選定理由 |
丹波帯のI型地層群を貫く花崗斑岩が石英閃緑斑岩と重複岩脈を形成している。前者は白亜紀新世の貫入であると考えられ、後者はアダカイト質で周辺の白亜紀古世のアダカイト質花崗岩と成因的に一連のものと考えられる。重複岩脈は府内でも珍しい。 |
分布 |
花崗斑岩岩脈は国内の各地で花崗岩体と密接に産する。府内では、比叡花崗岩を貫く南北方向の岩脈がよく知られている。他に宇治市北方や山科区音羽山にも花崗斑岩岩脈が分布している。しかし、重複岩脈は知られていない。 |
特徴(特異性) |
岩脈は幅約40mで露頭の北部に幅5mにわたって石英閃緑斑岩の岩脈が接している。花崗斑岩側には流動分化作用の結果、形成されたと考えられる斑晶に乏しい岩相が認められる。また、石英閃緑斑岩側には、石基を構成する石英が粗粒化し、熱変成作用を受けたと思われる部分が認められる。それぞれの岩相に発達する節理の方向や傾斜が異なることから、本露頭は、最初に石英閃緑斑岩岩脈が形成された後、花崗斑岩岩脈が形成されたことがわかる。石英閃緑斑岩は角閃石と斜長石の斑晶を含み、他の露頭から得られた試料の化学組成は主成分でNaに富む。微量成分ではSrに富み、Yに乏しい、いわゆるアダカイト質の組成を示すことから、近傍の白亜紀前期に形成したと考えられるアダカイト質花崗岩類と同じ火成活動の産物と考えられる。一方、花崗斑岩は周辺地域の花崗斑岩や石英斑岩などの酸性岩と同様、白亜紀新世に形成したものと考えられる。すなわち、本露頭は長い時間間隙をおいて、二種類のマグマが同じ断裂に貫入した結果、形成されたと考えられる(貴治、1984)。 |
現状 |
本露頭は、道路沿いにあることから、崩壊防止のためにセメントが吹き付けられている。付近の山地内部や道路東側を流れる灰屋川の河床にも露頭が認められる。 |
保存に対する脅威 |
周辺の道路建設や拡張工事などによって岩体の一部が失われたり、露頭が人工物によってさらに被覆される可能性がある。 |
必要な保全対策 |
岩体の地質学的、岩石学的意義を広く訴え、数少ない露頭を保存する努力が必要である。本地域は将来的には様々な用途(特に観光資源)で開発される可能性があり、機会を捉えて保全の意識を高める必要がある。 |
特記事項 |
花崗斑岩については大きな転石も多く、一部は石材として利用されている。また、本花崗斑岩岩脈は東西方向に15km以上追跡することができる。ただし、他の露頭では重複岩脈の産状は見られない。 |