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府内の中小企業に寄り添い、各事業者が抱える課題に伴走支援してきた京都産業21の新旧理事長をお迎えし、コロナ禍における挑戦を振り返りながら府の活力源となる産業界の底力と未来への可能性を展望します。
公益財団法人京都産業21前理事長
株式会社村田製作所 代表取締役会長
村田 恒夫氏
公益財団法人京都産業21理事長
株式会社島津製作所
代表取締役社長
上田 輝久氏
京都府知事 西脇 隆俊
府内で新型コロナウイルスの陽性者が報告されてから約2年。感染の拡大と長期化で社会経済活動が甚大な影響を受ける中、府は公益財団法人京都産業21(以下「産業21」)と連携して中小企業支援を行ってきました。今回、その前理事長の村田氏と6月からバトンを受け継いだ現理事長の上田氏を招き、京都産業のビジョンを語り合いました。
西脇 市場ニーズや産業構造がコロナ禍で大きく変化する中、緊急補助金の創設や相談窓口の開設、異業種企業同士をマッチングするフェアの開催など多岐にわたる支援を続けてきた結果、事業者の皆さんから意欲的な挑戦が数多く生まれています。
村田 昨年22回目を迎えた「京都ビジネス交流フェア」を開催したところ、2.6億円ものビジネスが創出されていて、取り組みの手応えを感じています。京都の企業の皆さんの技術力はずいぶんと高いですしね。
上田 私もフェアに行きましたが、買い物カゴの除菌装置「ジョキンザウルス」は非常に印象的でした。大手ショッピングモールと京都のものづくり企業とのマッチングで生まれた成果です。
西脇 フェアに限らず、感染症に強い社会を作るための研究開発や、図らずもできた時間を有効活用して新たな挑戦を行うなど心強い限りです。
村田 スピード感を持った開発や時期を逸しない市場投入もそうですし、各社が自社の強みに気付き、それを生かせるよう支援するのも、産業21の役割の一つだと考えています。
上田 そうですね。村田さんの跡を引き継いで、私も引き続きコロナ禍に負けない中小企業の支援を進めていきます。一方で、新たな産業の育成という点で、スタートアップ企業支援にも力を入れていきたいと考えています。
ものづくり企業同士をつなぐ京都最大級の展示商談会「京都ビジネス交流フェア2021」をリアルとオンラインのハイブリッドで開催
京都中小企業の事業活動の発展と京都産業の振興への貢献を目指す、産学公連携による中小企業支援機関。
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公益財団法人京都産業21 お客様総合相談窓口
TEL:075-315-8660
「京都ビジネス交流フェア2021」
「観光・伝統・食関連」産業連携事業緊急支援
「京都スタートアップ支援 エンジェルコミュニティ交流会」
※エンジェル=起業家に資金を提供する個人投資家のこと
西脇 府では令和2年6月に「新型コロナウイルス感染症対策危機克服会議」を立ち上げ、商店街・小売業、ものづくり産業、伝統産業、観光関連産業、食関連産業の5分野でそれぞれ課題を抽出し、戦略をまとめました。特に、ものづくり産業分野では4本柱でまとめ、今、上田さんがおっしゃったスタートアップ企業支援も柱の一つに掲げています。
危機克服会議ものづくり産業分野の4本柱
上田 コロナ前はどの産業も全体的に好調で、みんな伸びていく時期だったと思います。しかし、コロナ禍を経験して非常に厳しい状況に置かれた産業の一方で、逆にコロナによって生まれた新たな需要に対応した産業も出てきました。コロナ前には見過ごしていたものに気付いた面もあるでしょう。例えば、伝統産業と新たな成長産業とを融合する支援の形など、ものづくり産業にとどまらず、観光や飲食などにも広がっていけばと期待しています。
村田 そうですね。伝統産業の技術を新たなビジネスにしたいという取り組みは多々あるんです。技術はあるけれどマーケットとのつながりがなかったり、新しいビジネスとどうつながるのかが分からなかったりする事業者さんに、良きビジネスパートナーをマッチングするという面では産業21が結構お役に立っています。
西脇 伝統産業のマーケティングでいえば、コロナ禍で西陣織と京友禅と丹後織物の3産地が連携し、シルクテキスタイル・グローバル推進コンソーシアムができました。これも非常に意欲的な取り組みで、例えばインドの民族衣装サリーを作って富裕層向けの販路を目指すなど、海外市場への展開を始めています。技術力はもちろん世界に誇るレベルなので、ジェトロ京都とも連携して海外を展望すれば、ますますマーケットが広がると期待しています。
