選定理由 |
大谷鉱床は白亜紀の花崗岩体中の割目を充填した錫・タングステン・石英鉱脈で、タングステンの産出量ではかつて国内でも最大規模であった。現在は閉山したが地下にはまだ未開発の鉱脈が多数存在する。行者山には鉱脈と関連した石英脈が発達し、珍しい二次鉱物が産する。 |
分布 |
規模の大きなタングステン鉱床は茨城県高取、山口県喜和田(スカルン鉱床)から知られ府内には鐘打や和知鉱床がある。 |
特徴(特異性) |
丹波帯I型地層群を貫く3km四方の行者山花崗閃緑岩体中の割れ目を充填した深成高温タングステン・錫・石英鉱脈で、花崗岩と成因的な関連があると考えられる。割れ目は北東―南西、北北東―南南西の方向をもつせん断性である。N40°E方向の鉱脈が主要で、脈幅は1.5m、延長は700mである。雁行状配列する。岩体北西部の神前地区の鉱脈群は露頭部でも坑内でも錫石がかなり多く認められ、また鉱脈は80以上になる。鉱石は灰重石、黄銅鉱、錫石、磁硫鉄鉱、硫砒鉄鉱、閃亜鉛鉱、黄鉄鉱、黄錫鉱、輝蒼鉛鉱、キューバ鉱、マッキーノ鉱、方鉛鉱などが認められる。脈石鉱物として白雲母、蛍石、電気石、方解石、石英などがあり、現在66種類の鉱物が確認されている。灰重石には黄褐色のものと黄白色のものがある。いずれも白雲母と密接な共生関係を示す。錫石は大きな結晶が産することで有名である。行者山の採石場では花崗岩中にグライゼン化した大量の白雲母を伴った石英脈がしばしば発達しており、径数mmの灰重石や錫石が含まれている。 |
現状 |
大谷鉱山は現在閉山しており、過去の鉱害問題も影響して再開の見込みはない。行者山の山頂の西方約500mの位置には多種類の鉱物を産した繁恵坑のズリがあったが、現在採集は困難である。神前方面に流れる小川の砂礫からは錫石の結晶が採取できる。鹿谷から神前に至る南北方向の林道に沿って、鉱物の採取は可能だが、種類は少ない。大谷鉱山の坑口はその多くが崩壊して埋まったり、閉鎖されている。しかし、一部の立坑坑口は存在している。(長原、1969:高田、1966) |
保存に対する脅威 |
地下の鉱脈については閉山された現在、保存された状態になっているが、地表の鉱脈露頭や、鉱物を含む石英脈露頭は消失する可能性がある。 |
必要な保全対策 |
かつての鉱山跡地として整備し、保存する努力が必要である。採石場については、新たな鉱脈や石英脈が露出した場合には保存する手だてが必要である。 |
特記事項 |
行者山の花崗岩は鞍馬石石材の代用として採石されている。かつての鉱山事務所跡地には石材加工場が建設されている。 |