菌類の概要
菌界(Kingdom Fungi)は真菌界ともいわれる、「動物」や「植物」に匹敵する多細胞生物の大きなグループである。細胞内に核を持つ真核生物であり、多くが固着性の生物群である。原核生物である細菌やウイルスなどとは全く異なる。原生生物に属する変形菌などを含んで広義の菌類が定義されるが、より厳密には以下の菌界に含まれる範囲を指し、日常なじみのある呼び名で呼べばキノコ、カビ、酵母などとして一般に知られる生物群である。
他の生物群同様、菌類の分類体系は分子生物学の進展に伴い大幅な見直しの途上にある。
岩波生物学辞典(第5版)(巌佐ほか2013)に従うと菌類は真核生物ドメインのオピストコンタ上界(動物と同じグループ)に所属し、以下の様な分類体系になる。
菌界 |
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重相菌亜界(二核菌亜界)(Dikarya) |
担子菌門(Basidiomycota) |
子嚢菌門(Ascomycota) |
ツボカビ門(Chytridiomycota) |
ネオカリマスティクス菌門(Neocallimastigomycota) |
コウマクノウキン門(Blastocladiomycota) |
微胞子虫門(Microsporidia) |
グロムス門(Glomeromycota) |
接合菌門 Zygomycota(以下の4亜門は側系統群だが、門を認める意見もある) |
ケカビ亜門(Mucoromycotina) |
ハエカビ亜門(Entomophthoromycotina) |
トリモチカビ亜門(Zoopagomycotina) |
キックセラ亜門(Kickxellomycotina) |
※かつて不完全菌門に所属していた菌類は、系統関係をもつ担子菌門、子嚢菌門に再編されている。
これらは肉眼で観察できる大きさを持つキノコ類から、顕微鏡観察を必要とする微視的サイズのものまでを含むが、日本産既知種だけで12,928種(出川2003)を数える。ただし、微小な菌類のほとんどは地理的な分布が未解明である。このために京都府域の分布についてもほとんど情報がない。また、多くのレッドリストは野外観察での同定、確認が可能なもののみを対象としており、微小菌類を対象外、としているものが多い。
実際、評価可能な分布情報は大型菌類、いわゆるキノコに限られていることから、本調査は2002年版に従い、担子菌門、子嚢菌門の目視で観察できる菌類(便宜的に「大型菌類」、「キノコ」と呼ばれることが多い)のみを調査対象とした。変形菌類、植物病原菌類については目視観察も可能だが資料が不十分であり、将来の課題とした。今回の調査では、関西菌類談話会や幼菌の会、京都御苑きのこ観察会、日本冬虫夏草の会などの専門集団による菌類調査記録、各種公表されている文献、大阪市立自然史博物館の収蔵資料を重視して、情報の集積をはかり、1,355種を対象として調査した。こうした民間の研究者集団の充実は京都府の重要な財産である。
菌類相調査全体については吉見(2002)でも「不揃いな調査とならざるを得なかった」として調査が不十分であった事を述べているが、今回の調査でも状況の改善はあまり見られない。これは、京都府においては自然史博物館や生物多様性センターといった公的な生物多様性情報の集約施設がなく、継続的な情報集約ができないこと、前回調査で用いられた参考資料のほとんどが私的情報として埋もれていること、検証の根拠となる標本が私有状態で長く置かれ、再検証が可能な状態にないことに起因する。特に前回の調査の主力となった吉見昭一氏及び上田俊穂氏の死去に伴い、多くの知見が失われたことは痛恨の極みである。両氏の残した標本資料などの一部は、大阪市立自然史博物館により収蔵されたが、現在整理の途上である。両氏ともに京都のみならず菌類学への貢献をしてきた研究者であり、両氏が残した研究資料から労力をかけて府域の菌類情報を再構築することが必要となる。こうした事態を繰り返さず、安定したレッドリストの作成のために京都府域に独自の生物多様性情報の収集機関を整備することが重要である。現在京都に自然史分野でこの機能を代替することのできる大学機関は残念ながら見当たらない。行政と大学、さらに植物園や博物館など社会教育機関の連携の元で自然史博物館など情報収集体制構築を諮っていただきたい。
執筆者 佐久間大輔