丹後で織られたシルクの生地に、豊かな色彩を手描きで表現する京友禅の一点もののサリー
西脇 村田製作所さんも島津製作所さんも、独自のコロナ関連技術で地域の安全・安心に寄与していただいていますね。
村田 一つは在宅療養されている方の呼吸音の変化をAIが解析してリモートで診断できる「オーロラスコープ」。知事の話にも出てきました危機克服会議で「チャレンジプロジェクト」として採択していただいたもので、肺炎重症化の予測に役立ちます。また、府と長岡京市のセブン商店会と連携し、CO2濃度をモニタリングして換気を「見える化」する実証実験も行っています。
上田 当社はPCR検査試薬と検査装置を令和2年に出しまして、多くの医療・検査機関でお使いいただいています。また、下水中のウイルスを解析することで、その地域の感染状況を把握し、陽性反応があればヒトを検査して感染者を特定するという「2階建て」の検査システムの実証実験を「京都モデル」として京都府・京都市との連携のもと実施しました。これは、感染の予兆を察知するために非常に重要な取り組みです。
西脇 村田製作所や島津製作所のように、新型コロナの検査や療養、疫学調査などの分野においても、京都の技術力を生かした積極果敢な挑戦が数多く芽吹いています。これまでつながりのなかった企業同士が連携し、それぞれの強みを活かしたビジネスモデルを生み出す「助け合いの輪」も広がっていて、大変心強く、誇らしく感じ、また期待もしています。こうした動きについても、引き続き支援していきたいと考えています。
京都の技術力を活かした積極果敢な挑戦を、誇りに感じて。
西脇 私が脅威として常々感じているのが、日本が抱える少子高齢化と人口減少社会という構造的課題です。これもコロナ禍により加速されている可能性があるんです。京都産業を支える労働力を今後どのように確保していくのか、労働力不足が重要な課題となる一方、労働者の意識も年々変化しています。昔は20代で勤めたら同じ会社で同じ仕事をし、定年後は第2の人生…。今はそのような終身雇用が当たり前ではなくなりました。こうした働き手の意識の変化について、どうお感じでしょうか。
村田 企業規模によって違うとは思いますが、当社の場合は社内ベンチャーのような新事業を自分たちでやりたいという人も出てきます。今後も従来のキャリアプランだけではない働き方を提供できる体制づくりが必要になってくるだろうと考えています。
上田 おっしゃる通り、今は情報化社会もあって考え方も多様になっています。昔は副業など考えられませんでしたが、今はいったん会社を離れて異分野を経験し、また戻ってきてもいいよ、という雰囲気にもなりつつあります。今までにない働き方を排除するのでなく、柔軟に対応すべき時代になったという気はしますね。
西脇 一方で、国外に目を向けると、原油高や半導体不足が各国の産業に打撃を与えています。こうした情勢についてはどうお感じでしょうか。
上田 原油高を技術開発の視点で見ると、これまで石油を使っていたものづくりを見直す機会になります。今アメリカを中心に、微生物を活用したバイオエコノミー社会へと動きつつある。もう一つはいつまでも火力に頼らず再生エネルギーの比率を上げる必要があるでしょう。サプライチェーンの分断については、部品を開発している人たちがどういう方向を見ているのかを見据えながら、われわれも部品の採用方針を変えていく、新しい時代の部品を使った製品開発をしていかなければならないなと感じています。
村田 われわれの業界では米中対立の深刻化も懸念しています。中国で雇用もしていますし、半導体不足やサプライチェーンの分断もありますが、日本に目を向けると先ほどからおっしゃっている労働力不足に行き当たるなど、なかなか良い解がないというのが現状ですね。
西脇 京都には、明治維新後の産業復興で伝統的な技術を活かしてイノベーションを起こした歴史があります。守るべきものを守り、変えるべきものは変える柔軟性があります。根底にある文化、受け継がれてきた技術や地域が持つ力。これらを産業に活かしているところは多分にあるんじゃないかと。これは京都ならではの強みです。
上田 強みという視点では、各企業の独自性が強く、他とあまり被(かぶ)らない。これが産業の奥深さにもつながっているように思います。あと、本社を京都から移さないことも、地に足のついた経営につながっていると思います。
