選定理由 | 京都の昆虫研究家であった鈴木元治郎氏が採集し、これを1916年に松村松年氏が記載したものだが、当時も稀なものでその後まったく報告がない。したがって実態がよくわからない種であるが、記載時に比較されているようにトラツリアブAnastoechs nitidulus に極めてよく似たものある。現在では恐らくトラツリアブと同種で、松村がこの種のオス個体をトラツリアブのメス個体と比較して別種と誤認したものであろうというのが、衆目の一致するところである。しかしたとえこの種と同種としてもトラツリアブ自体もまた現在、極めて稀な種である。1940年代愛知では少なくなかったとの記録もあるが、いま日本で確実な生息地は日本で2~3か所のみで、ともに存続が危惧される状態にある。この系統の種は中央アジアなど大陸の乾燥した草原地帯に多く、日本のような草原的環境が維持されにくい湿潤な気候ではもともとから局所的であったと考えられる。一方、近世以降の里山的環境の拡大がこの種の存続に寄与してきた可能性も充分にある。このようにわずかに保たれていた環境を代表し、存続してきた貴重な種である。 |
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形態 | 大型のツリアブで体に綿毛のような灰白色の長毛を装う。ビロウドツリアブに似るが、翅に明瞭な斑紋がなく、区別は容易。より正確には本種は頭部と胸部の幅がほぼ等しいこと。ビロウドツリアブは頭部の幅が狭い。 |
分布 | スズキツリアブを独立種とすれば京都のみ。トラツリアブと同種とすれば、本州、四国、九州、中国、ヨーロッパ、北米。 ◎府内の分布区域 府内の分布区域記録は「京都」のみで詳細は不明。 |
生態的特性 | 幼虫は恐らくバッタの卵に寄生する。トラツリアブと同種とすれば、現在その種の候補としてセグロバッタが挙げられているが、ただしこれも確認はされていない。成虫は秋に現れ、活発に飛翔し花から吸蜜する。それは本来はキク科等が主体なのだろうが、最近の記録では多く外来種のセイタカアワダチソウから吸蜜している。この点でも生息地の環境の劣化が見られ、存続に問題がある。 |
生息地の現状 | かつての生息地が特定されていないが、現在生息可能な程の環境と規模をもつ個所は極めて少ないと思われる。 |
生存に対する脅威 | 自然度の高い草原的環境が激減していること。 |
必要な保全対策 | まずは再発見が急務である。生息地において吸蜜植物を含め生息環境を広く維持することである。ただし自然によってこのような環境が供給されない以上、状況によっては草原を維持するための積極的な保全策が必要であろう。 |
改訂の理由 | 2002年版レッドデータブック作成時には、参照できる資料がほとんどなかったため、ひかえめな判断とせざるをえなかった。しかしその後の京都における調査および近隣地区の資料が増加したため、現時点において妥当と思われる評価に変更した。 |
文献 紺野(2004b)
執筆者 大石久志