1.京都府の菌類相
菌類は藻菌綱(Phycomycetes)(=単毛類亜綱、二毛類亜綱、不動類亜綱)、子のう菌綱(Ascomycetes)
(=原始子のう菌亜綱、真正子のう菌亜綱)、担子菌綱(Basidiomycetes)(=半担子菌亜綱、異担子菌亜綱、
同担子菌亜綱)及び不完全菌綱よりなる。この膨大な菌類フロラの調査は現在ほぼ皆無の状況であるといってよ
いほどである。
それで、現状から全範囲にわたる調査は不可能であると考え、ここでは一般的にいわれる肉眼で見えるきのこ
類の範囲にした。また、変形菌類も省いた。
つまり、担子菌綱(類)の一部で異担子菌亜綱ではキクラゲ目、シロキクラゲ目、アカキクラゲ目。同担子菌
亜綱ではハラタケ目、ヒダナシタケ目、腹菌類。子のう菌綱(類)ではその一部で、不整子のう菌亜綱、盤菌亜
綱ではオストロパ目、ビョウタケ目、チャワンタケ目、塊菌目。核菌亜綱では麦角菌目、肉座菌目、クロサイワ
イタケ目で、不完全菌綱の一部を合わせた分野である。
この分類群だけでも膨大な種数で、長年にわたった全域調査で明らかになるだろうが、まだまだ今回が初めて
である。京都府レッドデータブックの趣旨に基づき、きのこの分野も北は日本海側から南は奈良県境まで調査し
たが、どうしても全体的に不揃いの調査とならざるを得なかった。
分類項目については、今関・本郷著、日本新菌類図鑑I、IIと照合し、伊藤・大谷著の日本菌類誌第3巻第2
号を参考にして配列した。
レッドデータの基本的な考え方からいって最も大きく作用するのは、きのこの発生する環境である。
きのこの生活サイクルを見ると変化の激しいのは腐生菌である。動植物の堆積物、倒木朽木、切株等の存続の
有無から採集結果が急に変化していく。ウスキキヌガサタケ、アカイカタケ、ウロコケシボウズタケ、マグソヒ
トヨタケ、ツガノマンネンタケ、キンチャクタケ、カゴタケ、キイロスッポンタケ、イカタケなどがある。既に
何年も発生を見なく、忘れられているものが多い。
樹木立枯れ、伐採、日照状況、雨量、気温、樹種などの変化は菌根菌の盛衰に関係する。
タマノリイグチ、コウボウフデ、キタマゴタケ、アミメニセショウロ、アカダマタケ、クラマノジャガイモタ
ケ、ショウロ、イモタケ、クロアミメセイヨウショウロ、マツタケ、マツタケモドキ、ショウゲンジなどは特定
の地域や場所にあって激減し、衰退の一途をたどっていることが判明してきた。
さらに昆虫、クモなどを寄主とするきのこは寄主の発生、衰退などの変化が激減、漸増に関係し、セミノハリ
センボンやオオセミタケ、ハナサナギタケが漸増して、セミタケ、アワフキムシ、コニシセミタケ、ウメムラセ
ミタケ、ウンカハリタケ、マイヅルヨコバイタケ、マイヅルナガエムシタケ、オサムシタケなどは2回目の発見
が容易でなく、10年〜20年の間隔があくこともある。
2.種の選定基準
基本的な考え方
1.一度発生し、確認して20〜40年の長期にわたって発生を見ない種がある。それが突然に発生し、再発見と
なる。アカイカタケ、タマノリイグチ、シマイヌノエフデ、イモタケ、クロアミメセイヨウショウロなど
多くがあり、冬虫夏草の中にも多い。
2.環境省のレッドデータブックに選定されているかどうか。選定種には、ウスキキヌガサタケがある。
3.樹木と共生しているきのこ、堆積物などに腐生しているきのこ、生きた寄主に攻撃を加えるきのこなどに
より、それぞれ変化が起こり、激減し、発生数が少なくなっていく。
4.府内の特定地域にあるのか、全国的に広く分布するのか。特定地域であれば注意し、情報不足のため十分
把握できないことはないかを選定基準とする。
3.選定種の概要
京都府レッドデータブックでの限定種は72種になった。絶滅種5種(ハラタケ目1種、腹菌類4種)のうち、
環境省の絶滅危惧種ウスキキヌガサタケがある。現在、判明しているのは広島県、大分県、熊本県、宮崎県発生
を確認しているが、京都府では既に絶滅している。
絶滅寸前種は33種(担子菌類ではハラタケ目5種、ヒダナシタケ目1種、腹菌類10種:子のう菌類17種)。環
境の悪化が原因。とりわけ共生菌については減少の傾向にある。ついで、準絶滅危惧種は25種(担子菌類ではハ
ラタケ目9種、ヒダナシタケ目1種、腹菌類4種:子のう菌類11種)。
さらに、情報不足種を要注目種として9種(担子菌類ではハラタケ目2種、腹菌類4種:子のう菌3種)をあ
げた。
日本全体のきのこの分布はまだ十分わかっていない。その上、京都府きのこ全種リストの作成の際に委員は互
いに話し合い、選定を続けてきた。そして72種となった。いろいろな意見があり、客観的に十分な討議がなお必
要であるが、現状としてはやむを得なかった。
このような調査をさらに重ねていくことによって、より客観的な選定になっていくであろうことに期待し、今
回の第1段階ができ上がったのである。できれば今後、菌類全体にわたる調査が進められることを願っている。
執筆者 吉見 昭一・上田 俊穂・小西 思演・久田 晴生
|