村田 産業の分野では、40社近くのものづくり企業が「京都試作ネット」に参画し、新しいものを作りたい人が声を掛ければ迅速にアクションを取れる態勢づくりができています。これも京都の強みの一つといえますね。
西脇 こうした強みを、先ほども触れたスタートアップ企業支援に活かしたいと考えています。京都発展の原動力として、斬新な発想で世界に打って出ることができるスタートアップ企業を育てていくのが目標です。
上田 産業21でも京都ゆかりの企業経営者や投資家がスタートアップ企業との交流の機会として「京都スタートアップ支援エンジェルコミュニティ」の取り組みなどを進めていて、大手企業との協業の実現など成果が出始めています。
村田 私どもはセンサーを電子部品として市場に供給する側ですので、そうした部品を提供し、それで何ができるかをスタートアップ企業の方々に考えていただき、ピッチ(プレゼンテーション)イベントを実施するなど、こうした方面に力を入れていきたいと考えています。
西脇 なるほど、テーマを絞った形でピッチを行うというのも面白そうですね。
上田 先端技術と伝統のコラボは可能性を秘めていますよね。最近興味深いと思ったのが、茶師や酒蔵などが分野を超えたコラボで作ったクラフトリキュール。当社で宇治茶のカテキンなどの成分の効能に関する研究をやっているので、そうした科学的な知見も取り込むと京都の産業が活気づくことにも期待しています。
西脇 コラボが叶(かな)うのは、地域の絆の強さがあってこそなんですね。そして産・学・公も非常に近い。端緒が見えてきたPOSTコロナを見据えながら、知恵と連携の力で挑戦を続け、共に京都の産業を元気にしていきましょう。
村田 恒夫氏
上田 輝久氏
西脇 隆俊 知事
村田 われわれは電子機器によって皆さんの生活を豊かにできるよう企業活動をさせていただいています。皆さんの健康維持や子育てなどをサポートし、若い方々の活躍の場を提供できれば幸いです。今年一年が皆さまにとってよき年となりますようお祈りいたします。
上田 若い方々には、三通りの夢を持っていただきたい。一つ目はちょっと頑張れば達成できる夢。二つ目はそこそこ努力しないと達成できない夢。三つ目はこれが達成できたら素晴らしいなという夢。そんな三つの夢を胸にさまざまなことに取り組み、幸多き一年をお過ごしください。
西脇 約二年にわたり新型コロナ対応で、ご不便とご負担をおかけしておりますが、皆さんのご協力のおかげで、何とかそれぞれの波を乗り越えてまいりました。心から感謝申し上げます。この一年、府民の皆さんの生命と健康を守り、安心して医療が受けられる体制を構築しながら、普段の日常に戻せるよう努めてまいります。本年もよろしくお願いいたします。
1951年生まれ。1974年、村田製作所入社。ドイツ現地法人社長、取締役、副社長などを歴任し、2007年に父・兄を継ぎ代表取締役社長に就任、2017年より現職。2021年度京都府産業功労者表彰を受彰。
Q.座右の銘は?
A.モノづくりは人づくり
Q.子どもの頃の夢は?
A.大きなことにチャレンジすること
Q.府内のお気に入りスポットは?
A.善峯寺(西京区)の四季
Q.好きな食べ物は?
A.ステーキ(牛肉)とワイン
Q.ストレス解消にはコレ!
A.蘭(らん)の育成と写真撮影
1957年生まれ。1982年、島津製作所入社。1995年、京都大学博士号(農学)取得。分析計測事業部品質保証部長、執行役員分析計測事業部副事業部長、取締役分析計測事業部長などを経て、2015年6月より現職。
Q.座右の銘は?
A.寧静致遠、至誠通天
Q.子どもの頃の夢は?
A.教師(教員免許も取得済みです)
Q.府内のお気に入りスポットは?
A.山科疏水(琵琶湖疏水)
Q.好きな食べ物は?
A.スパイスカレー、蕎麦(そば)
Q.ストレス解消にはコレ!
A.推理小説、歴史本、サッカー
1955年生まれ。2018年、第51代の京都府知事に就任。「現場主義の徹底」「前例にとらわれない」「連携にこだわる」をモットーに府政運営を進める。子育て環境日本一を掲げ、自ら現場に足を運ぶ。
Q.座右の銘は?
A.雲外蒼天
Q.子どもの頃の夢は?
A.野球選手(中学・高校時代は野球部でした)
Q.府内のお気に入りスポットは?
A.貴船
Q.好きな食べ物は?
A.蕎麦
Q.ストレス解消にはコレ!
A.ジョギング(フルマラソンは4時間前後で走ります)
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