選定理由 |
国内における重要なペグマタイト鉱物産地の一つで、世界的にも珍しい希元素鉱物が黒雲母花崗岩中のペグマタイトに産する。ペグマタイトは花崗岩体の浅所に分布することが多く、露頭消滅の可能性が高い。 |
分布 |
ペグマタイトは日本各地の花崗岩体に見られるが産出する鉱物の種類や組み合わせは地域ごとに特徴がある(例、滋賀県田上山のトパズ、岐阜県苗木のサファイア、福島県水晶山のフェルグソン石など)。府内では京都市左京区の比叡花崗岩、亀岡市畑野の剣尾花崗岩など各地の花崗岩体に小規模なペグマタイトが見られる。 |
特徴(特異性) |
ペグマタイトを胚胎する黒雲母花崗岩はこの地域に広く分布する粗粒の宮津花崗岩を貫き、小岩体をなして分布する。ペグマタイトはこの小岩体の先端部に見られる。大路のペグマタイトの露頭は2ケ所で認められる。北西〜南東方向に延び、最大幅20mのレンズ状をなすペグマタイトは長石と石英を主とし、かつて珪石を目的に採掘された(旧大成鉱山、現在は磯砂鉱山に改称)。このペグマタイトの長石帯にトルトベイト石、バストネス石、フェルグソン石、ジルコンが見られる。近傍の黒雲母を特徴的に含むペグマタイトでは塊状の磁鉄鉱を伴う長石中にフェルグソン石、ジルコン、褐れん石、バストネス石、パイロクス鉄石、チタン鉄鉱、閃亜鉛鉱などが見られる。トルトベイト石はペグマタイトから産する世界的に稀な鉱物で、国内では本地域以外に京都府中郡河辺白石山でわずかに産するだけである。(Sc,Y)2Si2O7の化学組成を持ち、単斜晶系に属す。大路では長石中に径1〜8mm、長さ10cm以下の柱状結晶をなして含まれる。結晶は同一方向に並んでいる。また、特徴的な双晶をなす。帯緑灰〜灰緑色、透明〜半透明で、ガラス光沢を示す。大路のバストネス石は日本初産の自形結晶である。(Ce,La) (CO3)Fの化学組成で、六方晶系に属する。径1.5mm以下の六角柱状結晶をなす。淡黄褐〜赤褐色で透明〜半透明である。日本初産のフッ化セリウム石(Ce,La)F3を伴う。パイロクス鉄石は1970年アポロ11号により月で発見された鉱物で(Fe,Mn)7Si7O21の化学組成を示す。日本では本地域以外に大路東方12kmに位置する岩滝町男山のペグマタイトから見い出されているだけである。(益富・内山,1940;山田ほか,1980) |
現状 |
希元素鉱物を多産する重要なペグマタイトの石英は珪石原料として以前から採掘されていた。1978年に磯砂鉱山として再開されたが、わずか2年で閉山した。付近の花崗岩中には小規模なペグマタイトが多く胚胎していると考えられるが、石英、長石以外にどのような鉱物が含まれているのかは不明である。宮津花崗岩中のペグマタイトにはフェルグソン石やジルコン、チタン鉱物が普遍的に含まれているものと思われる。 |
保存に対する脅威 |
鉱山の再開や建設工事などによってすでに露頭の破壊は始まっている。丹後半島の山間部の土地開発や道路建設によってさらに露頭が失われる危険性がある。 |
必要な保全対策 |
鉱山再開の折には地下部分の長石帯や石英帯から希元素鉱物が発見される可能性がある。また、近傍の山中にも同様なペグマタイトが存在する可能性があり、土地開発の際には鉱物を多く含む、北西方向に延びる石英脈の分布をおさえる必要がある。 |
特記事項 |
大路はかつて大呂と呼ばれていた。本地域のペグマタイトからはチタン鉄鉱、板チタン石、鋭錐石、ルチルといった同質異像のチタン酸化物も多産する。 |