係強化
マイナスの影響
・SNSなどで炎上、不買運動の発生
・従業員の離反による事業停滞・事業停止
プラスの影響
・生産性の向上
マイナスの影響
・罰金の発生
・訴訟提起・損害賠償の発生
プラスの影響
・株式など価値の上昇
マイナスの影響
・株価の下落
・投資家が資金を引き揚げる
プラスの影響
・ブランド価値の向上
マイナスの影響
・ブランド価値の毀損(きそん)
プラスの影響
・採用力・人材定着率の向上(採用コストの減少)
マイナスの影響
・採用力・人材定着率の低下(採用コストの増加)
[出典]『今企業に求められる「ビジネスと人権」への対応』(法務省人権擁護局)を基に作成
「公正な採用選考」
基本的人権の一つである「職業選択の自由」を保障するためには、本人の適性と能力に基づいた「公正な採用選考」が不可欠です。本籍地や家族の職業など身元調査に当たる事項を採用基準としないのはもちろん、採用選考時にそれらの事項を質問したり、合理的必要性のない健康診断を実施したりすること自体が就職差別につながることを採用側が認識する必要があります。公正な選考採用をはじめ、人権を尊重した職場づくりのために、従業員25人以上の企業を対象に「企業内人権啓発推進員」を設置する取り組みを推進しています。
[お問い合わせ]
京都地方法務局 人権擁護課
TEL:075-231-0131 FAX:075-222-0836
京都弁護士会の弁護士が司法的救済を中心にアドバイスします。
TEL:075-414-4271(予約受付電話)
人権一般について相談を受け付けています。府庁(要予約)のほか、各広域振興局の庁舎(予約不要)でも実施しています。
TEL:075-414-4235(予約受付電話)
職場でのトラブルや疑問などに、専門の労働相談員が対応しています。弁護士や産業カウンセラーによる相談(要予約)も実施しています。
フリーダイヤル:0120-786-604(府内限定)
TEL:075-661-3253
不利益取扱いによる障害者の権利利益の侵害や、合理的配慮に関することなどについて広域専門相談員が対応しています。
TEL:075-414-4609 FAX:075-414-4597
メール:kyousei-soudan@pref.kyoto.lg.jp
日本語教室、住まい、仕事など生活や言葉に関する困りごとについて相談を受け付けています。
TEL:075-681-4800
メール:soudan@kpic.or.jp
消費生活のさまざまなトラブルについて消費生活相談員が対応。インターネット相談も受け付けています。
TEL:075-671-0004(平日)
TEL:075-811-9002(土日祝日)
[お問い合わせ]
人権啓発推進室
TEL:075-414-4271 FAX:075-414-4268
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