は虫類の概要
京都府のは虫類相
これまでに京都府での定着が確認されているは虫類は、在来種カメ目2科4種、トカゲ(有鱗)目6科11種の合計8科15種と、外来種ミシシッピアカミミガメで、細分に伴う科数の増加以外は2002年版レッドデータブック作製時と変わりはない。このほかに外来種カミツキガメが定着している可能性もあるが、確認はできていない。
2002年版では在来種のうち、3種を除くすべてが、その分布域、個体数を激減させているか、生息情報の詳細が把握できていないと結論された。定着16種のうち、その後の調査で、生息数や分布域が安定ないし増大していると判定されたのは、外来種ミシシッピアカミミガメだけであった。一方、2002年版に掲載された種のうち、シマヘビは、その後の調査の結果、ほかのヘビ類よりも個体数も多く、それほど危機的状況ではないと判定された。2002年版掲載の在来12種のうち、シマヘビを除く11種については、当時よりも生息状況は悪化しているか、よくてもほぼ同様と見られる状況に留まっているか、相変わらず生息情報の詳細が把握できていない状態にある。
カメ類は水陸の生息環境を必要とするが、河川の整備や護岸工事は続いており、その影響で産卵場所が減少している。また、水田や湿地環境が道路建設や宅地化によって消失し、河川の水質の汚濁も悪影響をおよぼしており、産卵場所への移動の際に生じる交通事故死例も減少してはいない。交通事故死が見られなくなった場合は、カメ類がいなくなったことを意味する。
さらに、インターネットの普及によって、個人でも容易に取引ができるようになったため、商業目的の捕獲は増大している。外国人によるニホンイシガメ(イシガメ改称)の買い占めの影響が府下におよんでいる可能性もある。外来種ミシシッピアカミミガメの在来種との競合は各地で続いており、在来カメ類の生存に大きな影響を与えている。どこでも在来種は駆逐され、都市部では今では外来種しか見当たらない状態に加え、在来種間、在来種と外来種での交雑が引き起こされている可能性もある。クサガメでは輸入された中国産個体による遺伝子汚染に加え、おそらく外来種の影響で分布域の狭まったニホンイシガメとの交雑も増加している危険がある。
トカゲ・ヘビ類では、水田地帯の環境変化が最大の問題である。かつての普通種ヤマカガシは両生類を主な餌とするため、水田そのものの減少や圃場整備によってそれら餌動物が減少するのに伴って激減し、2002年版に掲載されたが、その後、低地ではほとんど見かけることがなくなってしまった。
一方、シマヘビも餌や隠れ家などの微環境が消失したため、かなり個体数が少なくなったものの、2002年以降の調査によって、その減少の程度はほかのヘビ類ほどではないと判断された。タカチホヘビとシロマダラは夜行性で、生息状況の情報不足の状態は続いているが、シロマダラについては偶然捕獲された場合に新聞報道されることがあり、それを見て各地から情報が寄せられることが多くなった。情報社会の恩恵と言えるかも知れないが、こうした過程で分布域が明らかになりつつある。
しかし、市街地においては、石垣が減少したため、ニホントカゲ同様に生息数が減少していることは間違いない。石垣を残す場合でも、隙間をふさぐ手法がとられるのでは、は虫類にとって何の意味もない。
低地に限らず、山地でも異常気象に伴う大雨、土砂崩れなど環境変化が続いているが、その結果は、は虫類にとってよい方向には進んでいないようだ。
種の選定基準
今回も選定に当たって以下の12項目を設け、それぞれの種の希少度を評価することとした。
(1)国、京都府、市町村指定の天然記念物および環境省レッドリスト2012年版に掲載されている。
(2)全国的に発見例が少ない。
(3)府内では発見例が少ない。
(4)京都府が全国的な分布の限界になっている。
(5)京都府にタイプ産地がある。
(6)府内における分布が局限されている。
(7)限定された環境を生息場所としているため、環境変化に弱く減少傾向にある。
(8)かつては府内外に普通に見られたが、環境変化により近年著しく減少している。
(9)府内の特定の地域において著しく減少している個体群を含む。
(10)環境指標性が高い。
(11)変異の分析ができておらず、今後の解明を必要とする。
(12)選定評価するだけの資料がない。
原則的にこれらのうち、3項目以上に該当するか、2項目以下でも項目(8)または(12)を含む種、項目(5)と(9)の両方に該当する種を、レッドリスト掲載候補種とした。
選定種の概要
以上の基準に基づいて検討した結果、京都府産のは虫類のうち、ニホンヤモリ、ニホンカナヘビ、シマヘビと外来種ミシシッピアカミミガメを除く12種すべてを、今回京都府レッドデータブックに掲載することにした。2002年版に掲載されたもののうち、シマヘビのみが除外されたことになる。
カテゴリーを検討した結果、府内に生息するは虫類には、相変わらず絶滅寸前種、絶滅危惧種と考えられるものはないものの、ほとんどの種が抱える多くの問題は、解決していないことが明らかになったのである。
カメ目では、イシガメ科のミナミイシガメが準絶滅危惧種に留まったのに加え、要注目種ではイシガメ科のクサガメとスッポン科のニホンスッポンに加え、2002年版ではリストに掲載さえされていなかったニホンイシガメが加わった。一方、トカゲ目では、2002年版で要注目種とされていたヤマカガシが準絶滅危惧種に変更された。トカゲ科のニホントカゲ、ナミヘビ科のタカチホヘビ、シロマダラ、ジムグリ、アオダイショウ、ヒバカリ、クサリヘビ科のニホンマムシは要注目種に留まり、シマヘビのみがランク外となった。
これらの変更のため、京都府に現在定着している在来種15種のうち、2015年版レッドデータブックに掲載されていないのはニホンヤモリ、ニホンカナヘビ、シマヘビとなった。京都府で記録されるは虫類在来種のすべてにおいて、生息環境の改善は見られず、依然として保護が必要な状況にある。今回も取り上げられなかったニホンヤモリ、ニホンカナヘビさえも分布域、個体数は危機的とは言えないが、減少傾向にあると思われる。
2002年版では、これらの種の保護、保全策が提唱されたが、その後目に見えるような対策はとられていない。相変わらず、は虫類に対しての保護や保全が問題にさえされていないようだ。このままでは、今回レッドデータブックに掲載された種も、今回は掲載されなかった種も、近い将来により高位のランクに選定し直さざるを得なくなるであろう。これらすべてのは虫類について、早急な保護対策が必要である。加えて、ミシシッピアカミミガメに代表される外来種への対応も緊急の課題である。
凡例
分類群の名称については日本爬虫両棲類学会の日本産爬虫両生類標準和名リスト(日本爬虫両棲類学会ホームページ)に準拠したが、目名については仮名書き一般名を用いた。また同一カテゴリー内での配列順序については系統分類学的関係を考慮した。
執筆者 松井正文