選定理由 |
堆積岩が広範に分布する地域の中に岩株状に露出している。岩体は白亜紀前期に形成したものと考えられ、近傍の花崗岩体より古い。また、磁鉄鉱系列の花崗岩に分類され、Srに富むアダカイト質の化学組成を示すなど、西南日本内帯では非常に珍しい岩体である。 |
分布 |
磁鉄鉱系花崗岩は日本海側に多く分布し、白亜紀アダカイト質の花崗岩類は岩手県にまとまって分布する。府内では左京区花背別所を中心として、周辺に同様な小岩体がある。 |
特徴(特異性) |
長径約800m、短径約250mでN60°W方向に延びた楕円形を示す。丹波帯I型地層群の泥質岩優勢層に非調和に貫入する。周辺の堆積岩は熱変成作用を受けて硬化しており、少なくとも貫入岩体から1kmにわたって白雲母が接触変成鉱物として生じている。黒雲母も少量ながら認められる。岩体の産状は木住川の河床(約12mの範囲)および右岸の道路沿い(約50mの範囲)で観察できる。岩体には約20cm間隔で節理面に沿って硫化鉄鉱が二次的に生じていることもある。また、北西〜南東方向の石英脈(幅1〜2cm)や珪長質脈(最大幅5cmで主に石英とカリ長石からなり、黄鉄鉱(立方体の結晶)を含み、ミアロリチック空隙が見られる)も発達している。主岩相は中〜細粒(径1〜3mm)で斜長石の結晶(長径2〜8mm)がめだつ完晶質弱斑状の黒雲母角閃石石英モンゾ閃緑岩である。斜長石、石英、角閃石、黒雲母およびカリ長石からなり、副成分としてチタン石、磁鉄鉱、燐灰石、ジルコン、褐れん石を含む。角閃石は半自形〜自形結晶として産し、帯青緑色から緑色のZ軸色を示すものが多い。黒雲母は半自形〜自形結晶で暗褐色から褐色のZ軸色を示すものが多い。角閃石の内部にパッチ状に産する黒雲母も多い。角閃石K-Ar鉱物年代として106.5±5.5Maの測定値が得られている。本岩体の主岩相の化学組成は主成分ではNa、微量成分ではSrに富み、Yに乏しい。このような特徴はスラブメルト起源のアダカイト質マグマが本岩体の形成に関わったことを示唆している(貴治ほか、1995;貴治ほか、2000)。 |
現状 |
道路沿いの露頭は風化が著しく、岩石の崩落も激しい。山林には転石が多数認められるが表土によって露頭の産状は不明瞭になっている。木住川の河床の露頭は小規模であるが、新鮮な試料を得ることができる。 |
保存に対する脅威 |
生畑周辺の道路建設や拡幅工事、宅地開発によって岩体の一部が失われたり、露頭が人工物によって被覆される可能性がある。 |
必要な保全対策 |
岩体の地質学的、岩石学的意義を広く訴え、数少ない露頭を保存する努力が必要である。 |
特記事項 |
生畑岩体の東方にも小規模な花崗岩質岩体が少なくとも2ヵ所に認められ、地下深部では東西方向に岩体が潜在している可能性がある。安鳥の露頭付近には鉱泉が存在する。 |