選定理由 |
国内で最初に褐簾石の結晶が発見された地域である。褐簾石は花崗岩中の副成分鉱物としては普通の鉱物であるが、本地域の褐簾石は顕著に含まれており、また、結晶が整っていることでよく知られている。 |
分布 |
国内では本地域と同様の産状を示す地域は各地の花崗岩から知られている。また、近畿地方では大阪府や三重県の花崗岩質ペグマタイト中の大きな結晶が知られているが、結晶形は明瞭でない。府内では丹後半島の宮津花崗岩中のペグマタイトからも産出する。 |
特徴(特異性) |
比叡山地域に露出する黒雲母花崗岩体の主要な副成分鉱物である(益富・内山、1940)。採取に適した地域は岩体南部の池ノ地蔵東方の旧採石場跡、および付近の花崗岩中である。旧採石場跡の洞くつ中の風化砂の中から多くの分離結晶が見つかる。また、北白川から滋賀県大津市山中へ至る道路沿いの露頭や白川の河床でも褐簾石が多く認められる。径約1mm、長さ6mm前後、黒色または褐色不透明で単斜晶系の明瞭な結晶形を示す。成分中にセリウム、イットリウム、トリウムなどの稀元素を多く含む。トリウムによる弱い放射能がある。褐簾石に伴なって変種ジルコンやユークセン石などの放射能鉱物もしばしば認められる。 |
現状 |
比叡花崗岩中にはいたるところに褐簾石が含まれている。 |
保存に対する脅威 |
かつて近傍の比叡平の露頭にも褐簾石が含まれていたが、住宅地開発のために露頭は失われてしまった。今後、同様な開発によって露頭が消失する可能性がある。 |
必要な保全対策 |
露頭保全のために花崗岩体中のどのような部分に褐簾石が多く含まれるか調査する必要がある。 |
特記事項 |
本花崗岩中の地下水にはほとんど放射能がある。北白川の単純放射能泉は放射性鉱物に由来するラドンを起源とするらしい。花崗岩の副成分としては他に燐灰石や鋭錐石がみられる。 |